「中南米と日本の懸け橋として」

6月18日は「海外移住の日」、そして6月20日は「国際日系デー」。「海外移住の日」はブラジルへの移住者が1908年に現地に到着した日、「国際日系デー」は日本からの最初の集団移住者「元年者」がハワイに上陸した日に由来します。
JICA中南米部で働く高橋スリマラさんは日系ブラジル人の3世。日本から中南米での国際協力に携わる思いをご紹介します。

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JICA中南米部南米課の高橋スリマラです。
大正10年4月8日樺太豊原郡西久保村生まれの私の祖父は、1908年に始まったブラジル日本移民の流れで、12歳のとき家族と共にブラジルのサンパウロ州内陸部へ移住しました。その後、同様に日本から移住した祖母と結婚、私の父を含む子8人、孫21人の大家族を築き、同地で一生涯を過ごしました。私は、このように日本にルーツを持つ3代目であることから日系3世と呼ばれています。現在、ブラジルには世界最大の日系社会が存在し、私のような約200万人の日系人がいると推計されています。日系社会のプレゼンスにより、日本とブラジルが地理的に遠く離れている国でありながらも、ブラジル人にとっては、日本と「japonês(日本人)」は非常に身近な存在でもあります。

私は、ブラジル生まれのブラジル国籍ですが、1990年の「出入国管理および難民認定法」の改正・施行により、日系3世まで定住者として日本に在留することが認められるようになったことを受け、1991年に両親と妹2人と共に日本へ来ました。当時小学2年生だった私は、大阪で公立の小学校に通い、この時初めて日本語を学ぶことになりました。高校卒業まで9年間日本で暮らし、同年代の子どもたちと同じように勉強や部活などに励みました。日本での生活を経験したことで、中学生くらいの頃から、日本とブラジルを比較することがしばしばありました。ブラジルでは多くの貧しい人が物乞いをしたり、私と同世代の子どもが学校に行かずに仕事をしていたり、ブラジルの貧困や格差の問題を強く意識するようになり、そのとき、ブラジルの貧困問題を解決し、誰もが日本のように豊かな暮らしができるように貢献したいという漠然とした思いが芽生えました。

小学生の時の高橋さん(右)
小学生の時の高橋さん(右)

高校を卒業してからはブラジルへ戻り、ブラジリア大学で国際関係学を学びました。大学在学中、日本語が話せることを活かし、JICAブラジル事務所でインターンとして、調べ物やセミナー準備などのお手伝いをしました。その中でも、JICAの日本での研修に参加したブラジルの看護師さんが、日本で得た知見をブラジルの地方の看護師さんに共有したセミナーで、参加者が新たな知識に触れることに刺激を受けている姿を目の当たりにしたことは、今でも強く印象に残っています。

大学卒業後は、当時まだJICAと統合する前の国際協力銀行(JBIC)リオデジャネイロ駐在事務所で円借款案件のプロジェクトコーディネーターとして就職しました。初めての出張は、ブラジル東北部の貧困地帯に上水道施設を整備する円借款事業の進捗状況を確認するものでしたが、ほとんどの家庭に水道が行き渡っておらず、地域の住民にとって大きな生活改善をもたらす事業であることを改めて確認したと同時に、国際協力は、開発途上国が抱える様々な課題の問題解決に貢献していることを実感しました。

JICA及びJBICでの経験から、ブラジル側の職員として事業を推進したいと思い、2009年から8年間、サンパウロ州の公務員に転職しました。公務員としては国際機関等からの資金調達や環境分野の政策の策定や制度改善などの業務に携わりましたが、政治的な事情や資金不足などによって、事業が思い通りに進まず悩んでいたこともしばしばありました。社会人10年目という節目を迎え、計画の立て方や事業の進め方などを改善できるようによりステップアップしたい思いと、海外で挑戦してみたいとの思いの中、友人がFacebookで、PARTNERのJICA中南米部スタッフ募集のページをシェアしたのをたまたま見かけたことがきっかけで、応募した結果、採用となりました。

JICA中南米部の業務で、ブラジル事業のサイト視察
JICA中南米部の業務で、ブラジル事業のサイト視察

今年7月で、JICA中南米部南米課の職に就いてから3年になります。当初は、アルゼンチン担当とブラジル副担当として、両国の政治・経済の情勢や、重点課題、案件の状況などをしっかりと把握し、JICA内外への説明や資料作成等の業務が中心でした。現在は、業務に慣れてきたことに伴い、ブラジルやペルーでの円借款案件の形成にも関わるようになりました。案件形成は、相手国との協議を重ね、その国の課題やニーズのために必要な協力内容を一緒に考えていくプロセスであり、承認手続き面も細かくチャレンジングですが、上司や同僚からアドバイスやサポートを得ながら業務に携わっています。JICA中南米部南米課でブラジル以外の国の事業に携わることができたことで、私の国際協力や開発の世界に関する視野が広がり、知識も深まったと思います。誰もが豊かな暮らしができる社会の構築に貢献したい初心は今も変わらず、目標に向かって進んでいきます。

JICA中南米部南米課
高橋 スリマラ

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