第8号 PARTNER便り JICA海外事業を支える企画調査員~(中)どんなキャリア?

前回からお届けしているJICA企画調査員のシゴト。今回は、経験者お二人のキャリアについてです。

小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 1

小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 )
大学(専攻:宇宙物理学)
大学院(専攻:環境)
1999-2002
民間コンサルタント(環境分野)
国内の自治体や省庁の環境計画策定。
2002-2005
海外協力隊(モロッコ・環境問題)
ごみ処分場で有価物を回収するウェストピッカー支援。
2005-2006
JICA地球環境部(ジュニア専門員・環境担当)
2006-2009
JICAベトナム事務所(企画調査員・環境担当)
2009-2017
国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター
2014
大学院理工学研究科国際開発工学専攻 博士(学術)
2017-現在
JICA地球環境部(特別嘱託)
小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 ) プロフィール

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長)

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長)
大学(専攻:平和・開発学)
大学院(専攻:平和・開発学)
2006-2009
国際協力銀行(JBIC)(専門調査員、援助協調担当)
世界銀行、アジア開発銀行などの国際機関のほか、韓国・中国・タイなどの援助機関との連携業務に携わる。
2009-2012
JICAタイ事務所(企画調査員、環境・気候変動分野担当)
2012-2017
JICAカンボジア事務所(企画調査員、環境・気候変動分野担当)
環境公害対策、気候変動対策のほか、都市の環境インフラ支援事業に従事。
2017-2018
(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)(プログラムマネージャー、ASEAN各国都市のSDGs推進事業などを担当)
2018-現在
イクレイ日本(事務局長)

※イクレイ:持続可能な都市と地域の実現を目指す1,750以上の自治体で構成された国際ネットワーク。日本では21の自治体が加盟している。

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長) プロフィール

―企画調査員後のキャリアは、派遣前と派遣中、どのように考えていましたか? また、なぜそのお仕事を選びましたか?

小島さん:

派遣前は漠然と、引き続き環境分野で仕事をしていければ良いなと考えていました。派遣終了間際になり、開発コンサルタントや環境案件の業務調整などの選択肢を考えていたところ、国立環境研究所の、その後に上司となる人から、「うちで働いてみませんか」と声を掛けられました。働きながら博士課程に進むことも可能と言って頂き、担当していた3R 2 プロジェクトの経験から、効果的に行動変容(ごみを分別するようになるなど)を促す手法に関心を持ち、研究テーマとしたいと考え、研究所で働きながら博士号に挑戦することにしました。

また、企画調査員をしていた当時、現場の実務者(専門家や開発コンサルタント)と研究者(大学教授など)の相互不理解を感じる機会が度々あり、学術分野を学んで実務に活かしたいと思いました。学術と実務双方の方々のミスコミュニケーションを解消したい、橋渡しできる人材になりたいと思い、博士取得後に研究員として働いた後、実務に戻る決意をし、現在は特別嘱託の仕事をしています。

内田さん:

派遣前は国際機関に興味があり、国際的な仕事を意識してはいました。環境・気候変動の分野は決して専門ではありませんでしたが、当時の国際協力銀行(JBIC)で援助協調の仕事をする中で、全てにおいて影響するのは環境や気候変動だとの気づきが自分の中でありました。それを活かすため今後何をするか考えた時、現場で専門的な知見を得たい・知りたい、と考えました。その一心で、企画調査員後のキャリアは正直漠然としたものしかありませんでしたが、しっかりと現場に近いところで経験を積むことが自分のその後のキャリアにとっては重要であるということは明白でしたので、企画調査員という道を選びました。

企画調査員として派遣中に東日本大震災が発生しました。当時は日本に帰国して復興事業に関わることも真剣に考えましたが、まだまだ未熟でしたので、日本では得がたい経験が得られる企画調査員の仕事を続けようと決めました。この時期から、いつか日本に戻り日本の社会のためになる仕事をしていきたいという思いが強く芽生え今に至っています。キャリアに対する考えは今も当時とあまり変わっていなくて、数年後の自分の姿は漠然としたものしかありません。ただし、自分の興味関心を踏まえたうえで、今自分にとって最善の経験を与えてくれる仕事(環境)は何か、という視点は大事にしています。

―企画調査員の経験は、現在のキャリアにどのように活かされていますか?

小島さん:

企画調査員は、カウンターパート機関と日本の様々な関係機関を繋ぐ立場にあり、国際協力に関わる様々なステークホルダーの関係や何を考えているのかを理解できたことは、現在のJICA本部勤務にも大いに役立っています。また、当時の日本・ベトナム両方の人脈は今でも大きな財産です。当時の現場での課題認識は、その後の研究テーマ・専門分野に繋がっています。

また、ベトナムでの仕事を通して自分自身の課題認識が整理できました。「自分はこういう人間になりたい」「こういう仕事をして、この世界で生きていきたい」いう、ぼんやりしていたことがある程度固まりました。

内田さん:

現在イクレイ日本の事務局長をしております。イクレイは自治体の協議会で、日本の自治体の持続可能な発展を支える事業をしています。世界事務局はドイツのボンにある国際組織です。企画調査員をすることで、環境・社会・経済の変化が著しい中で様々な利害関係者がどういうことを考え、問題をどういった視点で分析するのかということを、直接経験できました。同時に政治や経済状況によって変わってくる市民のニーズや行政の在り方、公共サービスの相違点も意識しながら進めてきたので、私自身は逆に日本のことを意識するようになりました。当然ですが、日本的な考え方は、日本の実情やこれまでの経緯があって形成されたものです。こういったことも日々の業務の中で知ることができました。

また、特定の分野に関して、法規制から技術力、調達方法や住民説明の様子など、様々な切り口から接することによって自然と包括的な視点が得られたのではないかと感じています。これは、今の日本の自治体にも求められている視点ではないかと考えています。また、カンボジアと日本の違いや共通点を日々意識することで、事例をどのように分析し伝えれば背景の違う双方の理解の向上につながるのかというノウハウも養われたと思います。

今の日本の自治体は人口減や高齢化などに代表される様々な課題に直面していますが、日本の良さをとらえて持続的に発展していくには、条件や背景が違う国内外の自治体の経験や考え方を効果的に学び、それを自分たちの社会のために活かしていくことが重要だと考えています。国籍の違うスタッフや政府関係者と仕事をすることにより、多文化コミュニケーションが身に付き、今の仕事でも役に立っていますし、社会課題が複雑化する現代においては日本国内でも求められる能力の一つでもあると考えています。

やはり、「コミュニケーション」はかなり重要な鍵となるようです。では、企画調査員に求められるコミュニケーションとは具体的にどういうものなのでしょうか? 最終回で伺います。キャリアのアドバイスも!

  • 1 専門性を活かしながら、JICA本部にて情報収集や分析、プロジェクト形成のための事前調査から、実施中のプロジェクトの支援業務を行う。委嘱終了後は、JICA専門家等として海外へ長期派遣されることを想定する。
  • 2 Reduceリデュース:ごみの抑制、Reuseリユース:繰り返し使う、Recycleリサイクル:再資源化で廃棄物の削減に努める。

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