• 健康管理員さんへのインタビュー Vol.1

看護師のキャリアに新たな選択肢!?
「健康管理員」の働き方と体験談を聞いてみた


JICAに関わる皆さんの健康管理を担う「健康管理員」。
今回は、日髙さんと北川さんに、お仕事の内容や役割、そして国際協力の現場でのリアルな働き方についてお話を伺いました!北川さんはバングラデシュからリモートでご参加いただいております。


お二人が健康管理員になったきっかけ、海外での働き方などについて深堀した記事「看護の視点で世界を支える!「健康管理員」の魅力に迫る」はこちら


JICA健康管理室
看護師
日髙 知恵さん

  • 8年間にわたって内科・循環器・緩和ケア・訪問看護に従事したのち、2002年海外協力隊に参加(ボリビア・看護師隊員)。
  • JICA勤務後は在外健康管理員として、ボリビア・パラグアイへ派遣される。
  • 2020年より健康管理室にて専門家や協力隊員の健康管理を担当。総括的な役割を担う。

バングラデシュ事務所
在外健康管理員
看護師
北川 猛さん

  • 3年間、総合病院にて泌尿器科・精神科看護に従事したのち、協力隊に参加。
  • 平成23年度2次隊、エイズ対策隊員(マラウイ)。
  • 帰国後、都内でHIV治療を主とするクリニックに5年間勤務。2019年よりJICA健康管理室にて海外班健康管理員として勤務。
  • 2020年、新型コロナウイルスの影響による、全世界のJICA派遣者の退避をサポート。派遣国に残された職員・専門家の国外移送なども経験。その後、在外派遣再開に向けて、健康上の指針づくりを医師と共に推進。
  • 2022年8月より在外健康管理員としてバンクラデシュへ派遣中。

健康管理のコーディネーター「健康管理員」とは?

――本日はお時間をいただきありがとうございます!早速ですが「健康管理員」とは、具体的にどんなお仕事なのでしょうか?

日髙さん:

健康管理員は、JICA職員や派遣される専門家、ボランティアといったJICA関係者の健康管理が主な仕事です。
皆さんの病気やケガの相談にのり、医療機関の紹介や治療方針の助言を行ったり、担当している国の医療状況や感染状況を把握したり、予防の呼びかけをしたりします。
また、患者が派遣国内では治療が難しいと判断され、治療できる近隣の国へ緊急移送される際の移送対応をすることもあります。

北川さん:

健康管理員には大きく分けて2パターンあります。海外に駐在する「在外健康管理員」と、JICA本部の健康管理室で働く場合です。
私は3年間、本部で健康管理員の経験を積み、2022年にバングラデシュの在外健康管理員となりました。日髙さんのように、研修後すぐに在外健康管理員として海外で勤務を開始するパターンもありますね。

日髙さん:

健康管理員は直接的な医療行為を行うわけではありません。関係者がケガや病気にかかったときのサポートや医療面での判断、医師との連携など、コーディネーター的な役割を担います。在外でも、国内でも、適切な医療への橋渡し役となるのが健康管理員なのです。



――本部で働く健康管理員と、在外健康管理員、それぞれの働き方を教えてください。

日髙さん:

本部(健康管理室)で働く健康管理員は、病気やケガの相談内容を見て医師にアドバイスを仰いだり、健康診断結果をもとに健康面のフォローをしたりしています。
加えて、在外から寄せられた傷病相談の情報のチェックと医師への橋渡しの役目を担っていますね。いつでもすぐ対応できるよう、様々な事例を調べ、知識をアップデートしています。

北川さん:

在外の場合は、現地の医療機関と直接コミュニケーションを取り、調整する役割を担います。途上国の中には医療が進んでいない国もあります。ただ言葉を翻訳するだけではなく、必要な検査ができているか、現地の診断内容や処方した薬が日本での診察や治療と比較して妥当かどうかを考えることが求められます。

追加の検査が必要なときや現地の医師と見解が異なるときには、同じ方向を向いて治療をしていくためのコミュニケーションも大切です。いざという時には「交渉」ともいえるほどのやりとりが必要になることもありますので、日頃から医師との関係性をしっかりと築けるように努力しています。
配置国にもよりますが、1人の在外健康管理員が見る範囲は、多いと200名、少ないと50名程度です。


――忙しそうですが、海外勤務の場合、現地ではどれくらいの件数の相談が来ますか?また、自分のプライベートの時間は確保できるのでしょうか?

北川さん:

相談件数は月や日ごとに異なりますが、だいたい月10件程度です。他にも、ワクチンを打ちたい、生活面の相談といったものを含めるともっとありますね。
あとは、毎月新たに派遣された方々にバングラデシュの医療事情のオリエンテーションをします。 やはり、病気が流行ってしまうと件数も増えますし、緊急時は即座に対応する必要があり、過密なスケジュールを避けられないこともあります。

ですが、毎日過酷なわけではなく、自分の時間もしっかり取れていますよ。仕事が終わった後は、趣味のスポーツをすることが多いです。いざという時にしっかりと仕事がこなせるようリフレッシュして、自分自身の体調を整えることを心がけています。

テニスをしている北川さんと、アシュタンガヨガをしている日髙さん。お二人ともスポーツがお好きなのだそう。

語学の勉強は、近道せずにコツコツと

――国際協力の道に進むなら、語学力も必要ですよね?

北川さん:

確かに、健康管理員はいろいろな人と関わるので、コミュニケーション能力と語学力は必要といえますね。
でも、私は学生時代から語学が得意だったわけではありません。30歳くらいの頃に協力隊に参加し、英語をみっちり勉強しました。健康管理員として採用された後も、実践を通じて勉強しました。

日髙さん:

私も北川さんと同じく、協力隊に参加した際の語学訓練で、スペイン語をイチから学びました。みっちり勉強をしましたが、実務に必要な言葉まで完璧に習得するのは難しかったので、現地に行ってからも学びを深めました。
派遣地域の言語を使って現地で業務をしていくための、習得意欲が大切ですね。

緊急事態に対応するためにも、チームワークは最重要!

――健康管理員として働くうえで、大切なことは何でしょうか?

日髙さん:

まず、チームワークが何より大切です。
海外と国内、現地の医療機関と本部(健康管理室)で、つねに連携を取りながら進める必要があります。状況に応じた役割分担をしたり、専門家の助言をもらったりと、様々なメンバーとの協力体制が不可欠なのです。
ですので、日頃から周りのみんなとコミュニケーションを取れると良いと思います。

そうそう、チームワークといえば、北川さんが国内で働いていたころ、在外のチームと協力して対応したことがありましたよね?

北川さん:

はい、東ティモールでデング熱が同時期に複数発生した際、緊急ヘルプに入りました。
国外移送が必要な方が出てしまい、患者(ボランティア隊員)をシンガポールに移送することになりました。シンガポールはJICAの拠点が無かったので、当時、本部に所属していた私が出向くことに。
東ティモールの健康管理員さんと連携し、お互いフィードバックしながら患者の受け入れ対応をしました。

日髙さん:

年に1回程度あるかどうかの頻度ですが、本部の看護師が海外にヘルプに行くこともあるのです。
国内と海外、それぞれの健康管理員が歩んできたキャリアによっても治療に対するアプローチが異なるので、どんな場面でも対応できるよう、情報収集や勉強会などで知識をアップデートするようにしています。

家族や子どもとの海外勤務も、備えがあれば楽しめる!

――健康管理員になるには、看護師としてのキャリアが必要ですよね。すると年代的に、家庭と両立できるのか?といった疑問を持つ方も多いと思うのですが…

日髙さん:

私が2回目に赴任した時は、まさに子育て真っ盛りの時期で、上の子が2歳、下の子が9カ月でした。
実は、私は両脇に子どもを抱きかかえて駐在するのが夢だったのです!なので、不安よりも夢が叶ったうれしさが勝りましたね。

家族のおかげで、在外での子育てで辛かった思い出はほとんどありません。夫が一緒に駐在してサポートしてくれたことに加え、子どもたちも小さいながらに私の仕事のことを感じ取って良い子にしていてくれた気がします。
平日は仕事に集中している分、週末は子どもたちと過ごす時間をしっかりとっていました。


ボリビアにて、家族写真


――素敵な夢をお持ちだったのですね!ご家族のサポートも素晴らしいです。

日髙さん:

大変なことももちろんありましたが、充実していましたね。
例えば、子どもたちが熱を出してしまった時は、現地の病院の様子を観察しつつ、先生となるべくたくさんコミュニケーションを取るようにしていました。
プライベートのためでもあり、健康管理員としての人間関係作りにも、という感じですね。

緊急時を想定して、夫婦での話し合いや準備は日頃から行っていました。
私は家政婦さんなど家族以外の人に自宅に入ってもらうのが苦手なので、夫婦だけで対応できるように、なるべくミニマムに暮らすといった工夫もしていました。

パラグアイでの家族写真

勉強はもちろん、熱い想いはもっと大事?!

――最後に、海外での健康管理の仕事に興味を持ってくれた方にアドバイスをお願いしたいです。

北川さん:

国際協力の道で働きたいと思ったら、海外に目を向けてみる習慣をつけると良いかもしれません。私は健康管理員を目指すにあたり、日本にいるとあまり見ないような病気、例えば熱帯感染症「デング熱」「マラリア」「狂犬病」など、途上国にある病気を改めて勉強しました。

また、現場は看護師経験だけで対応しきれるわけではないのですが、自分がいままで学んできたことや得意なことを実務に活かせる可能性は高いです。はば広く勉強をしつつ、強みも伸ばしておけると良いと思います。

日髙さん:

看護の専門知識も大切ですが、ぜひ国際協力への想いを大切にしてください!人それぞれのきっかけがあると思いますが、その想いを大切にしていただきたいです。やりたいという気持ちがあるなら、それに伴って少しずつ知識を増やしていければ良いと思いますよ。

ちなみに私が在外健康管理員の採用を受験した時の話ですが、臨床経験のほか、交通事故・病気の緊急場面ではどうすべきか?スペイン語でどう対応するか?と、鋭い質問が飛んできました。なるべく動揺しないようはっきりとした受け答えを頑張りましたが、帰り際には今にも泣きそうなほどでした。
でも、あの体験が『それほど厳しく知識が必要な現場に出るのだ』という覚悟を決めさせてくれた、と心に深く残っています。
今でもその時の気持ちを忘れないように、日々働いています。


おまけコーナー

気になるキャリアプランのQ&A


Q.看護師経験はありますが、海外で働くことができるのか、不安です。

A. ご自身のキャリアに合った働き方があります。JICA健康管理員の場合、在外と国内(育成型・即戦力型)の採用パターンがありますので、最初から在外で働く方もいれば、まずは日本国内(健康管理室)で経験を積んでから在外になるというケースもあります。



Q.子育てを考えていますが、応募できますか?

A.子育て世代の方、ワンオペで在外に行く方もいます!
実際に在外に行かれている方は、ご家族のサポート体制や緊急時のお子さんの預入先など、さまざまな準備をされています。大変なときもあるかもしれませんが、現地の仲間たちなど、困ったときは支えてくれるチームワークがありますので、気になることがあればご相談ください。



Q.どんなキャリアを積んで、健康管理員になる人がいますか?

A.看護師・保健師の資格を保有し、数年の実務経験を積んだ方ですが、元は会社員や教員など別の職業で働いていた人、戦況下や途上国などで医療支援を行っていた人など、様々な道筋で健康管理員になった人たちがいます!

第2段はこちら
☆日髙さんと北川さんがなぜ健康管理員になったのか?健康管理員になるまでのエピソードを交えてお話を伺った第2段はこちら♪