第138号 PARTNERコラム
雇用を生み、未来をつくる:アフリカで実感したビジネスの力
学んでも就職先がない——アフリカにはそんな現実があります。
学校を卒業しても働き口が見つからず、家で時間を持て余す生活に戻ってしまう。だから学校で真剣に学ぶ理由もない。
これは、私が2017年から海外協力隊と してジンバブエの職業訓練校でIT学科の講師をしていた際に直面した状況でした。
学費を払っているにもかかわらず授業に来ない学生、真面目に取り組もうとしない学生たちを前に、私は「どうして?」という疑問ばかりが募っていました。
しかし、ジンバブエ人の同僚からこの国の厳しい雇用状況を聞いて、その理由が腑に落ちました。
教育の先にある「働く場」がなければ、学びが未来につながらないという現実です。
ジンバブエの職業訓練校の同僚
職業訓練校の生徒たち
この経験は、私の価値観を大きく変えました。
「教育は人生を切り開く大切な力」だと考えていましたが、実際には教育の先に学んだことを活かせる“働く場所”があってこそ、最大限に力を発揮することができるのだと気づきました。
そして、教育と雇用をつなぐ仕組みをつくることこそが、より大きな社会的インパクトにつながるのではないかと感じるようになりました。
その思いを胸に、現在私はケニアのナイロビでZARIBEE(ザリビー)というギグワーカー(※1)向けにバイクのファイナンス・リースをしている企業で働いています。
ZARIBEEは、低所得層のBodaBoda(バイクタクシー)ライダーに手頃な初期費用と日払い返済でバイクを提供し、完済後には所有権を本人に移すことで、ライダーが“資産”を持てる仕組みをつくっています。
このバイクを通じて、ライダーは雇用機会を得て収入を生み出せるようになり、家族を支えるだけでなく、地域全体の経済活動にも波及効果をもたらします。
さらに、安定収入をもとに更なる資産形成や次のライフステージへのステップアップも目指せるようになります。
バイクを受け取った直後のお客様
スタッフと一緒にバイクの状態を確認するお客様
それだけでなく、ZARIBEEでは社員が長期的に活躍できるよう、ビジネス基礎力の向上や業務知識の習得を支援する体系的な人材育成に取り組んでいます。
ITやマーケティング、コンプライアンス、ロジカルシンキングなどの知識提供に加え、他チームの業務を理解し助け合う文化を育むためのジョブローテーションや体験プログラムも実施しています。
また、マネジメント研修や定期的なフィードバックを通じて、社員一人ひとりが将来的にチームを率いる力や意思決定力を身につけられるようサポートしています。
ケニアの多くの企業では、このように社員の成長を体系的に支援する仕組みはまだ少なく、ZARIBEEの環境は珍しい存在です。単に雇用を生み出すだけでなく、社員一人ひとりが主体的に学び、成長できる文化を整えています。
IT基礎講座を受講する社員
社員主催のバイクのメンテナンス講座
協力隊の経験から学んだ教育と雇用のどちらも必要であるという気づきは、今の仕事の中でも確かに生きています。
教育を提供し、雇用を生み、スキルが未来につながる循環をつくること。
それは、ビジネスとして運営するからこそ、より大規模に、持続的に社会的インパクトを拡大できると感じています。
社員と一緒に
※1 企業に正社員として雇用されるのではなく、単発や短期の仕事を請け負って働く人たちのこと。フードデリバリーなどが代表的な例。
ZARIBEE Kenya Limited オペレーションマネージャー
森田麻裕