「私の国際協力ジャーニー ジュニア専門員経験者キャリアインタビュー①」

国際協力の分野で活躍したい。そのための専門性は、どのように身につけたら良いのでしょうか。JICAには、国際協力のキャリア形成に関する様々な制度があります。例えばジュニア専門員。JICA内で実務を学びながら、専門家へのステップとなる制度です。今回は私、JICAインターンの尾形が、ジュニア専門員を経験され現在は特別嘱託として活躍されているJICA社会基盤・平和構築部ジェンダー平等・貧困削減推進室の宇佐美茉莉さんに、これまでの国際協力キャリアやジュニア専門員時代などのお話を伺いました。

ジェンダーに関心。海外協力隊が転機に

Q:国際協力に関心を持ったきっかけは何ですか?

子どもの頃から国際協力に憧れはありましたが、それよりも先に関心が向いたのはジェンダーです。振り返ると、身近にドメスティック・バイオレンス(DV)を見聞きする環境で育ちましたが、それが特殊なことだとは思っていませんでした。しかし、大学でジェンダーを学ぶ機会があり、これまで自分が私的な事柄だと思っていた家族、恋愛、性、結婚などが学問のテーマとして取り扱われていることに衝撃を受けました。自分が見聞きしてきた暴力のケースが私的な問題にとどまらず、DVという社会の構造的な課題だと気づきました。これがその後のキャリアでジェンダーと関わり続けるきっかけでした。男女不平等な世界を変えるために何かしたい、と思うようになりました。

大学卒業後はジェンダーについて学ぶためにイギリスの大学院へ進学し、女性に対する暴力について研究しました。

日本に帰国し、国際協力とジェンダーに関わる仕事がしたいと考えていたときに、海外協力隊の募集に出会いました。それまで自分の中でぼんやりと憧れがあった国際協力と、大学院で学んできたジェンダーが結び付いたコスタリカの案件があり、応募を決意しました。業務内容が自身の関心に合致し、また今後、国際協力業界で働く上で経験が役立ちそうなスペイン語圏であったことも背中を押しました。そして無事合格し、ローカルNGOと共に2年間、DV被害女性に支援を提供することになったのです。

現地の女性に向き合い続けた濃密な時間は、子どもの頃からの関心と国際協力が結び付いた初めての経験でもあり、自身にとっての転機でした。大学で学んだことを生かし、仕事としてジェンダーに関わることが可能なのだと初めて実感する、具体的な体験でした。力不足を実感する一方で、もっとジェンダーと国際協力に関わりたいという思いは強くなりました。

ジュニア専門員で得た経験

Q:協力隊の後、ジェンダーの分野でどのようにキャリアを積まれてきましたか?

協力隊を終え次のステップとして見つけたのは、ジュニア専門員制度でした。これは開発途上国での一定の活動経験と専門知識を有する人を対象に、JICAでの実地研修を通して専門家を養成する制度です。

ジュニア専門員では経済基盤開発部 ジェンダー平等・貧困削減推進室(現・社会基盤・平和構築部ジェンダー平等・貧困削減推進室)に配属となりました。業務では、ジェンダー分野のプロジェクト監理や調査の他、農業や教育等、他分野の案件に対してジェンダー視点に立った事業が実施できるように助言する業務もあり、JICAが行う様々な分野・形態の事業について幅広く学ぶ機会を得ました。一方、協力隊で関わったような女性に対する暴力に関する案件はまだ非常に少ないことも知り、現場に密着する協力隊の活動との大きな違いも感じました。ジュニア専門員の後に専門家として派遣されたニカラグアのジェンダーや暴力を取り扱う案件には、ジュニア専門員で本部にいる時に初期段階から携わっていました。案件の立ち上げから終了まで一連のプロセスに携わることができたのは貴重な経験でした。また、本部での業務経験を通じて、一つの案件が形成され、実施されるには、 JICA内外の様々な関係者が関わっていることを知ったことは、専門家として現場で仕事をしているときにも、特別嘱託として本部に戻った現在も役立っていると感じます。

ニカラグアで専門家として活動。プロジェクトの対象コミュニティで住民に対する出張行政サービス(出生登録など)を提供しているところをモニタリング。(左端が宇佐美さん)
ニカラグアで専門家として活動。プロジェクトの対象コミュニティで住民に対する出張行政サービス
(出生登録など)を提供しているところをモニタリング。(左端が宇佐美さん)

現場で寄り添うということ

Q:現地業務で大変だったこと、印象に残っていることを教えてください。

現地業務で特に印象に残っているのは、現地の女性たちのことです。これまで中米のいくつかの国に長期滞在する機会がありましたが、いずれの場所でも、現地の女性との信頼関係ができてくると、暴力の被害を時には涙ながらに打ち明けてくれる瞬間がありました。プロジェクトの研修でDVについて学ぶ機会があると、参加者の中には自分も被害を受けたことがあると告白する女性もいて、他の参加者からの共感に励まされ、その経験を乗り越えようとする場面にも数多く立ち会いました。また、プロジェクトで関わった現地の女性支援団体関係者のジェンダー平等への熱い想いにも助けられました。このように女性たちと関わる度に現状を変える必要性を痛感し、奮起させられてきました。現地に長期滞在し女性の傍で支援してきたからこその経験は、この仕事を通して得たかけがえのないものだと思います。

同時に、ジェンダーならではの難しさにも直面しました。
ジェンダーの支援は人の意識や認識を変えることと不可分な面があり、短期間では変化が確認しにくいことが多いです。また、ジェンダー平等が達成されていない現在の社会には性差別や女性に対する暴力を肯定するような言説や慣習があふれていて、そのような社会に暮らす私たちは誰しもジェンダーに関するバイアスを持っています。現状を変えたくないという人たちもいます。私がいたニカラグアも例外ではなく、暴力や性差別があることに慣れてしまい変化を望まない人々の考えに訴えかけていくのは簡単なことではありませんでした。例えば暴力被害女性を支援する立場にあるソーシャルワーカーやカウンセラー自身が無意識に性差別的な考えに基づく対応をしてしまい、被害者に二次被害を与えてしまうこともありました。彼女たち自身が暴力の被害者である場合には、被害者に共感できる一方で本人がまだ暴力を乗り越えられていないケースもあります。このような状況では支援者も現状に慣れてしまっており、被害者への適切な対応は難しく、この問題の根深さを感じさせられました。

現在、特別嘱託として担当している技術協力プロジェクトの運営指導調査でカンボジアの女性省を訪問。(右から2人目)
現在、特別嘱託として担当している技術協力プロジェクトの運営指導調査でカンボジアの女性省を訪問。
(右から2人目)

目の前のチャンスを一つ一つ

Q:国際協力を志す方に、キャリア形成のアドバイスをお願いします。

最初から先が見通せていたわけではなく、自分の関心にあった仕事を探して、その都度、目の前にあるチャンスをつかむようにしてきました。

協力隊に参加した際も先が見えていたわけではありませんが、一生懸命活動した結果、次の進路が見えてきて、ジュニア専門員につながりました。ジュニア専門員になってみると、自分の関心分野や経験に合致する案件と巡り会い、技術協力プロジェクトに関わることができました。巡ってきたチャンスを断らず、一つ一つの経験を経て次の仕事に活かしていけば、また新しい選択肢が出てくる。恐れずやってみることでしか道はできないのではないでしょうか。

最近は、ジェンダーに関心をもつ若者が国際協力業界にも増えていると感じていますが、まだまだ課題は山積しています。これまでの方法にとらわれず、ジェンダーの視点をもった人材にどんどん国際協力業界に入ってきてほしいと思います。

ニカラグアでの専門家時代。2015年JICA「なんとかしなきゃ!プロジェクト」のサポーターであるNoraさんがプロジェクトサイトを訪問。(右端が宇佐美さん)
ニカラグアでの専門家時代。2015年JICA「なんとかしなきゃ!プロジェクト」のサポーターである
Noraさんがプロジェクトサイトを訪問。(右端が宇佐美さん)

国際協力人材部
人材養成課 インターン
尾形梨宝

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