第146号 PARTNERコラム
経済合理性が忘れた価値~小さな豚が教えてくれたこと
私はこれまで、カンボジアの内戦時代に埋められた地雷が今なお残る農村地域で、主に家畜飼育を通じた生計向上支援に携わってきました。
同じく不発弾の多く残る隣国ラオスにも度々行く機会がありました。
そのラオスで驚いたのは、食事の「美味しさ」です。田舎へ行くほど、その土地の料理は味わい深く、なかでも私の心を捉えたのは、半分放し飼いにされている「在来種の豚」でした。
小さく、愛くるしい子豚たちと対照的に、どっしりと貫禄のある母豚の姿にとても興味を惹かれました。
カンボジアに戻り、農業専門家にこの豚のことを尋ねてみました。すると、ポル・ポト政権が誕生する前のカンボジアでは、多くの農家が、この在来種の豚を飼っていたというのです。
しかし、内戦の混乱と、その後の近代化の波の中で、その姿は消えかけていました。
在来種の可愛いらしい子豚たち
私は現地スタッフと共に、在来種の豚を探し始めました。手がかりをくれたのは、支援をした世帯の一人である地雷被害者のパンさんでした。
彼は北東部のラタナキリ州、少数民族の村の出身で、「私の故郷には、まだその豚がいる」と教えてくれたのです。
パンさんの案内で辿り着いた村には、ラオスで見たあの光景がありました。村の中を自由闊歩する、たくましくも愛らしい黒豚たちの姿です。
私たちはその豚を買い取り、バッタンバン州サムロート郡で実施しているJICA草の根パートナー型事業(2023~2026年)における農協運営強化の一環として、家畜飼育支援の対象として農家に配布しました。
この豚は、クメール語で「ネズミ豚」と呼ばれており、その名の通り、子豚は野ネズミのように見えます。
通常、豚肉は重量で取引されます。早く、大きく育つ品種こそが「良い豚」とされ、成長が遅く体の小さな在来種は、経済合理性によって淘汰されてきたのです。
この経済合理性の中には、その土地の気候、風土への適正、病気への耐性、味や品質、希少性などが考えられていませんでした。
この「ネズミ豚」は、特に中華系の人たちが祭事で子豚を丸焼きにする需要があり、約10kgの大きさで販売できます。
農協が、村人たちから子豚の段階で買い取り、販売する仕組みを作りました。これにより、農家は多額の餌代をかけずに済み、かつ希少価値の高い肉として販売することで、農協も農家も十分な利益を得られるようになりました。
村人から子豚の買取をする農協職員
この在来豚の事例を通じて、現場で改めて在来家畜を見直す中で、この気づきは豚だけにとどまらないことが明らかになっていきました。
在来種のヤギは病気に強く繁殖力が高いこと、そして現在私たちが注目している小柄な赤茶色の在来牛もまた、輸入された白い大型種にはない強靭さと価値を持っていることに注目しています。
テラ・ルネッサンスでは、支援哲学の一つとして「ないもの探しではなく、あるもの探しをする」という考え方を大切にしています。
支援というと、どうしても「足りないもの」を補うことに目が向きがちです。
しかし、実はその土地に古くから根付いていたものの中にこそ、真の豊かさや、持続可能な未来へのヒントが隠されていることを実感した事例でした。
特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス
海外事業部アジア事業マネージャー
江角 泰