「私の国際協力ジャーニー ジュニア専門員経験者キャリアインタビュー③」

国際協力の形は多種多様、アクターによって様々です。その中でもJICAの目指す国際協力の形とは、開発途上国こそが主役であり、その国による国造りを支援していくというものです。そのビジョンの実現のためには、その国の未来を担う子どもたちへの教育が重要であることは言うに及びません。今回は前回に続き、JICAインターンの青山が日本の教育現場から国際協力の現場へと飛び込んでいった金津 信一さん(JICA人間開発部 基礎教育グループ特別嘱託)からお話を伺いました。

教師としての現場経験が礎

Q:これまでどのようなキャリアを歩んでこられましたか?

公立中学校で計8年、数学及び理科教員として日本の教育現場に携わり、その最中に海外協力隊(職種:理数科教師/派遣国:ニジェール)に参加しました。教員退職後は、在ベナン日本国大使館で、NGOを対象としたプロジェクト案件の形成及び管理業務に1年間従事しました。大使館勤務後はJICA人間開発部基礎教育グループのジュニア専門員として、主にフランス語圏アフリカの 技術協力プロジェクト 無償資金協力案件 の業務管理を担当しました。その後は、セネガルの初等教育算数能力向上プロジェクトの専門家(指導科目:算数教育/業務調整)として、セネガル国内の小学1〜4年生の児童を対象とした算数学力の向上を目的に、パイロットモデル及び全国普及モデルの開発・普及に向けた活動に従事しました。プロジェクト終了後は、再びJICA人間開発部基礎教育グループにて特別嘱託として、主にセネガル、ニジェール、ブルキナファソの案件を担当しています。

フランス語は大学で第2外国語として選択した程度で、当初はあまり馴染みがありませんでしたが、協力隊に参加したことから徐々に興味を持ち始め、帰国後は独学で勉強を続けました。教員時代は多忙な毎日が続いていたので、仕事で帰りが遅くなっても家やカフェで勉強し、時には部活動の指導中にベンチに座って単語帳を片手に語彙を増やしたりするなど、学習時間の確保のために工夫したことは今では懐かしい記憶です。

Q:国際協力を志したきっかけについて教えてください。

大学時代から国際協力に対する漠然とした夢がありました。また、教育分野の国際協力に大きく貢献できるポテンシャルを感じ、いつか「教育」×「国際協力」で世界に貢献できる人材になりたいという思いを持っていました。その実現のためには、まず教師としてのスキルを身につけることが先決だと思い、日本での教員生活をスタートさせました。協力隊に参加する機会にも恵まれ、現地で貢献できる手法に加え、途上国支援のイメージも徐々に掴むことができました。このような手探り状態ではありながらも、まずは現場から学びながら行動する姿勢が、やがて現在のキャリアに繋がっているのだと感じています。

「みんな」で子どもが学べる学校づくり

Q:経験された現場(ニジェール・セネガル)では、どのような「学びの課題」を感じましたか。

小学校に通うことができない子どもたちは世界中で約5800万人にも上り、その半数以上がサブサハラアフリカで暮らしています(2017年時点)。また、たとえ学校に通えたとしても、自分たちの地域では質の高い教育を受けることができないという課題もあります。実際、サブサハラアフリカでは少なくとも小学校の3割の生徒が最終学年に到達できず、8割以上の生徒は必要最低限の学力(読解力、計算力)が身に付いていません。このようにこれらの地域では基礎教育分野に大きな課題を抱えており、ニジェール・セネガルも同様です。取り組むべき優先課題としては、低学年の基礎学力の定着や留年・中退者の抑制があり、学びの質の改善は緊急の課題です。また教育現場が抱える問題はさまざまな要因が混在しており、学校へのアクセスの問題、子ども用の学習教材や教員用の指導教材の不足、教員の指導能力の欠如、学校の管理体制の脆弱性、公用語の習得の問題、試験(アセスメント)や分析の質の確保など、課題は山積みです。

Q:その課題解決のためにご自身はどのような活動をされてきましたか。

ニジェールでの協力隊の時には、市内の中学校で実験授業の補佐や、全国の理科教員や実験技術者への効果的な実験方法や授業案の提案・指導などを行いました。また、当時はSMASSEフェーズ1 1 が実施中であり、中等理数科教員の教授能力向上を目指し、研修の支援及び現地で作成可能な理科教材の開発(簡易顕微鏡など)の活動支援も行いました。

セネガルのプロジェクトでは授業改善と並行して、学校組織全体への改善アプローチも試行しました。少し補足をすると、JICAの代表的な学びの質の改善アプローチの一つに、「みんなの学校アプローチ」があります。このアプローチは、地域住民・学校・行政が一体となって、子どもが学べる学校づくりを「みんな」で改善していくというプロジェクトモデルです。まずは住民の選挙による地域に開かれた学校運営委員会を地域住民の手によって設立し、そして地域の子どもたちが抱える学びの現状や課題を保護者や教員とともに議論しながら、地域が目指す理想の教育環境に向けて、住民の自分たちができる教育改善活動を「みんな」で実行していきます。セネガルでは、昨年までこのアプローチを一部取り入れたプロジェクト活動が展開され、学校・地域・保護者との協働活動によって、子どもの学力の向上(セネガルでの小学1〜4年生の計算スキルの定着)を実現しました。

セネガルの専門家として従事した「初等教育算数能力向上プロジェクト」。地域住民と学校関係者が集っての住民総会の様子。写真奥で撮影しているのが金津さん。
セネガルの専門家として従事した「初等教育算数能力向上プロジェクト」。
地域住民と学校関係者が集っての住民総会の様子。
写真奥で撮影しているのが金津さん。

カウンターパートと苦楽を共に

Q:専門家として現地で活動する際のやりがい・達成感を感じる瞬間を教えてください。

専門家の業務では、プロジェクトの目標設定から実施、評価、改善といった一連の流れにおいて、関係者と日々活動を共にすることになります。その中で、プロジェクト最後の年のエピソードが、私の心に深く刻まれています。その年、活動を開始するにあたり、児童の学力が果たして本当に伸びるのか、関係者間でも懐疑的な意見が少なからずありました。しかし、現地の関係者が自分たちで決めた目標は必ず達成しようと心を一つにして行動した結果、最終的には見事プロジェクト目標を達成することに繋がりました。もちろん目標を達成したことは私も当事者として嬉しかったのですが、それ以上に嬉しく感じたのは、プロジェクト終了後に当時の活動現場の監督官を訪ねた際に、限られた予算や人的リソースをうまく活用しながら、JICAの支援がなくてもこれまでの事業を続けようと自主的に行動している姿を目の当たりにしたことです。その時語っていた彼の表情は実に、誇りと充実感に満ち溢れていました。専門家の業務というのは、プロジェクト目標達成のために力を注ぐことを第一としますが、それ以上に大切なのは、JICA事業を通して現地の方たちが達成感と喜びを感じてもらえるように行動することなのだと実感しました。

「現場第一」のための自身の役割

Q:国際協力に関わるうえでご自身が大切にしている信条・価値観を教えてください。

「現場第一」の姿勢です。これまで教員・協力隊・プロジェクト専門家と、それぞれの現場経験を経て、現在の本部業務で常々大切だと感じていることは、現場で汗水を流し、時には関係者と熱い議論を交わしながら、日々奮闘されている方々の存在です。子どもの教育のためには、その子どもたちを様々なレベルで支える方々の存在があり、各々の行動が実を結んだ結果が、子どもの成長につながるものと実感しています。教育はどの国においても、平和な社会を作り、継続的な経済発展の礎となる国としての基盤です。中でも、アフリカにおける基礎教育の改善は、国として求められる人材を形成するための共通要素として重要な位置を占めています。国際協力業界において教育分野に携わる者として、現場で日々活動されている方々の視点を忘れることなく、また自身の職務をしっかり全うするという責任感を持ちながら、今の業務を進めていきたいです。

Q:ご自身のキャリアの将来的展望と目標を教えてください。

国際協力の業界では、実に様々な機関・部署の方々との業務が協働で進められています。私が目指すキャリア像は、問題に対して有効な解決法を提案し、自ら行動できる専門家(スペシャリスト)としての姿です。私自身、まだまだ身につけるべきスキルは多々ありますが、現場で即戦力となる人材になるためには、特定分野における専門性と分析力を高め、常に学び続ける姿勢が重要だと感じています。その時の潮流を見極めながら、迅速な決断と柔軟な対応、そして信念を持って行動していくことが、現場で求められていると感じます。

自分にしかないものは何か

Q:将来的に国際協力を志す方に向けたメッセージをお願いします。

私自身、国際協力の道を志してから現在のポジションに就くのに10年以上が経ちました。しかし正直、今でも理想のキャリアというものに確固たる答えはないと思います。だからこそ、自分にしかないものは何なのか、自分の長所は何なのか、先を見据えながら、時には自分を客観視して、目の前の課題や業務を日々乗り越えて行くことで、いずれ自分の立ち位置や今後の方向性が少しずつ見えてくると思います。自身の信念と熱い想いを持ち、国際協力に対するアンテナを張り続けていれば、きっと自ずと道は拓けてくるのではないでしょうか。

現在の特別嘱託の業務で、JICAニジェール事務所を訪問した際に、帰国研修員と記念撮影。写真右が金津さん。
現在の特別嘱託の業務で、JICAニジェール事務所を訪問した際に、帰国研修員と記念撮影。
写真右が金津さん。

JICA国際協力人材部 人材養成課
(現・人事部 開発協力人材室)
インターン 青山周平
(2020年3月執筆)

JICAの人材制度

■ジュニア専門員

~専門家への足掛かりとしてJICA本部で研修にあたる育成プログラム~
同人材制度は、開発途上国・地域等における開発援助の専門知識と一定の活動経験を有し、将来にわたり国際協力業務に従事することを志望する若手人材を対象に、主に国内においてJICA事業を実地に研修する機会を提供するものです。
JICA本部での研修は、最長1年6ヵ月と、研修終了後は長期の専門家等として海外へ派遣されることを原則とします。(関連サイトは こちら

■特別嘱託

~高い専門性・技術・経験を活かし、JICA事業に貢献する職制~
これまで国際協力に従事し培った専門的知見を活かしながら、JICA本部にて情報収集や分析、プロジェクト形成のための事前調査から、実施中のプロジェクトの支援業務を行う職制です。
委嘱終了後は、長期の専門家等として海外へ派遣されることを原則とします。(関連サイトは こちら

1: ニジェール国中等理数科教育強化計画プロジェクトフェーズ1(2006年10月~2009年10月)

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