第73号 PARTNERコラム本から得られるヒント~2020年のマイベスト2冊~
私が国際協力に携わり始めて約15年が経ちました。現在は岡山県に本部を置くNGOの職員としてネパールに駐在し、母子保健や収入の向上など、さまざまな目的を持つ事業の実施運営を担っています。そしてより良い運営を目指す上で、インターネットはもちろん、一時帰国の度に訪れる本屋で出会う書籍からも新しいヒントを得ることが多くあります。今回は、昨年出会った中でも特にインパクトの大きかった2冊をご紹介します。
①『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』日経BP, 2019
正しい情報とデータに基づき、世界の状況について正しく理解することを教えてくれるこの本は、全ての人に読んでいただきたいものです。発行部数はすでに100万部を超えているとのことで、読まれた方も多いと思いますが、私はまず、見開きの統計図表に引き込まれるように見入ってしまいました。そして現場にいる駐在員として、「ネパールは外国の支援を受けながらも、確実に発展の道を歩んでいるという事実も積極的に伝えていかなければいけないな」と、広報面での課題に思い至りました。
支援の必要性を訴える時は、その国の悪い状況をつい強調してしまいがちです。しかし、良くなってきていることもたくさんあります。例えば、ネパールは2000年から2010年にかけて妊産婦死亡率(出生10万対)を415から229に減少させた顕著な功績が認められ、ミレニアム開発目標賞(MDGs Award)を受賞しています。もちろん日本と比べれば依然として高い数値ではありますが、改善傾向にあることは確かです。
テレビやインターネットなどから多くの情報を入手することができるようになった一方、真実を見極めることが難しくなった現代において、この本は、現場から情報発信することができる立場にある私に、事実を的確に伝えていくことの重要性について改めて考える機会を与えてくれました。
②『医療現場の行動経済学 - すれ違う医者と患者』東洋経済新報社, 2018
2017年にリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞し、行動経済学が再び脚光を浴びたことを機に私も興味を持ち始め、それ以来、特に「ナッジ理論」を保健啓発活動に取り入れることはできないかと模索し続けています。「ナッジ」はもともと肘で軽く突くという意味で、人々に強要するのではなく自然に行動が変わるよう促す工夫やアプローチが「ナッジ理論」と呼ばれるものです。つまり、活動の裨益者に努力を求めることなく、ちょっとした「ナッジ」によって健康に関する意識の向上や行動変容を促すことができれば、と考えているのです。
この本でも、乳がん検診やワクチン提供の案内通知・チラシの内容と、受診・接種率との関連性についての研究結果が提示されつつ、広報物のデザインや啓発メッセージのほんの少しの違いが、人びとの行動選択に変化をもたらすことが述べられています。こうした事例を参考に、現地スタッフとともに試行錯誤しながら、より効果的な啓発活動に取り組んでいきたい! そんな気持ちを後押ししてくれた一冊です。
特定非営利活動法人AMDA社会開発機構
海外事業運営本部
奥田鹿恵子
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