第104号 PARTNERコラムパラオ・忘れ去られた島民~ちょっとした一言~
日本から真南に約3,000km離れた場所に、340以上の島々からなる大洋州の国、パラオ共和国があります。日本の屋久島と同じくらいの面積に約18,000人が住むこの国で、現在私はNGOの現地事業調整員として生活習慣病予防の事業担当をしています。
生活習慣病が蔓延している地域として知られている大洋州において、パラオも例外ではなく、死因の約7割が生活習慣病に起因していると言われています。そのパラオで実施している生活習慣病予防事業の1つが船を使って離島を周る巡回検診・診療です。
パラオは約18,000人と人口は少ないものの、南西諸島と呼ばれる有人島がいくつかあり、そこにはそれぞれ
20~30名ほどの人が住んでいます。しかし、有人島は遠いところで本島から南西に約600kmも離れており、物理的にアクセスの限られたこのような地域では様々な制限があり、医療を受けられる機会も非常に少なくなります。天候が良ければ年に4回ほど定期便が出ますが、片道で1日以上かかる南西諸島へは限られた島民しか訪れることができません。パラオ人ですら9割以上が南西諸島に行ったことが無いのでは…?と現地スタッフが話すくらいです。
そんな孤立しているともいえる南西諸島において、2023年4月末に「KENSING」号で巡回検診を実施しました。約30時間の航海を経て到着した南西諸島では、検診を待つ島民が出迎えてくれました。検診終了後には島民から多くの感謝の言葉をもらいました。
検診後、南西諸島のある島の村長から言われたちょっとした一言がとても印象に残っています。医療従事者でもないただの調整員の私に、村長が何度も何度も“ありがとう”と感謝し、帰り際に「私たちはマイノリティです。正直、他の人から忘れ去られているとも感じている。でもそんな私たちのために遠くから来てくれてありがとう」と言ってくれたのです。
困っている人たちに必要な物資やサービスを届けたりする仕事では、“ありがとう”という言葉を多くの方からもらいます。しかし今回の村長の言葉からは、“検診をしてくれてありがとう”という思いだけではなく、“自分たちの存在を忘れないでいてくれてありがとう”という思いも伝えられたように感じました。
今回の支援は医療機会(検診)の提供でしたが、それだけにとどまらず、村長には“私たちはあなたたちのことを忘れてはいません”というメッセージにもなっていたこと、そしてそのメッセージが村長にとって非常に重要だったように今になって思います。
約79億人がいる世界で、約18,000人のパラオ国の孤立した島に住む約30人のマイノリティともいえる島民たち。彼らにとっては形に残る支援や成果が見える支援だけが意味のあるものではなく、それと同じくらい存在を認識されていること自体が重要だったのだと、村長のちょっとした一言から改めて強く感じた巡回検診となりました。
特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン
海外事業部 パラオ事務所
安間 叙通
毎週金曜日に配信している“PARTNERニュース”では、新着の求人・インターン情報/研修・イベント情報の受け取りの他にも、コラム掲載のお知らせもお届けしています。このコーナーでは、コラムの全文と過去アーカイブをお読みいただけます。
個人登録(「参加レベル登録」または「人材登録」)をして、是非、PARTNERニュースの購読をお願いします。