寄付を「支える仕事」の魅力とは?
社会貢献をキャリアにする、ファンドレイジングの世界
寄付をもっと身近に!12月の「寄付月間」特集!
前編
では、日本の「寄付」市場の規模や、ポイント利用やゲームなど、広がりを見せる多様な寄付への参加方法をご紹介♪
さらに、「誰かのため」の行動が巡り巡って「自分の心の豊かさ」に繋がることについても探りました。
後編では視点を変え、お話を伺っている田代さんご自身の専門職「ファンドレイザー」の仕事に迫ります。
寄付を集めるだけではない「ファンドレイザー」の仕事とは?社会貢献を仕事にする魅力と、日本の寄付文化の未来について伺いました。
現在は、協会にてNPOなどの資金調達を支える専門家として、ファンドレイジング基盤強化の推進やグローバルパートナーとのインパクトマネジメントとファンドレイジング実践のためのプログラム開発を担当。
(こちらもオススメ!)お金以外の寄付って?寄付を体験できるゲームに関する記事: 『寄付って、なんだろう?ゲームで学んで、あなたの小さな一歩が国際協力に!?』
ファンドレイザーとはどんな仕事?想いを繋ぐプロフェッショナル
――田代さんの「ファンドレイザー」というお仕事について伺います。この言葉を初めて聞く読者も多いと思いますが、具体的にどのようなお仕事なのでしょうか?
田代さん:
「ファンドレイジング」とは、NPOなどの非営利組織の「資金調達」を指す言葉です。その資金調達を専門に担うのが「ファンドレイザー」ですね。
よく「寄付集め」の仕事だと思われがちなのですが、寄付はあくまで資金源の一部。
実際には、会費や事業収益、行政からの助成金・委託費など、さまざまな資金があります。
それらをどう組み立てて、団体のミッションを達成するために戦略的に調達していくかを考えるのが、ファンドレイザーの仕事です。
――田代さんご自身は、どのような経緯でこの道に進まれたのですか?
田代さん:
きっかけは、
前編
でもお話ししたコロナ禍でした。
前職のNPOでは、年の3分の1は海外へ行く生活だったのですが、渡航が一切できなくなってしまって…。
当時の団体は収益の8〜9割が海外事業だったので、急遽「寄付を集めなきゃ」という状況になり、そこで初めてNPOの資金調達(ファンドレイジング)を体系的に学び、実践したんです。
職員4人ほどの小さなNPOで働いていたので、広報もスタディツアー企画もやる「なんでも屋さん」だったんです。
だから、自分にどんな専門スキルが身についているんだろう…と、正直よく分からなくて。
でも、この時ファンドレイジングを必死に学ぶなかで、私が今までやってきたボランティアツアーの運営(事業収益)も、ファンドレイジングだったことに気づきました。そして、「これは、自分のキャリアの軸になるスキルかもしれない」と感じたんです。
――点と点が繋がり、一つのスキルだと気づいたのですね。
田代さん:
そうなんです。そこから一気に「認定ファンドレイザー」の資格も取得しました。
それがきっかけとなり、当時はまだ前職に所属していましたが、ファンドレイジング協会から講師などの依頼をいただくようになって。
ご縁も重なり 、現在の職に就いたという流れです。
働き始めたころ。年に一度の
ファンドレイジングカンファレンスのコーディネーター
社会貢献を仕事にする。やりがい・求められるスキルとは?
――ファンドレイザーの仕事の「やりがい」は、どのような点にありますか?
田代さん:
よく「お金に色はない」なんて言うと思うんですけど、この仕事をしていると「お金に色がある」と実感できる瞬間があります。
ビジネスで回るお金と違って、寄付には「このために使ってほしい」という一人ひとりの強い「想い=色」が乗っています。
その金額以上の価値や思いに最前線で触れられるのが、この仕事の醍醐味ですね。
――一方で、NPOの「運営費」に寄付金が使われることに、まだ抵抗を感じる人もいらっしゃるのではないでしょうか…?これは現場として、どう感じていらっしゃいますか?
田代さん:
そこは、すごくもどかしい点です。日本では「NPO=ボランティアで運営されている」という印象がまだ強く、私もNPO職員として働き始めた頃、「お給料もらっているの?」と周りから聞かれることもありました(笑)
企業が活動するために人件費や管理費が不可欠なように、NPOも社会課題を解決し続けるために、運営費は絶対に必要なもの。
だからこそ、私たち団体側も、お金の使い道をしっかり発信して、透明性を高めていく努力が重要だと考えています。
――これから社会貢献をキャリアにしたいと考える若者にとって、「ファンドレイザー」はどんな魅力がある仕事でしょうか?
田代さん:
私自身、自分にどんな専門スキルがあるか分かりませんでした。でも、この仕事は「今までのキャリアをすべて活かせる」仕事だと思います。
企業で営業やマーケティング、広報などを経験された方が、そのスキルを社会貢献の分野でそのまま発揮できる、最適なお仕事なんです。
何より、仕事を通じて「本当に価値あるもの」に触れられるのは大きな魅力ですね。
ファンドレイザーとして働くようす
――特別な資格は必要なのでしょうか?
田代さん:
必須ではありませんが、私たちが発行している「認定ファンドレイザー」という資格があります。
研修を通じてファンドレイジングを体系的に学べるもので、私自身も「あ、自分がこれまでやってきたことはこういうことだったんだ」と実感できる「手触り感」を得られました。
ファンドレイジングスクールでのワークショップ
まずは「准認定 」というエントリーレベルの資格から始めるのがおすすめです。
これは働きながらでも取得を目指せますし、合格率も8割ほど。
その次の「認定」資格は、3年間の実務経験が前提になります。こちらは、キャリアをスタートさせてから挑戦する方が多いですね。
私たちの手で育てる、日本の「寄付文化」のこれから
――『寄付白書』の話もありましたが、改めて、日本の「寄付文化」の現状をどう見ていらっしゃいますか?
田代さん:
前編
で話をしましたが、日本には「寄付文化がない」どころか昔から「寄付文化が根付いている」と思っています。
例えば、地域のお祭りや神社の運営もそうですよね。鳥居に名前が刻まれているのも寄付者の証です。
海外では宗教的な教えとして寄付が組み込まれていることも多いですが、日本の現代社会では そうした背景が薄いにも関わらず、「その場所や人を応援したい」という純粋な思いで寄付する文化がある。
これは世界的に見ても稀な、日本の大きなポテンシャルではないかと感じています。
――その寄付文化をさらに社会に根付かせるために、どのような挑戦をしていきたいですか?
協会が主催するカンファレンスのようす
田代さん:
今、ファンドレイザーの育成だけでなく、企業、財団、行政など、社会課題解決に関心のある多様な人たちが「交わる場づくり」に力を入れています。
私たちが主催するカンファレンスなどを通じて、そうした人たちが繋がることで、課題解決のためのお金がもっとスムーズに流れる仕組みや機運を作っていきたいですね。
――最後に、読者が「寄付文化を広げる側」として、明日からできることはありますか?
田代さん:
とてもシンプルなことですが、友達と会ったときに「私、ここに寄付してみたよ」「こんなチャリティウォークに参加したよ」と、ぜひ周りの人に伝えてみてほしいです。
すぐに反応がなくても、その人がいつか「何かしたい」と思った時に、あなたの一言を思い出してくれるかもしれません。
皆さんが持っている「何かしたい」というモヤモヤした思いは、必ず誰かに繋がる大切な思いなので、ぜひ一歩踏み出して、それを伝えてみてほしいなと思います。
編集者より
「ファンドレイザー」とは、単にお金を集める人ではなく、団体のミッションと社会の「想い」を繋ぎ、未来を描くプロフェッショナルでした。
「誰かのため」の行動が、巡り巡って「自分の心の豊かさ」に繋がるという視点は、素敵ですね。
「なんでも屋」だったという田代さんが、コロナ禍を機にご自身のスキルを「ファンドレイジング」と再定義し、新たなキャリアを切り開きました。
その歩みは、社会貢献のキャリアを考える多くの人に勇気を与えるはずです。
田代さんの言うように、まずは「寄付してみたよ」と、身近な人に話すことから始めてみませんか?
その一言が、日本の寄付文化を育てる次の一歩になるのかもしれません。
寄付月間記事 Vol.1はこちら
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