寄付って、なんだろう?
ゲームで学んで、あなたの小さな一歩が国際協力に!?


毎年12月は、社会貢献について考える「寄付月間」。
寄付に関心はあるけれど、「何から始めればいいかわからない」「自分の寄付で何が変わるのだろう?」と感じている人も多いかもしれません。

そこで今回は、寄付や社会的投資が広がる社会づくりを目指す「認定NPO法人日本ファンドレイジング協会」でディレクターを務める田代美智華さんにインタビュー。

寄付の基本的な考え方から、誰もが楽しみながら社会課題を学べる「ゲーム」まで、私たち一人ひとりができること、寄付の「本質」に迫ります。


田代さんの写真

認定NPO法人日本ファンドレイジング協会
ディレクター

田代 美智華さん

明治大学国際日本学部卒、大学院大学至善館 MBA。大学卒業後、東南アジアの子ども支援×青少年育成の現場を経験。
現在は、協会にてNPOなどの資金調達を支える専門家として、ファンドレイジング基盤強化の推進やグローバルパートナーとのインパクトマネジメントとファンドレイジング実践のためのプログラム開発を担当。


「寄付月間」が教えてくれる、社会との新しいつながり方

――毎年12月は「寄付月間」だそうですね。どういった取り組みなのかを教えてください!

田代さんの写真
田代さんの写真

田代さん:

「寄付月間」は、毎年12月に行われる全国的な啓発キャンペーンです。 NPOや大学、企業や行政などが「寄付」を盛り上げる取り組みで、2015年から始まって今年で10周年になります。
事務局が一方的に主導するのではなく、賛同する皆さんが「寄付月間」という共通の名称のもと、それぞれ独自に寄付に関するイベントや発信を行う“参加型”のキャンペーンです。




――まだ「寄付」に馴染みがない人も多いかなと思うのですが、実際のところ、日本全体でどれくらいの寄付が集まっているんでしょうか?

田代さん:

そうなんです。「日本は寄付文化がない」とか「寄付が少ない」なんて思われがちですけど、決してそんなことはないんですよ。

私たちが4年に1回発行している『寄付白書』では、4年前の数字でも、日本の個人寄付の総額は年間約1兆2000億円にのぼります。
同時期(2018年時点)のイギリスが約1兆4000億円だったので、数字の上でもかなり近くなってきているんです。


――そんなに多くの寄付が集まるのですね!初めて知りました。

東南アジアの現場で感じた「寄付の必要性」

――田代さんご自身も、東南アジアで子ども支援の現場を経験されていますよね。現地で感じた「寄付の必要性」って、どんなものでしたか?

田代さん

田代さん:

大学卒業後、発展途上国で児童養護施設を運営するNPOに所属していました。
私は日本事務局で海外ボランティアツアーの運営なども担当していましたが、現地の施設は、そうした事業収益と現地の方々からの寄付で運営されていましたね。


アジアの児童養護施設で活動していた様子

東南アジアにて現地のこどもたちと
日本の大学生の交流をコーディネート


お金はもちろん、食料や物品が大量に寄付されることも。子どもたちの生活に直結しているのを目の当たりにしてきました。


――日本にいるとどうしても必要性を実感しにくい部分もあると思います。それでもやはり、日本でも寄付が大切だと感じますか?

田代さん:

そうですね。日本の個人寄付が大きく増えたのが、2011年の東日本大震災の時でした。
そして、それをさらに上回ったのがコロナ禍の時なんです。社会的に何か大きなことが起きた時に、「何かしなきゃ」という意識が寄付という行動に繋がるようです。

私自身、寄付集めに本格的に向き合ったのは、皮肉なことにそのコロナ禍がきっかけでした。
当時所属していた団体は、収益の8〜9割が海外事業だったので、渡航が一切できなくなり、寄付を募ったんです。

私たちはお金を集めるために必死だったんですが、寄付してくださった方から「何かしたいと思っていた。寄付する機会を与えてくれてありがとう」と言われました。




その時、寄付は単なるお金じゃなく、一人ひとりの強い“想い”が乗っているんだなと実感しました。その想いに触れたことで、団体の経営だけでなく、関わるスタッフ一人ひとりも精神的に本当に助けられました。

今まさに困っている人への直接支援と、社会全体を変えていくこと、その両方のために、寄付は不可欠だと感じています。

お金だけじゃない。日常にあふれる「寄付」の種類

――とはいえ、物価高もあって、なかなか寄付にまで手が回らない…という人も多いと思います。もっと身近な場所に存在する寄付ってありますか?

田代さん

田代さん:

実は、私たちの消費行動の中に「寄付」が組み込まれていることが増えています。
つい最近だと、「ビールの売り上げの一部が地域社会の支援につながる」なんてものも見かけました。

それに「寄付」は、お金以外にもいろんな形があります。
例えば「チャリティウォーク」は、歩いた歩数に応じて企業が寄付をしてくれる仕組みです。
他にも、定番の古本や物品の寄付、貯まったカードのポイントでの寄付も増えています。ポイントなら「ちょっとやってみようかな」と思えますよね。


――寄付先を選ぶとき、「本当に役に立つのかな?」と不安になることもあります。信頼できる団体を見分けるポイントはありますか?

田代さん

田代さん:

一番は、情報発信をしっかりしているかどうかかな、と思います。
SNSの更新頻度や、活動・会計報告がきちんと公開されているかは重要なポイントですね。


――ちなみに、最近よく聞く「クラウドファンディング」も寄付なんでしょうか?

田代さん

田代さん:

クラウドファンディングは、インターネットで不特定多数から資金を調達する方法なので、「寄付を集める手法の一つ」と言えますね。

社会貢献が目的のものもあれば、事業立ち上げのために使われることなどがあります。
プラットフォーム上ではいろんなプロジェクトを比較できるので、自分の興味に合うものを探してみるのも面白いと思います。

ゲームで体感!寄付を“自分ごと”に

――協会では「from Me」という、寄付を体験できるボードゲームも開発されたんですよね。すごくユニークだなと思いました!

カードゲームの写真

カードゲーム「from Me」

田代さん

田代さん:

このゲームは「社会貢献したい」という思いは増えているのに、実際の行動に移りにくい…という課題感から生まれました。
知識として学ぶだけでなく、社会貢献を「体感」してほしくて、3年ほど前にこのカードゲームを作りました。


――このゲームでは、具体的にどんなことが学べるんですか?

田代さん

田代さん:

参加者は、プレイヤーカードに記載されている異なる価値観(例:家族が大事、社会課題を解決したい)に基づいて設定されているゴールを目指します。
ゴール達成のために、いろいろなアクションをとることで、自分の行動がどう社会と繋がるかを体感できるんです。


>実際にゲームを実施している様子

実際にゲームを実施している様子


先日、高校でワークショップを行ったのですが、ある生徒が「自分チームのゴールばかり気にして、他の人を気にしていなかった」と感想をくれたのが印象的でしたね。
この「他者への関心を持つ」ことこそが、寄付への意識の第一歩なのではと思うんです。

ゲームの中では、お金の使い方が「消費」「貯蓄」だけでなく「寄付」「投資」もあることを伝えます。
日本人は消費と貯蓄に偏りがちですが、寄付や投資は、少しの時間差で社会や自分にリターンがあることも体感できる仕掛けになっています。


――ゲームで「寄付」のつながりを体感できるんですね!このゲームを広める「ファシリテーター」の育成もされているそうですね。

田代さんの写真
田代さんの写真

田代さん:

はい。このゲームの体験を全国に広げていきたいので、養成講座も開いているんです。
参加者は学校関係者、企業でセカンドキャリアを考える方、主婦の方など様々で、本業を別に持つ方が多いですね。


「誰かのため」が「自分のため」に。寄付がもたらす心の豊かさ、メリットとは

――とはいえ「寄付はお金に余裕がある人がするもの」というイメージが強いですよね。私たちが寄付することでどんなメリットがあるのでしょうか?

田代さん

田代さん:

そういうイメージを持たれる方は確かに多いですよね。でも、寄付をすると、感謝されたり「誰かの役に立っている」という自己有用感を得られたり、目に見えない豊かさや幸福感を感じられます。
「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉がありますが、寄付はまさしくこれに繋がる行為だと思います。

寄付は「やってみよう」という行動であり、支援先との「繋がりと感謝」を生みます。
そして、自分が寄付した先があることで「いざ自分が困っても、なんとかなる」という安心感にも繋がる。
お金を出してモノを買うのとは違う、寄付には自分自身の人生を豊かにするという価値があるのかなと思っています。


――なるほど。この記事を読んで「何か始めてみたい」と思った方が、この「寄付月間」を通してできる、「最初の一歩」は、どんなアクションがおすすめですか?

田代さんの写真
田代さんの写真

田代さん:

年末ですし、先ほど話に出た寄付付きのビールを買ってみるのはどうでしょう(笑)
それから大掃除のついでに、読み終えた本や着なくなった服を寄付に出してみたり…。
いまはクレジットカードで簡単に決済できる団体も多いので、ワンコインでも、試しにどこかの団体に寄付してみるなんていうのもおすすめしたいです。

まずは自分の身の回りを見渡して、「これなら無理なくできるかも」ということから、ぜひ一つ、アクションを起こしてみてほしいなと思います。

編集者より

寄付の方法が「チャリティウォーク」や「ポイントの活用」、さらには「ゲーム体験」まで、非常に多様で身近なものになっていることには驚きでした。
「誰かのため」の行動が、巡り巡って「自分の心の豊かさ」に繋がるという視点は、素敵ですね。
まずは小さなことから!それが、社会とつながる確かな一歩になりそうです。

後半では、寄付に関わる仕事「ファンドレイザー」についてフォーカス。仕事内容ややりがいなど、キャリアについてお伺いします。

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