第137号 PARTNERコラム
ある出会いから生まれる絵本 ― いのちの輪を繋ぐ旅―
「わくわく」は、心が人やものとつながる瞬間
「わくわく」は、安心や共感の中で心がほどけ、人やモノとつながる瞬間に湧きあがる、生命の奥底からの感情だと思います。
モン族民話研究家の安井清子さんとの出会いをきっかけに、アジアの民話や自然から学ぶ物語を未来へ残したいと願い、2025年5月、出版社「わくわくトゥンテン舎」を設立しました。
「トゥンテン」とは、ラオス語で“わくわく”を意味します。
ラオスへ ― 織物がつないだ縁
2016年、小学生だった末娘を連れてラオスへ渡りました。
以前、夫の赴任で6年間暮らしたバングラデシュでは、少数民族マニプリの織物に魅了され、販売支援のボランティアに関わりました。「織物文化を学びたい」という思いから、家族と相談し、ラオスの織物工房「ホアイホンセンター」で学ぶ機会を得ました。そこでは伝統織や天然染色を学びつつ広報も担当。元理科教員として、併設の幼稚園や図書館で実験や創作活動も行いました。
成人式を迎える娘のために織ったラオス伝統の帯は、今も私の原点を思い出させてくれる宝物です。
2018年 ラオスビエンチャンの幼稚園・小学校で
実験創作活動「アイスクリーム屋さん作り」でのひとコマ
語りが紡ぐ、いのちの記録
ラオス滞在中に出会った安井さんは、ラオス内戦後、モン族の難民キャンプで絵本の読み聞かせや図書館活動に従事。モン族は文字を持たないため、語り継がれてきた民話を子どもたちと録音し、刺繍絵本に残す活動を続けていました。
現在も図書館活動を続ける安井さんの姿に感銘を受け、私もその活動を応援したいと思うようになりました。
2025年3月 難民キャンプ時代からのモン族の仲間と
談笑する安井清子さん
民話とアートを未来へ ― 本がひらく「感じる力」
わくわくトゥンテン舎の第1弾出版は、安井さんの『森から生まれたモンの民話』。
自然への敬意と生きる知恵に満ちた16篇の民話が収められています。
第2弾は、私がラオスで子どもたちと取り組んだ創作活動をまとめた『ラオスの子どもたちのアート❤︎Art』で、2025年11月に刊行予定です。
現在は第3弾として、日本人画家・宮下昌也さんとともに、モン族の民話をもとにした絵本を制作中です。
語り継がれてきた物語を絵の力で未来に残し、絵本の少ないラオスの子どもたちに“感じる力”を届けたい──そんな願いを込めた一冊です。
左:2025年5月発行『森から生まれたモンの民話』安井清子著
右:2025年11月発行『ラオスの子どもたちのアートArts』
相馬淳子著・渡邉淳子編集等
静かな「わくわく」が世界を変える
私は、国際協力とは、遠くの国の人々を思い、文化に心を寄せることから始まると考えています。
小さな一歩かもしれませんが、ラオスの作り手と日本をつなぐ“扉(PaTu)”として、文化の橋渡しを続けていきたい。
人と人、文化と文化が響き合うとき、そこにそっと生まれる“わくわく”こそが、世界をやさしく変えていく力になる──そう信じて、私は活動を続けています。

2025年3月 絵本につなぐラオスの旅で森の中を取材中
わくわくトゥンテン舎・PaTu代表
相馬淳子