第114号 PARTNERコラム
無力さを痛感した、フィリピン現地インターン経験から

ビル街とスラム

ビル街とスラム

「あんなに大変な状況なのに、私にはできることが何もない。悔しくてたまりません…。」
18年前、私は所属NGOのマニラ事務所から、日本の先輩に泣きながら電話でそう話しました。数日前に支援先の都市スラムで大火事が起こり、一夜にして300世帯がホームレスに。現場に入ってヒアリングをするものの、フィリピン語がほとんどできず、支援経験が浅かった当時の私は、自分にできることがほとんどないことに絶望していたのでした。まだ25歳だったころのことです。

先輩は、意外な言葉を返してきました。
「それは本当に大事なことだよ。自分には何もできないんだってこと。その限界をちゃんと受け入れるってことがとっても大事なんだよ。」
最初はその言葉の意味がよくわかりませんでした。でも、電話を切ってひと眠りして、私は立ち上がりました。「私には大したことはできない。できることを積み重ねるしかないんだ」と思えるようになったのです。

以来私は被災地に通ってヒアリングを続け、レポートを日本事務所に送り続けました。それを受けて日本のスタッフが寄付の呼びかけを全国の支援者に届けてくれ、そこから数十万円のご寄付が集まり、被災した方々に食事や家屋再建のための木材などを届けることができました。

無力感に襲われたあの瞬間を乗り越えて以来、「できることをコツコツ丁寧に積み重ねて結果を出していく」というのが、私にとって何より大事な「国際協力のアプローチ方法」となりました。NGO活動経験が20年を越えた今も、それは変わりません。

寄付の力の偉大さを痛感したのも、この火災救援活動の時でした。火事ですべてを失って、数百世帯の人々が食べる物や家を求めている。そんな中で、活動資金がなければ、文字通り「何もできない」のです。日本の支援者の方々から届けられるご寄付は、たとえその金額がいくらであっても、本当に大きな力になりました。

今では私は、しょっちゅう寄付をしています。貧困問題に限らず、環境や人権、日本の子どもたちのことなど、関心があるテーマに少しずつです。自分の体は1つしかないので、複数の課題に同時に取り組むのはむずかしい。だからこそ、信頼できる団体に、寄付という形で想いを託すことにしているのです。

「支援現場に行く時間やお金をどう工面するか」と悩んだり、「小額の寄付では意味がなさそう」と感じる人は少なくないと思います。でも、ほんの小さなアクションでも、意義はあります。「最近よく見かける雰囲気のいいあの団体に1000円だけ寄付してみよう」というくらい、気軽にアクションしてみてください。寄付後には報告書が届き、問題の背景について深く学べたり、支援の成果が伝わる写真が見られたりして、頭や心が豊かになっていくはずです。
「こんな小さな一歩でいいのかな」と思うようなことの積み重ねで、世界の課題は少しずつ解決されていくのだと思います。

子どもと一緒

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認定NPO法人アクセス
理事長 野田さよ
https://linktr.ee/access_jp

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