コラム 海外を目指す学生たちのリアル
青山学院高等部(自主団体ブルーペコのみなさん)
与えるだけでは失われてしまうものがある。現地での体験が、支援の考え方を変えた。
「循環のない支援は支援じゃない」「本当の支援って何だろう?」 ―東京都渋谷区にある青山学院高等部の一角で、熱い議論がくりかえされています。2015年に文部科学省が推進する「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」(※1)の認定も受けている同校。そこには、教師や保護者の指示ではなく、自ら世界の社会問題に挑む高校生たちの姿がありました。経験豊富なNGOスタッフも驚かせるという彼らの原動力はどこにあるのでしょうか…?第2回目は、高校生のみなさんが参加した国際交流プログラムで印象に残っていること、学んだことなどを紹介します。
(※1)世界で活躍するグローバル・リーダーの育成を目指す高等学校を文科省が認定する制度。
フィリピンの子どもたちの夢は、「家族を幸せにすること」。
- 毎年学内で希望者を募って実施される「フィリピン訪問プログラム」。印象に残っていることはある?
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高校2年生 Kさん
衝撃を受けたのは、フィリピンの子どもたちの一番の夢が「家族を幸せにしたい」だったこと。日本の子どもなら「先生になりたい」とか「お花屋さんになりたい」とか、自分のやりたいことですよね。でも、フィリピンでは「家族の健康を守って、家族を笑顔にする」ことが子どもたちの最終目標なんです。そのために自分が一生懸命働いて、お金を稼ぎたいと思っているんですね。
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高校3年生 Yさん
私もフィリピンの子どもたちにインタビューするたびに、毎回刺激を受けます。幸せに対する価値観が私たちとはあまりにも違う、それはなぜか。「幸せってなんだろう」とか「そもそも貧困とは何か?」とか。深いところまで考えるようになりましたね。フィリピンで経験したことは、私たちの新たな活動の糧になっています。
- ブルーペコとして行った「東ティモールスタディツアー」で印象に残っていることは?
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高校2年生 Kさん
東ティモールで印象的だったのは、現地の人たちがとにかく明るいこと。温かい人ばかりで、出会ってすぐに笑顔で「ボンディーア!(こんにちは)」って、大きな声で挨拶してくれるんです。「今のこの一瞬を楽しもう!」という空気をすごく感じました。 -
高校2年生 Hさん
そうそう。車ですれ違うときも、突然「ボンディーア!」って声をかけてくれるから、私たちは挨拶を返すのに必死でしたね(笑)。 -
高校2年生 Kさん
前日に一度会っただけの人が、次の日に「また会ったね!」って、親しく腕を組んでくれたり、通りがかった人が教会の門を開けてくれたり。みんなすごく優しくて、親切なんです。
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高校2年生 Hさん
舗装されてない山道で、私たちの乗っていた車が脱輪しちゃったことがあったんですよ。とても焦ったんですけど、すぐに現地のスタッフの方や、通りかかった人たちが助けにきてくれました。わざわざ山の上から降りてきた人もいて、気づいたら15人くらい集まってくれていた。東ティモールの人たちは、普段から当たり前のように助け合っているんですよね。思わぬハプニングに驚きましたけど、貴重な経験になりました。
きっかけは、好奇心、小さな違和感、子どもの頃の夢。
- 青山学院高等部に進学して、「ブルーペコ」に参加しようと思ったのはなぜ?
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高校2年生 Oさん
私は高等部に来るまで、ブルーペコや訪問プログラムのことは全く知りませんでした。でも「高校生になったら新しいことに挑戦したい」という気持ちはあった。そんなとき、入学式のオリエンテーションで先輩たちの活動を知って、「私もやってみたい!」って思ったんです。 -
高校2年生 Kさん
私は昔から「いろんな国に行きたい」という強い気持ちがありました。でも、旅行会社のツアーでは、私が見たいものを見ることはできないだろうな、と。だから、青学のように国際交流が盛んな学校に進学して、そこのプログラムに参加してみようと考えたんです。それなら先生たちも慣れているだろうし、私が本当に見たいものを見れるはずだ、と思いました。 -
高校2年生 Hさん
中学まではバレーボール一筋だったんですけど、高校に入って部活から離れたので、やることがなくなってしまったんです。そんなとき同じクラスだったKさんが「東ティモールに行こう」って強く誘ってくれて。私も「新しいことをやりたい」という気持ちがあったし、旅行も好きだったので挑戦してみようと思いました。東ティモールは、家族旅行では行けない場所ですからね(笑)。
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高校2年生 Sさん
私は小さいころからずっと英語を習ってきたので、もともと海外にすごく興味がありました。世界には貧困に苦しむ人たちがいることを知って、そういうことに目をつむったまま自分だけ楽しむことに小さな違和感を覚えるようになったんです。青山学院高等部に入って、発展途上国や海外支援について学べるチャンスがあると聞いて「これだ!」って。私の将来につながるチャレンジになるはずだと思いました。 -
高校3年生 Yさん
小学生のときに、父の仕事の関係でフィリピンのマニラに住んでいました。だから私にとって東南アジアは第二の故郷。小さい頃からストリートチルドレンの日常を目にしてきたので、その頃から「将来は東南アジアのためになるような仕事がしたい」と思っていました。それが今の活動につながっています。
「本当の支援とは何か」を考え続ける。
- 今までの経験を通して感じたこと、考えたことはある?
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高校3年生 Yさん
フィリピン在住の後、今度は1年間ミャンマーに留学しました。そこで、目ざましい経済成長の裏で、ミャンマー独自の文化や風土が徐々に失われていく様子を目の当たりにしました。日常的に助け合うあたたかい空気感や、ゆったりとした時間の流れ。資金や物資を「与えるだけ」の支援では、その国の人たちの持つ大切なものが失われてしまうように感じました。
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高校2年生 Kさん
今、フィリピンではどんどんリゾートホテルができています。その分雇用が増えたので、経済的には豊かになったかもしれない。でも自然は破壊されているし、海外企業がどんどん進出している。フィリピンの人たちもそれでいいとは思っていないけど、豊かになるためには仕方ない、と考えていて…。その国に合った支援というものを考えなければと、強く思いました。 -
高校2年生 Sさん
私は、現地の人たちの「選択肢」が少ないことに気づきました。私たちは小さいころからさまざまな夢を持って、やりたいことを選んで生きています。でも、貧困の中にいるとそういうことが選べないんです。だから、ただ経済的に発展させるのではなく、たくさんある選択肢の中から彼らがしたい発展の形や生き方を選べるようになったらいいなって思います。そこでブルーペコでは「苗プロジェクト」という取り組みを始めました。 -
高校2年生 Kさん
「苗プロジェクト」とは、私たちがイベントなどで売ったコーヒーの売り上げを東ティモールで活動しているNGOに送ってコーヒーの苗を買ってもらう。それを現地の農家さんたちが植える、という取り組みです。 -
高校2年生 Sさん
コーヒーの木は数年に1度、根元から切って元気な枝を生やさないと、豆の品質がどんどん落ちてしまいます。でも切ってしまうとその年の収入がなくなっちゃうので、やろうとしない農家さんが多いし、そもそもやり方を知らない人もいる。でも「もっと美味しいコーヒーをつくりたい」と思っている人もたくさんいるんです。だから、コーヒー豆農家さんがやりたい方法を選択できる環境をつくりたいと思った。それが、このプロジェクトの目的です。また、自分たちのつくるコーヒーに自信がない、という農家さんもいたので、青学の生徒たちが美味しくコーヒーを味わっている動画をつくり、見せる取り組みもしました。始まったばかりのプロジェクトですが、農家さんのモチベーションが上がっているのを感じています。
※文中の学年表記は2020年2月現在のものです。
プロフィール
青山学院高等部
創立145周年を迎える学校法人「青山学院」の高等部。キリスト教信仰のもと、「世界の平和に貢献し、人に仕える心」を持つグローバル・リーダーの育成に力を入れている。2015年からは文部科学省が推進する「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定校に認定。フィリピン貧困地域の子どもを支援する訪問プログラムや、フェアトレードについて学ぶ東ティモールスタディツアーなど、さまざまなプログラムを実践している。