第8号 連載コラム 映画から感じるフィールド
私は海外協力隊としてタンザニアで2年間を過ごした後、JICA業務を実施するコンサルタントをしています。現地での滞在期間が長い場合は、日本に帰ったら何をしようかと、考えながら仕事に励みます。
ただ、日本に帰ったら帰ったで、現地での生活や人々を想起させる何かを探しているような気がします。その手近な方法として、私は映画を観ることにしています。
いくつか印象に残っている映画をご紹介します。
「木靴の樹」
私が生まれる前にできた映画ですが、数年前にリバイバル上映されていました。19世紀末のイタリア北部の貧しい農村に住む人々の暮らしを丹念に描いています。
ところどころに、私が住んでいたタンザニアや仕事で行ったことがあるパキスタンと共通する日常を発見し、時代や国境を越えた人々の営みを感じることができました。
例えば、貧しい人々にとって「牛」がどれだけ大切か、ということが物語の終盤で切実に描かれます。牛が死んでしまうと生きていけない、牛を地主に取り上げられると生活できないという状況は、今でも現実に起きていることだろうと思います。
ほかにも、鶏糞を撒くことで少しでも早い時期にトマトを作ろうと試みるおじいさん、死んだ父親に代わって仕事に出る少年、近所の家の洗濯を請け負うお母さん、お話を語り合う娯楽の時間、貧しい家でもさらに貧しい人にご飯を施して祈る家族など、「あぁ、こんな風景見た」と思わずつぶやいてしまう暮らしが垣間見えました。
これほど丁寧に人々の生活を映し出す映画も珍しいのではないかと思います。ささやかな日常を見逃さずに描き出してくれた映画人がいてくれたことにとても感動しました。
「人間機械」
これは最近公開されていたインドのドキュメンタリー映画で、グジャラート州にある繊維工の内実に迫った作品です。
長時間労働を強いられるなか、立って作業をしながらウトウトしてしまう若者や、化学物質が垂れ流しにされていて、いかにも体に悪そうな劣悪な労働環境、染められた繊維製品の束がゴミのように投げ出される音、低賃金で長時間働き続けるしか選択肢がない労働者の怒りと諦めの混じった声など、あまりにも生々しく描かれており、途中で息苦しくなるほどでした。
そして、何より「ズキッ」とさせられたのが、この映画を撮っているカメラマンに向けられた人々の声でした。彼らはカメラマンを取り巻いて、「現状を知るだけで行動をしないのは、演説だけして帰る政治家と同じだ。本当に問題だと思うなら行動しろ」と訴えるのです。私も途上国の現場でインタビューをし、現場の写真を撮り、報告書を書くことを仕事としています。もちろん、その先にプロジェクト形成という展開があることが多いのですが、それでも、この声は現場に住む人々の正直な声だと受け止め、行動しなければいけないのだと改めて思いました。
松木 寛子
株式会社かいはつマネジメント・コンサルティング
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