第492号 すんだことはすんだこととして・・・

「すんだことはすんだこととして、極めて楽天的に、新たに第一歩から踏み出そうとする人がある。そこいらになると、もう上の部である。」 これは、『次郎物語』の作者であり社会教育家でもあった下村湖人の言葉である。高校時代に初めて出会って以来、もう何十年も私の心に沁みついている。 下村湖人は、こうも言っている。「凡人は自分のことしか考えず、善人は他人のことを優先する。賢人は自分のことも他人のことも大事にする」、と。

何をしても上手くいかない時、大きな失敗をした時、意地になって疲れた時、どれ程この言葉に救われ、
<頑張ろう>という気持ちになってきたことだろう。 さりとて、生きていく上では、楽天的ばかりではいられないことのほうが多いような気もする。

二度三度と同じことが続くとさすがに心が折れてくるもの、 不平も言いたくなるものである。運の悪さに自棄になることもある。 然しながら、いつもこうすれば良かったと思うばかりでは前に進むことはできず、やはり、次の一歩を踏み出さない限り、事態は進展しないのである。 少なからず過去を悔やむクセがあった自分にとっては、それだけでは何の解決にもならないと、下村湖人の言葉は自分の背中を強く押してくれたような気がする。

何時の頃からか、すんだことはすんだこととして、何もなかったことにするのではなく、反省すべきは反省し、それを糧に次に進むしかない、と自然に考えられるようになった。

上手くいかなかったとは言え、全てを捨てるのは勿体ない。
頑張れば何をやっても上手くいくと言うほど現実は単純ではないけれど、頑張る姿は誰かが見てくれており、評価も得られるものである。 自分自身はマイナス面にばかり目を向けがちであるが、プラス面を見てくれる人もいるのであり、自分でも気づかなかった点を他者に教えてもらうこともある。

物事は連鎖連関の関係で動いており、一つが上手くいくと、全体が上手く回りだすことも多い。 どうにもならないことは素直に受け止め、周りが変化することを望むのではなく、自分が変わることに努めたら、案外、コトがスムーズに行くことを経験したことはないだろうか。 その時は、過去の失敗経験が大いに役に立っていることがある。「明日の自分は今日とは違う」と自分自身が変わること、強い言葉で言うと「開き直る」ことが重要であるように思う。

国際協力を目指す皆さんは、自分の3年後、5年後、10年後の姿を描いておられると思う。 ならば、逆算して、今の自分に足りない能力の向上に向けて頑張るしかない。 例え3年後の実際の姿が思い描いていた姿と違っていても、3年間頑張って身につけたことは、必ずや役に立ち、その後の選択肢を増やしてくれると思う。 どうぞ、他者との比較ではなく、自分のビジョンをしっかり見据えて、頑張って欲しいと思う。

最近、その生きる姿が素敵だな、と思った人がいる。その人は、海外協力隊の働き方に憧れ続け、ギリギリの年齢で海外協力隊に現職で参加された。 帰国後は元の職場に復帰し、その経験をも活かしながら研究所のトップに上り詰め、定年までには何年も残しながら、潔く退職された。 現在は某国で企画調査員として大活躍されている。

「自分らしい」と感じる国際協力の仕事に、しっかりと計画を立てながら、ご家族の理解も得て転職をなされたのである。 勿論、その間に積み上げられた経験=実力があってのことだ。 輝かしいキャリアを積み上げられながら、それを一旦リセットし、自分の信念でもある国際協力の道に進まれたのだ。 過去は過去と割り切り、目線は常に前にある。これまでのキャリアが今後の国際協力活動に役に立つであろうことは言を俟たない。 その姿は、実に清々しく、活気に満ちており、眩いばかりである。

人の生き方には色々な選択肢があり、違ったパラダイムの「すんだことはすんだこととして・・・」を、今、再認識するのである。

N.K

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