第69号 PARTNERコラム希望と葛藤の間でーカンボジアと共に歩む
とある月曜日の朝。いつもの如く、バタバタと子どもを送り出すと、電話が鳴り響きました。当団体で10年近く働く、小柄でひたむきな、カンボジア人の女性メンバーからでした。「家庭が大変で、少なくとも今月は働けそうにない―。」泣きながら声を絞り出してそう伝えてきた彼女の様子から、重大なことが起きたことはすぐわかりました。「また落ち着いたら教えてね」と伝えて電話を切りましたが、この時、私の中には二つの自分が存在していました。一つは、純粋に彼女を心配する自分。最近、彼女の家庭は不安定な状態が続いていたため、まず彼女の安否に不安を覚えました。もう一つは、残念ながら、「またか...」という思いを必死に抑える自分でした。事業に集中したいけれどなかなかメンバーが安定しない状態に疲労感がどっと押し寄せたのが正直な感覚です。
私自身は、2012年からカンボジアを拠点に、「誰もが自分らしく人生を切り拓いていける社会」を目指して、ソフトスキル育成を軸に事業を展開するNPOの経営・組織開発・政府連携事業を担当しています。自分がどれだけ考え抜き、行動できたかが直接プロジェクトに反映されることは、自主事業や現場を持つ組織だからこその醍醐味です。さらにそれが一人でも多くの「どうせ自分なんか」という気持ちを乗り越える一助になれるなら、これほど嬉しいことはありません。
しかし、駐在を始めてからの9年間、今回のように一緒に働くチームのメンバーの家庭の問題に頭を悩ませることは幾度とありました。その度に自分の無力さと、抗うことのできない巨大な力(ジェンダー、教育、経済格差など)の存在に気の遠くなる感覚を覚えました。そしてそれは、「目の前のメンバーを支えることができずになぜ今の事業がカンボジアの人々や教育・社会の変容に貢献できるのか」という痛い問いを突きつけられる瞬間でもありました。
ただ改めて思うことは、個人の安定が妨げられることが常々起きるこの状況こそ、カンボジアという国がまさに過去の凄惨を乗り越える途上にある証拠だということです。全てが整って物事が進んでいくわけではないこの国で、カンボジアのメンバーと日々葛藤しながら物事を進めるプロセスに意義があり、それが国際協力という仕事の一端なのではないかと感じます。同時にこの過程は、自身の中に根付く価値観、美徳、囚われに常に向き合えているかどうかを試されるものとも感じます。きっと、目の前の一人の人間に真摯に向き合うことは、国際協力の第一歩でありながら究極的なゴールであるがゆえ、自分自身の変容なくして成し得ないものなのだろうと思います。
今もまだ彼女は問題の渦中にいます。この彼女との葛藤のプロセスにきっと希望があると信じ、「国際協力」云々以前に、ひたむきに向き合い続けられる人でありたいと考えています。
特定非営利活動法人SALASUSU
COO / カンボジア連携部門・人材組織開発部門
須藤菜々子
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