自分たちが“見て・感じた”ことをビジネスに。感性と行動力で実現する、新しい国際協力のカタチ ~社会貢献活動におけるキャリア(途上国ビジネス編)~

熊坂 惟さん

民間企業 株式会社Granma(グランマ) 事業統括ディレクター 20代

  • 民間企業
  • 援助アプローチ/戦略/手法
  • インタビュー

    2009年4月、志高い若者3人により立ち上げられた株式会社Granma(グランマ)。その平均年齢はなんと26歳。同社はBOP層に特化した商社である。彼らが目指すのは、社会の“最大多数の最大幸福”を実現するプラットフォームづくり。その手段の一つとして力を入れているのが、開発途上国をはじめとする貧困社会が抱える課題の解決に寄与するビジネスの構築だ。今年の5~6月に開催された『世界を変えるデザイン展』では広報や運営を担当した。社会人2年目にして、新規顧客の開拓から事業の管理・運営までの統括を任されている熊坂 惟さんに、グランマで働くことになるまでの経緯や現在の仕事、そして自身の今後のビジョンや会社への思いについてうかがった。

    現在の業務を、どのように選ばれましたか? これまでのキャリアの積み方、キャリア選択における軸や考え方をお聞かせください。

    大学2年生まで、教師になることにまったく疑いを持っていませんでした。しかし、具体的な進路を考え始めたとき、教職課程を修了して教師免許を取得し、教務指導書どおりに教えることを自分が求めているのか、違和感を持つようになったのです。
    僕は、学校を一つのコミュニティの中心となりうる大切な場所だと思っているんですが、それなら、海外にはどんな学校があり、どんな教育が行なわれていて、それらを取り巻く環境とはどんなものなんだろう? と興味がわいたのです。「世界中の学校を見てみたい」という欲求にかられて、深夜のカラオケ店でのバイトで稼いだ
    150万円を握り締め、大学を1年間休学して世界を放浪しました。南米、中米を経由してヨーロッパ側へまわり、中東、東南アジア、南アジアと旅しているうちに、「まだ教師になるタイミングではないな」と感じるようになったのです。
    それは、途上国において、教育以前に「貧困」という根本的な環境をつくり出している現場そのものを目の当たりにしたからかもしれません。それを解決する手段はなんだろう、という疑問を持って帰国することになります。その時点では、その疑問と途上国ビジネスはまだ結びついていませんでした。大学に戻り、その疑問をいろいろな人に問いかけたところ、NGO代表などさまざまなアプローチで途上国に存在する問題の解決に向けて行動をしている人たちを紹介してもらいました。その中で、後にグランマ代表になる本村拓人と出会ったのです。

    その後、本村が勤務していたweb制作会社にインターンとして入りました。そこでは、NGOなどのweb制作業務を行うと共に、当時、本村が立ち上げ、現在も運営を続けるオンラインマガジン“Whose real is it !??”(社会貢献の新しいかたちを、様々な人のインタビューを通して発信)で、主にNGO代表へのインタビューを担当しました。約半年で50人近くの方々の話を聞きました。
    インターンとして働きながら就職活動も行ない、ITベンチャー企業から内定をもらっていました。しかし、本村たちの熱意と可能性に魅せられ、土壇場で辞退をし、グランマの立ち上げに携わることにしました。
    かなり大胆な決断だったかもしれませんね。内定者代表挨拶で偉そうなことまで言っておいて…。相手先企業の方には大変申し訳ないことをしたと思っています。でも、本村と世代が近かったこと、そして本村も世界放浪歴があって、そこで感じた課題にビジネスの側面からアプローチしようという考え方が自分と似ていて共感したんです。それに、インターン時代にインタビューをさせてもらった方々が語ってくれた決意や覚悟は、自分自身の進路選択における覚悟という意味でも大いに影響を受けましたね。

    一般的に新卒で企業に入社したら、OJTや新人研修を通して社会人としてのスキルを身につけるものですが、立ち上げたばかりの会社で教育担当もいない中、熊坂さんはどのようなプロセスを踏んできましたか?

    僕たちは、途上国の現場で観察・情報収集をしながら、社会の課題を探求し、彼らが本当に必要としている製品やサービスを共に創り出したいと考えています。そのためには、メーカーやコンサルタントなど、さまざまな人と関わります。その出会いの中で、経験値は絶対的に少ないわけですから、分からないことは素直に聞いて教えてもらいます。大企業の教育制度を受けた同世代に負けたくないという気持ちが強いので、普段から本を読む、ジャンルを問わず人に会う、などは意識していますし、どんなに忙しくても、経験や失敗をその日のうちに振り返るように心がけています。また、グランマは定時もなく、一人ひとりがサテライトオフィスとして活動しているため、自由度は高いですが、その分自己管理・情報共有を怠ってはいけないし、個人の責任も大きいです。だからこそ、非常にやりがいを感じています。

    印象に残っている業務についてお聞かせください。

    今年(2010年)の5~6月に『世界を変えるデザイン展(以下、デザイン展)』を開催し、総来場者約20,000人という大反響を得ました。この企画は、グランマにとっても自身にとっても、途上国で“見て・感じた”ことを実際にビジネスにつなげる大きな一歩でした。

    大学時代の放浪の旅で途上国に存在する課題を目の当たりにしてきましたが、その解決へ向けた活動はODA、
    NGOなど、一部のアクターのみが心血を注ぎ、たまに大企業が独自の取り組みを見せるというような状況で、それ以外の一般的な日本人(先進国の人々)にとって途上国の課題とは、関わる接点がない、距離があるものだと感じていました。だから、『デザイン展』をグランマが開催すると決めた時は、これまで途上国や開発に関心がなかった人たちでも来場してくれるような展覧会にしたいと考えました。
    また、現在の先進国におけるデザインは、世界総人口のほんの10%を対象にしているに過ぎません。これからのデザインは、その他90%の人々のニーズに目を向け、彼らの生活水準を向上させ、自尊心に満ちた生活を提供する使命をもっており、それはデザインのみならず、テクノロジーや企業活動全般にも通じると思うんです。
    こういった視点や、途上国の現状・課題を身近なこととして捉える視点を、このデザイン展を通して伝えたかったんです。だからこそ、デザインやものづくりのプロである人たち、更には一般の人達の目にも留まりやすいミッドタウンという場所での開催は必要不可欠でした。

    デザイン展の企画過程では、途上国の現場や大学の研究室など、途上国の課題解決のための製品づくりに携わる人たちに会いにいくことに時間を割きました。この展示の目的を彼らに理解してもらい、協力を得るために、直接会いに行ってミッションを共有することが必要だと感じたんです。広報面では、これまでの人脈やメーリングリストを活用し、あらゆる媒体から発信しました。このように我々の想いを多方面に発信し、共感してくれる人たちを集められたこともデザイン展の成果の一つだと思います。
    実際、大手メーカーや大学生はじめ様々な業種、業界から多彩な才能を持った方々にお集まりいただきました。展覧会だけでなく、同時開催のワークショップやカンファレンス参加者の声から分かったことは、この企画を通して、自分の目で“現場”(=途上国の実情)を知る事が重要だと感じて頂けたこと、現場から遠く離れたこの日本でも途上国へ向けたプロダクト開発に少しでも関わりをもてるような仕組みが必要とされていること、です。

    今後は、東京以外の地域にも巡回していくことを検討していますし、2010年7月にはビックサイトで行われたテクノフロンティア2010へ出展のお誘いをいただき、「BOPプロダクツゾーン」に出展しました。来場者はエンジニアの方が多く、ねじの形状に関する質問など、より技術的な視点からのご意見をいただきました。
    今回はデザイナーと呼ばれる方々の取り組みに特化した企画でしたが、ありとあらゆる業種で「世界を変える○○」という活動は可能だと思っています。

    今後の目標やキャリアプランをお聞かせください。

    僕たちグランマは、世界中の課題に精通した企業でありたいと思っています。僕たちは、貧困を「イマジネーションが枯渇している状態」と考えます。その貧困にある人々に対して、僕たちが働きかけることで、彼らが「自分の意志」で選択していくことができる状態をつくることを目指したい。言語化するとまだ漠然としている部分はありますが、それが僕たちの考える「プラットフォーム」すなわち、“最大多数の最大幸福”が実現する世界であり、目指すところです。そのためには、彼らの声に常に耳を傾け、同じフィールドに立ち続けたいと思います。
    僕らと同じような考え方を持つNPOなどもたくさんありますが、その中でグランマの強みは、世界中の課題を自ら現場に赴いて発掘する“現場力”、解決への具体策を講じ、実行する“実行力”、また、グランマだけではできることは限られているので、さまざまなパートナーを巻き込むビジョンを打ち立てる“創造力”があることだ、と思います。

    僕個人としては、いずれ50歳を過ぎた頃にはやっぱり教師になりたいですね。グランマのプラットフォームが機能する世界の中で、「教育」という分野からのアプローチでもチャレンジしたい。既存の教科ではなく、企業やさまざまな人を巻き込んだプロジェクトを起こして、人を育てるスキームや哲学を体系化した新しい学問をつくり、国内はもちろん途上国などにも広めたいんです。それを考えるとワクワクしてきますね。



    ※本記事は、2010年8月15日時点での情報となります。

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