第50号 PARTNERコラム「現場主義」について思うこと

JICAで仕事をしていると「現場主義」という言葉をよく耳にします。現場主義とは相手国を尊重した協力・援助を目指すものであり、現場のニーズを汲み取り、事業に反映させようとする姿勢でもあります。JICAは2003年の独立行政法人化以来、現場主義を組織改革のテーマの柱として掲げ、事業を推進してきました。

その最たる例が「JICA海外協力隊」です。開発途上国のためにできることをしたいと志した青年が、見ず知らずの土地に派遣され、2年間にわたり現地の人々と生活し、時には衝突しながらも、共に課題を解決しようとするボランティア事業です。まさに最前線の現場で活動する国際協力と言えます。

しかしながら、今般、世界中で猛威を振るっているコロナウイルス感染症拡大の影響により、現地での協力隊活動が継続できなくなり、志半ばで日本への帰国を余儀なくされてしまいました。現場主義を貫いてきた協力隊活動そのものが方向転換を迫られたのでした。

そのような状況でも挫けず、諦めないのが協力隊員です。世界中が未曾有の混乱の中、「今だからこそできることをしよう!」と多くの協力隊員が立ち上がり、手探りながらも活動を再開させました。開発途上国に対するオンラインレッスン、SNSを通じた情報発信、活動報告会などセミナーの実施、パネル展による任国の紹介など、新たな取り組みが次々に生まれました。困難な状況を克服してきた経験を持つ協力隊員だからこそ、ピンチをチャンスと捉え、大きな力を発揮させることができたのです。

私は彼ら協力隊員によって気づかされたことがあります。日本国内であろうが、自宅の一室であろうが、そこは「現場」になりえ、国際協力の最前線であることには変わりがなかったということです。国際協力の現場とは、なにも開発途上国だけにあるものではなく、協力隊員一人ひとりに存在するものだったのです。

累計派遣者数が5万人を突破し、50年にも及ぶ長い歴史を持つボランティア事業が国内外から高い評価を受けている理由がわかった気がします。ウィズ・コロナの新しい時代における国際協力事業の真価が問われていますが、協力隊員ならではの地道な草の根交流活動が新たな価値を生み出し、それに応えてくれることと思います。

協力隊員から刺激をもらいつつ、国際協力に携わる者として、私自身も今だからこそできる業務に挑戦すべく、今日もJICAビルの「現場」へ向かいたいと思います。

JICA海外協力隊事務局
熊倉尚樹

毎週金曜日に配信している“PARTNERニュース”では、新着の求人・インターン情報/研修・イベント情報の受け取りの他にも、コラム掲載のお知らせもお届けしています。このコーナーでは、コラムの全文と過去アーカイブをお読みいただけます。

個人登録(「参加レベル登録」または「人材登録」)をして、是非、PARTNERニュースの購読をお願いします。