「スポーツで世界を繋ぐ~JICAの事業から~」

保健医療、農業、環境など、様々な分野で国際協力を行っているJICAのなかで「スポーツ」も大きな存在です。
JICA海外協力隊による活動などの歴史があり、東京オリンピック・パラリンピックでますます注目を集め重要となっています。
今回はJICAのサッカー分科会に所属する土本周職員が、スポーツと開発について、そしてスポーツへの思いについて綴ります。

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2019年2月、中町公祐選手がサッカーJ1・横浜F・マリノスから、ザンビアプレミアリーグ1部ゼスコユナイテッドFCに電撃移籍しました。サッカーファンなら誰もが知っている選手のアフリカ移籍にファン・メディアは驚愕。筆者も驚いたうちの一人で、ザンビアは新人海外OJT(JICA新人職員が1年目に3ヵ月間行う在外事務所での研修)を過ごした大好きな国だったこともあり、スマホで移籍のニュースを見たときの衝撃は今でも覚えています。「あのザンビアに移籍!?」だった私に対して、多くのサッカーファンの第一印象は「ザンビアってどこ?」だったのではないでしょうか。実はそこに中町選手の移籍の真意があります。横浜F・マリノスからの
2年の契約延長オファーを断り(30歳を超えた選手が複数年オファーを受けること自体珍しい)、ザンビアへ移籍した理由を「この移籍で日本とアフリカを繋ぐため」と述べています。この言葉通り、ザンビア移籍後は現地で奮闘する様子がドキュメンタリーとして日本のテレビで放送されるなど、ザンビアが「名前しか知らなかった国」から、「アフリカ南部の、赤土の、課題もあるが希望に満ちた国」といった印象に変わったファンも少なくないのではないでしょうか。

ザンビア初の日本人選手として活躍する中、中町選手はJICAザンビア事務所への訪問、JICA横浜の企画展示、昨夏横浜で開催されたTICAD(アフリカ開発会議)に関するSNSでの情報発信など、惜しげもなくJICAの活動に協力・応援してくださっています。筆者が大のサッカーファンであることを差し引いても、日本のトップアスリートで自らアフリカに身を置き、行動し、発信するスポーツ選手は他にいないと思います。余談ですが、筆者も
JICA横浜での企画展示に係る中町選手との打ち合わせに同席させていただきました。オフシーズンで束の間の帰国にも関わらず、こちらの少々失礼な対応(横浜のスーパースターであることを承知していないJICA関係者がいた)にも嫌な顔一つせず(むしろ「JICA横浜さんなんですから知っといてくださいよ〜」と場を和ませてくださりました)、JICA横浜での企画展示への協力打診も二つ返事で了承いただき、非常に気さくで人情のある方でした。「ザンビアは知らないが中町選手は知っている人」が「中町選手を通じてザンビアを知る」ことは、JICAの活動を一般の方にご理解いただく意味で、非常に意義深いことです。また物理的には遠いですが、人や物の繋がりが日本と強い開発途上国の姿を、このような行動力・発信力のある方を通じて多くの人に知っていただくことは、我々にとって非常にありがたいことです。

JICAはスポーツを通じて、開発途上国への認知を広げるだけでなく、スポーツを通じた人材育成・社会課題解決にも取り組んでいます。例えば、カンボジアでは中学校体育科教育指導書の作成を通じて、社会に出てからも役立つ「態度・知識・技能・協調性」の向上を目指し、南スーダンでは長年続いた内戦による民族間の緊張緩和を目的に、南スーダン全国スポーツ大会「国民結束の日」(National Unity Day)を開催しています。日本人からすると当たり前のように取り組んできた学校体育や部活、その他スポーツ活動が、開発途上国の国づくりの一助となるのです。これまで筆者が想像もしてこなかった協力方法ですが、一方で納得感もあります。筆者も小学校から大学まで(留学先の英でも)サッカーを続けてきましたが、様々なチームメイトを理解し、環境に自身を適応させ、もちろんつらい練習にも耐え、振り返るとその過程で他者理解や集団での行動規範など、体得したものは少なくないと感じます。橋や空港ができる、コメの収量が上がるといった、結果を物理的、定量的に表しやすい協力ではないかもしれませんが、今後、スポーツの持つ力がより科学的に定義・肯定され、スポーツを通じた開発が加速することを真に期待します。

第4回南スーダン全国スポーツ大会「国民結束の日」(National Unity Day)での4×100mリレー男子決勝の様子
第4回南スーダン全国スポーツ大会「国民結束の日」(National Unity Day)での4×100mリレー男子決勝の様子(写真提供:久野真一/JICA)

奇しくも、本コラムリリース日の7月30日は予定されていた2020東京オリンピック大会7日目でしたが、今般の新型コロナウイルスの感染拡大で開催延期となりました。全国の市区町村が準備を進めているホストタウン事業では、各自治体が思い思いのおもてなしを企画しています。アフリカはもちろんのこと、171の国と地域がホストタウンを決定し(2020年6月30日時点)、本稿で紹介したザンビアも宮城県丸森町・千葉県旭市がホストタウンとして登録され、アフリカ予選を勝ち抜いた女子サッカー代表のオリンピック出場が内定しています。感染症拡大が収束し、日本各地で各国選手団との温かい交流が見られる日を筆者も心待ちにしています。

最後に、近年日本のプロスポーツチームには、選手市場のボーダーレス化に伴い、多くの開発途上国出身選手が所属しています。例えばサッカーでは、ケニアのスラム地域出身で工学士を持つマイケル・オルンガ選手(柏レイソル)、南スーダン難民としてケニアに生まれオーストラリアに移住したトーマス・デン選手(浦和レッズ)がJリーグで活躍しています。そういった選手のプレーへの注目はもちろん、関心があれば、選手個々の生き方やバックボーン、また出身国と日本の関わりにも是非注目していただきたいと思います。
「スポーツを通じて社会を理解し、スポーツを通じて人も社会も成長する。」月並みな言い方になりますが、スポーツの力は無限です。そんな気付きを本稿から少しでも得ていただければ幸いです。

JICA横浜の企画展示に係る打ち合わせ時の記念写真
JICA横浜の企画展示に係る打ち合わせ時の記念写真(右から2番目が中町選手、右端が筆者)

JICA人間開発部
高等・技術教育チーム
土本周

【参考】
中町選手が代表を務めるNPO法人「Pass on」のブログでJICAザンビア事務所訪問を報告する記事
スポーツと開発におけるJICAの取り組み

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