第14号 連載コラム JICA Innovation Quest ~国際協力の新しい形を創る~「ジャイクエ、はじめます」(第5回)
ふっと吹けば消えてしまいそうな命。
西アフリカ・トーゴのとある孤児院。赤道直下の太陽を少しでも遮るために設けられた布っ切れの下、ゆりかごの中で静かに眠る未熟児の赤ちゃん。
弱々しく毛布を握るその手が、何とかこの世とその子を、繋ぎとめているようでした。
二十歳の時、初めての途上国、何百枚と撮った写真の中に、その子の姿はありません。それでも、脳裏に焼き付いて離れない記憶。
親に捨てられたのか、親が死んでしまったのか。孤児院でも何らケアをすることはできず、ただ死を待っているようにも見えた小さな命。もし日本に生まれていたら、きちんと病院で、保育器に入れてもらい、医師や看護師のケアを受け、元気に育っていたかもしれない。
「生まれたところで、命の重さが変わるのはおかしい。どうしたらそんな赤ちゃんを救えるのだろう?」
色々な原因はあるけれど、その多くは、途上国の政府が基礎的な保健サービスや教育の機会を提供する、ということに繋がっているのではないかと考えました。日本であれば当たり前にできていることを、途上国の政府でもできるように、そのためのサポートがしたくて、JICAへの入構を決めました。
入構して最初の部署は、保健医療分野の事業を実施する部署でした。昨年に異動した今の部署でも、保健医療や教育分野の事業を担当しています。
新人の頃は、目の前の一つ一つの事業にいっぱいいっぱいでしたが、最近では、JICAやODAの制度、ルール全体にも目が届くようになり、「もっとこういう制度があればいいのでは?」「このルール、こうやって改善できるのでは?」ということを考えられるようになってきています。
ジャイクエは、そうした問題意識を共有でき、改善のために取り組む機会となっています。「いい事業を作る」だけでなく、「いい仕組み、いい組織を作る」ことの面白さに気づいたタイミングで、それをどう実現できるのか、考えながらジャイクエに取り組んでいます。
入構した時は、途上国の政府にはないが、日本にはある、資金や技術、ノウハウを途上国に運ぶ仕事をしたいと思っていました。しかし働きながら、「日本にはある、途上国にはない」課題だけではなく、「日本にも、途上国にもない」そんな課題が、増えてきていることにも気づいてきました。
例えば保健分野では、感染症や母子保健といった長年の課題だけでなく、日本でも死因の大半を占める生活習慣病などの非感染性疾患への対応が必要な国が多くなってきています。
そんな中でジャイクエは、日本の国際協力の発想を転換し、新しい課題のための新しいアイディアがどんどんと生まれ、次々と実践できる場になればと思っています。
その先には、きっと、たくさんの「トーゴで出会った赤ちゃん」がいるのだと思います。昔誰かに聞いた話で、少数の富裕層から多数の貧困層へと続く貧困ピラミッドには、見えない逆のピラミッドがあるそうです。
”the vulnerable and marginalised”
(脆弱な人々、疎外された人々)は、普段我々が気が付かないようなところにいて、公共サービスなども届かない、という話です。そんな人々の「声なき声」を拾い、そこに届く国際協力をする、そんなアイディアが、ジャイクエの中で生まれるようにできたらいいな、と思っています。
JICA Innovation Quest チーム、資金協力業務部
山江 海邦
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