第7号 PARTNER便り JICA海外事業を支える企画調査員~(上)どんなシゴト?

日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA。世界中に約100の在外事務所があります。

その在外事務所で、JICAの海外事業を支えているのが「企画調査員(企画)」です。

企画調査員(企画)とは、担当分野・課題に関する情報収集・分析、案件の発掘・形成、実施中案件の監理・調整、他の開発パートナーとの連携などを行います。業務内容に応じてA~C号の格付けが設定され、通常の派遣期間は2年間です。

※詳しくは、 こちらから

では、企画調査員(企画)は具体的にどのような仕事をするのでしょうか。目指したきっかけは? キャリアの積み方は? 実際に企画調査員(企画)として活躍された方をお迎えし開催されたセミナーから3回に分けてレポートします。

初回は、講師を務めたお二人のキャリアパスと、目指したきっかけを紹介します。

小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 1

小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 )
大学(専攻:宇宙物理学)
大学院(専攻:環境)
1999-2002
民間コンサルタント(環境分野)
国内の自治体や省庁の環境計画策定。
2002-2005
海外協力隊(モロッコ・環境問題)
ごみ処分場で有価物を回収するウェストピッカー支援。
2005-2006
JICA地球環境部(ジュニア専門員・環境担当)
2006-2009
JICAベトナム事務所(企画調査員・環境担当)
2009-2017
国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター
2014
大学院理工学研究科国際開発工学専攻 博士(学術)
2017-現在
JICA地球環境部(特別嘱託)
小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 ) プロフィール

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長)

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長)
大学(専攻:平和・開発学)
大学院(専攻:平和・開発学)
2006-2009
国際協力銀行(JBIC)(専門調査員、援助協調担当)
世界銀行、アジア開発銀行などの国際機関のほか、韓国・中国・タイなどの援助機関との連携業務に携わる。
2009-2012
JICAタイ事務所(企画調査員、環境・気候変動分野担当)
2012-2017
JICAカンボジア事務所(企画調査員、環境・気候変動分野担当)
環境公害対策、気候変動対策のほか、都市の環境インフラ支援事業に従事。
2017-2018
(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)(プログラムマネージャー、ASEAN各国都市のSDGs推進事業などを担当)
2018-現在
イクレイ日本(事務局長)

※イクレイ:持続可能な都市と地域の実現を目指す1,750以上の自治体で構成された国際ネットワーク。日本では21の自治体が加盟している。

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長) プロフィール

―お二人が、企画調査員(企画)になったきっかけは何でしょうか?

小島さん:

大学卒業後、民間コンサルタントとして環境分野に携わっていました。その後、海外協力隊に参加したのですが、帰国後「やり残した感」がありました。もう少し国際協力の分野でキャリアアップしたいという思いで、ジュニア専門員 2 になりました。

ジュニア専門員の海外派遣先 3 として、インドの水質専門家か、ベトナムの企画調査員か、2つの選択肢がありました。私は企画調査員を選択しました。

内田さん:

大学院在籍中にインドのデリーにある国際機関(=Global Development Network)でインターンとして働く機会があり、同団体の日本側窓口が当時の国際協力銀行(JBIC)の研究所でした。仕事を進めて行く中で、専門調査員の仕事に関心を持ち、援助協調を担当する専門調査員になりました。このJBICでの仕事を通じて、環境・気候変動分野への関心が高まり、また、現場で経験を積む必要性や中所得国に対するODAのあり方にも関心があったので、2008年のJICAとJBICの海外経済協力業務との統合後、JICAタイ事務所の企画調査員に応募しました。

―企画調査員として実際にどのような活動をされましたか? 企画調査員の役割とは?

小島さん:

環境分野で水質改善や森林管理等の実施中案件の監理と、新規の案件形成に約3年間携わりました。ベトナムは経済成長が進み環境問題が顕在化する時期で、たくさんの長期専門家や開発コンサルタントの方がいらっしゃいました。分野に関し、私はそこまでの専門性がありませんでしたが、相談できる方がたくさんいたのは幸運でした。ベトナムの環境を良くしたいという熱い思いを持った皆さんをサポートし、力を合わせてベトナムの環境問題に対処できたという思いがあります。

また、他の事務所員やナショナルスタッフにも助けてもらいました。特にナショナルスタッフは、2-3年で入れ替わる日本人スタッフと異なり在勤年数が長く、担当分野を熟知し、豊富な人脈を持ち、本当に心強い存在でした。

また、当時、企画調査員として案件形成したハロン湾の環境管理能力向上プロジェクトの後継案件を、現在、特別嘱託として担当しています。国際協力に長く携わると、その国の変化を長期的に見ることができるのも魅力です。

内田さん:

カンボジアでの5年間は分野としては環境・気候変動を担当し、インフラ整備事業の他、技術協力プロジェクトで実施する法整備支援事業や、行政や政府機関の管理能力向上にかかるプロジェクト、また科学技術振興機構(JST)と実施する研究事業(SATREPS 4 )など、ODAの主要スキームを担当しました。また、民間連携事業を通じて民間企業の取り組みに関わったり、JICAが共同議長を務めたドナー会合を担当したり、環境や気候変動の分野に様々な角度から関わりました。

案件の発掘・形成は決して自分一人でやるものではありません。JICA専門家の方々、事務所の方々と協議をして進めます。私自身は最初は専門性があるとは言えない状況でした。わからないことはわからないとちゃんと言う。それを支える体制がJICAにはあります。様々な方々に支えられながら、業務を進めながら色々なことを学びました。

途上国では様々な予測不能なことが起こります。不測の事態をどうとらえるか。ちゃんとアンテナを張って事前に対処できることはないか。蓄積された過去の経験から踏まえて対応していくのですが、予測が難しい中で当然ながら信頼関係がないと相手側の不信に繋がりうまく進まなかったりします。企画調査員は自らのコミュニケーションと信頼関係の構築で、案件の不要な遅延を防ぎます。そういうところを意識してやってきました。

企画調査員はプロデューサーでありコーディネーターです。専門家の方々を現場に繋ぐにも、どういった方々をどのように繋ぐのかを判断していくことが求められます。誰がキーパーソンで誰に頼めば良いのか。日本が本当にやりたいことはこれだけど、現地の状況を踏まえて実際に何をやるべきなのかを判断することによって、日本ができることや案件を形成するための情報を収集していきます。

生活の面では、カンボジア勤務中に子どもが2人生まれました。カンボジアは非常に子育てしやすい国でした。家は事務所からトゥクトゥク 5 で5分のところにあり、2時間ある昼休みで自宅に戻り家族で昼食を取っていました。仕事が夜遅くても、家族としては一緒に良い時間を過ごせました。

企画調査員はプロデューサーでありコーディネーター。専門性は実務を通して磨かれていくのですね。ところで、お二人の経歴を見ると、大学・大学院時代の専攻と企画調査員での担当分野は必ずしも一致していないようですが…。どのようにキャリアを積み上げていかれたのでしょうか? そのお話は次回!

  • 1 専門性を活かしながら、JICA本部にて情報収集や分析、プロジェクト形成のための事前調査から、実施中のプロジェクトの支援業務を行う。委嘱終了後は、JICA専門家等として海外へ長期派遣されることを想定する。
  • 2 開発途上国・地域等における開発援助の専門知識と一定の活動経験を有し、将来にわたり国際協力業務に従事することを志望する若手人材を対象に、主に国内においてJICA事業を実地に研修する機会を提供するもの。それにより、国際協力に関する実践的な計画策定、運営管理といった協力手法等についての能力の向上を図り、JICA事業実施においてニーズがありながら人材が不足する分野の人材を養成することを目的とする。
  • 3 ジュニア専門員の旧制度では、国内で1年の研修の後、制度の一環として海外で2年の専門家業務を実施。
  • 4 Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)。JST、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)とJICAが共同で実施している研究プログラム。地球規模の課題を解決するため、日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う。
  • 5 東南アジアから南アジアで普及している三輪タクシー。

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