第9号 PARTNER便り JICA海外事業を支える企画調査員~(下)何が大事?

JICA海外事業を支える企画調査員の様子

3回にわたってご紹介するJICA企画調査員のシゴト。最終回は鍵であるコミュニケーション能力と、キャリアについてのアドバイスです。

小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 1

小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 )
大学(専攻:宇宙物理学)
大学院(専攻:環境)
1999-2002
民間コンサルタント(環境分野)
国内の自治体や省庁の環境計画策定。
2002-2005
海外協力隊(モロッコ・環境問題)
ごみ処分場で有価物を回収するウェストピッカー支援。
2005-2006
JICA地球環境部(ジュニア専門員・環境担当)
2006-2009
JICAベトナム事務所(企画調査員・環境担当)
2009-2017
国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター
2014
大学院理工学研究科国際開発工学専攻 博士(学術)
2017-現在
JICA地球環境部(特別嘱託)
小島 英子さん(現JICA地球環境部特別嘱託 ) プロフィール

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長)

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長)
大学(専攻:平和・開発学)
大学院(専攻:平和・開発学)
2006-2009
国際協力銀行(JBIC)(専門調査員、援助協調担当)
世界銀行、アジア開発銀行などの国際機関のほか、韓国・中国・タイなどの援助機関との連携業務に携わる。
2009-2012
JICAタイ事務所(企画調査員、環境・気候変動分野担当)
2012-2017
JICAカンボジア事務所(企画調査員、環境・気候変動分野担当)
環境公害対策、気候変動対策のほか、都市の環境インフラ支援事業に従事。
2017-2018
(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)(プログラムマネージャー、ASEAN各国都市のSDGs推進事業などを担当)
2018-現在
イクレイ日本(事務局長)

※イクレイ:持続可能な都市と地域の実現を目指す1,750以上の自治体で構成された国際ネットワーク。日本では21の自治体が加盟している。

内田 東吾さん(現イクレイ日本事務局長) プロフィール

―日本人スタッフ、専門家、ナショナルスタッフ、現地の政府関係者や市民…。たくさんの方々と関わりますが、どのようにコミュニケーションをとりますか?

小島さん:

コミュニケーション能力というとまずは語学力を思い浮かべるひとが多いと思いますが、私はあまり英語に自信がありません。ですので、大事な協議の前には、自分の言いたいことを英語で整理するようにしています。伝えるべきことを伝えるには、流暢でなくても、論旨が明確であることが大事だと思います。また、相手の目を見て話す、笑顔で話す、誠実に対応するといったことも大事なコミュニケーション能力です。どこの国でも当たり前のことが関係構築に繋がっていきます。こじれると一番面倒なのは、実は日本人同士だったりします。外国人だと許せることが日本人だと許せなかったり…。そこは腹を割って話す。小さいうちにミスコミュニケーションを解消することが大切です。

カウンターパートとの協議は、ナショナルスタッフがベトナム語・英語の通訳をしてくれました。私が1喋ると10にして伝えてくれます。ナショナルスタッフとコミュニケーションを密にして、事前に共通認識を持っておくことは非常に大切です。

内田さん:

タイでは女性のナショナルスタッフが多かったのですが、女性はあまりアルコールを飲みませんし仕事後に飲みに行くことはほとんどありませんでした。他方でカンボジアでは男性も多くいましたし、飲みに行って一緒に騒ぐということもしました。一つの事例ではありますがその国の方々の文化に合ったコミュニケーションが求められます。私自身が情報収集をする立場として、ナショナルスタッフの意見や考え方は重宝しました。ナショナルスタッフは同国におけるメッセンジャーです。彼女たちが日本の政策やJICAの方針をしっかり理解しているかということがすごく大事ですので、私は所内会議とは別に、毎週打ち合わせの時間を設けていました。出張はペアで行きますが、私のこと、プロジェクトのこと、日本のこと、JICAのことをしっかり伝えてコミュニケーションをとる必要があります。

また、日本では考えられませんが、現地の政府要人とはSNSでコミュニケーションをとっていました。政府の要人は、電話には出なくてもWhatsAppのメッセージは返ってきます。また、カンボジアでは朝食を一緒に取ってコミュニケーションをとることもあり、政府の高官と会いたいときは朝食も選択肢の一つになります。その国のコミュニケーションのとり方を学ぶことです。

―企画調査員に求められる「地域に関する知見」。小島さんは協力隊時代はモロッコ、そして企画調査員はベトナムと全く違う地域ですが、どう対応されたのですか? また、ご自身の専門性は、どのように一貫性を持って活かされていますか?

小島さん:

ベトナムへは企画調査員の赴任で初めて行きました。ジュニア専門員時代もアフリカ・中東の業務で、ベトナムについての知識は全く手を付けられないまま赴任しました。現地に行けば、自分より在任期間の長い人がいるし、詳しい人がいるので、現地で学んでいったというのが正直なところです。

専門性については、大学では宇宙物理学を学びました。環境分野を学び始めたのは大学院から、国立公園の研究です。その後、民間のコンサルタント会社で主に国内の自治体や省庁の環境計画の策定などに携わりました。海外協力隊時代はごみ処分場で有価物を回収するウェストピッカー 2 支援に関わり、企画調査員での担当は幅広い分野でした。「環境」という広範な分野課題の中でキャリアの積み木を上にではなく、横に広げていった感じです。最近ようやく、廃棄物分野、さらには住民啓発に集約されてきました。周りの積み木も決して無駄にはならない、と感じています。

―専攻と異なる未経験の分野での挑戦について、面接などでどのようにアピールしましたか?

内田さん:

私は、学生時代はイギリスの大学で平和学を学びましたが、現在は環境と気候変動を専門としています。全く違う分野と思われるかもしれませんが、学んだことを踏まえて、自分なりに興味関心を追求してきた結果であって繋がっていると考えています。それを踏まえていうと、所謂“専門分野”にとらわれるのではなく、「何を考え学んできて、また経験してきた」「そうした過程の中で、今何故この職を選びたいと考えていて、またこれまでの経験が活きると考えているのか」、という一人の人間としてのストーリーが大事だという気がします。今の時代、専門性を持つことは大事ですが、課題解決にはSDGsなどでも示されているように、包括的な視点が求められています。様々なことを知ったうえで、課題を解決する能力が求められてきています。違う立場や専門性を持った人々に対して、どう言ったら伝わるのか知るということはコミュニケーション能力でもあります。そういったところから、自分の中で考えを整理し理由が明確であれば、専攻と異なる分野での経験は逆に強みになるかもしれません。

小島さん:

私もその通りだと思います。自分が学んだことを新たな分野でこのように生かしていきたいということを、きちんと説明できることが重要です。

-企画調査員を目指す方々にキャリアプランについてアドバイスをお願いします!

内田さん:

企画調査員の仕事は公の立場で様々な関係者とコミュニケーションを取りながら、事業を進めて行く仕事です。携わる海外の国の事情はもとより、日本の専門家と共に事業を実施していくことで、社会と経済が成り立つ上で必要な、広い意味でのインフラに関して多くのことを学ぶ機会でもあるので、その様な位置づけで企画調査員の仕事を考えられてはいかがでしょうか。

東日本大震災があったのは、企画調査員を始めて間もない頃でした。帰国したい気持ちがありましたが、もっと成長しようとタイに留まりました。続いてのカンボジア企画調査員時代は、自分の経験も増えてきて、民間連携など様々なことをやりました。環境・気候変動の分野ではありますが、そこから学べる世界は広いです。カンボジアの大臣とも直接、携帯電話でやりとりする一方で、現地の市民とも話します。そういったことを経験することが可能なのが企画調査員です。そういう経験を経て、自分は何がやりたいのかを考えるきっかけにもなりました。どうしたら貢献できるのかを日々考えネットワークを築いていったら、その先のキャリアが開けました。アンテナを張る事です。

小島さん:

1年目は手いっぱいだと思いますが、2年目になると業務のサイクルが分かり、だんだんやりたいことができるようになってきます。現場の最前線で、誠実に企画調査員の活動をしていれば、色んな人が見てくれていて、機会があれば声を掛けてくれます。国際協力はそれほど人材豊富な世界ではないので、関わっている方は皆、頑張っている若い方々には、引続き活躍してほしいと思っています。キャリアプランが明確でないひとも、企画調査員としての仕事をしっかりとこなすことが、次のキャリアに繋がるのではないでしょうか。

  • 1 専門性を活かしながら、JICA本部にて情報収集や分析、プロジェクト形成のための事前調査から、実施中のプロジェクトの支援業務を行う。委嘱終了後は、JICA専門家等として海外へ長期派遣されることを想定する。
  • 2 廃棄物の最終処分場などで有価物を収集し、それを売って暮らす人々。

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