• 石坂明日香さんへのインタビュー Vol.3

国際協力現場の日常
駐在先、フィリピンでの新たな発見を探る!


今回は、現在フィリピンで働いている石坂明日香さんにインタビューしてきました!国際協力の現場から、開発途上国での普段の生活と、仕事、プライベートまで、リアルなお話をお届けします!


(こちらもオススメ!)石坂さんのライフイベントとキャリアの両立について: 『結婚、子育て、家族のこと。国際協力とライフプラン、両立のカタチとは?』


在フィリピン大使館一等書記官
石坂 明日香さん

大学卒業後、公益財団法人で研修員受け入れに携わった後、1999年にJICAに入構。技術協力、総務・広報、本邦研修等のODA業務を経験。 出産後、退職し8年間子育てに専念。
2014年~ワールド・ビジョン・ジャパンにてコミュニティ開発や難民・国内避難民支援業務に従事。2019年にJICAに戻り、人事部業務を経て、現在はフィリピンの日本大使館に出向中。

ONの日・OFFの日、それぞれの過ごし方

――石坂さんへのインタビューの最終回は、現在のフィリピンでの暮らしについて聞かせてください!まず、どのような職場環境で働いているのでしょうか?

石坂さん:

私が働いている在フィリピン日本大使館は、首都マニラにあります。3階建ての建物で、東京など都会にあるオフィスビルとは雰囲気の違う建物です。勤務スペースは広く、業務に支障のない環境が整っています。

日によって異なりますが、デスクワークをしたり、外出して外部の会議に参加したりと、さまざまです。


在フィリピン日本大使館の外観。

在フィリピン日本大使館の外観。



――休日はどのように過ごしていらっしゃいますか?

石坂さん:

休日は基本土日で、土曜日の午前中は娘の部活動の送り迎えをしていますね。
娘はバスケ部に所属しているのですが、フィリピンではバスケが人気で、他の私立校との対抗試合もあります。学校は自宅から徒歩10分くらいの距離なので、歩いて送り迎えをしています。
午後は娘と一緒に買い物やごはんに行ったり、友達の家に行き来したり、家事や買い物をしたりと、のんびり過ごしています。

マニラにはショッピングモールがたくさんあります。フィリピンは年間を通して温かい気候の国なので、冷房の効いたモールに行くこともよくあります。



――ご自宅はどのような環境ですか?

石坂さん:

写真だと広くて綺麗に見えますが、配管から水が漏れる、トイレが流れない、漏れた水が下の階に滴って文句を言われる・・・など、水回りのトラブルが実は頻繁に起こっています。

住居に限らない話ですが、海外では多少の不便は避けられないのが事実です。政府機関のトイレであっても、便座がない、水が流れない…紙は当然のようにありません!ですから、いつもトイレットペーパーは持ち歩いています。
開発途上国なので、この辺りの若干の不便さは仕方がないと思って過ごしています。

現在住んでいる、マニラの自宅内観。

現在住んでいる、マニラの自宅内観。


――そういった不便さには慣れていくものでしょうか?石坂さんは最初から不便さなどはあまり気にしないタイプだったのですか…?

石坂さん:

私は全然、平気なタイプではないですが、かつてNGO時代に泊まったアフリカのホテルがかなりワイルドだったので鍛えられました。
例を挙げると、蛇口はダミーで水が出ず、ホテルの人が運んできてくれた10Lくらいしかないバケツのお湯で身体を洗わざるを得ないということもありました。そういった経験を積むことで少しずつ慣れて、1〜2泊の出張なら頑張るぞ!と思えるようになりました。

JICAはハードシップに強い人が多めの印象ではあります。特に海外協力隊出身の職員は、2年間の派遣期間中に途上国での生活を経験して鍛えられていますが、私のように、元々は平気ではなかった人も多いと思いますよ。


安全対策は基本を大事に!



――スーパーや学校、病院などはどんな様子でしょうか?

石坂さん:

マニラには日本と同じようなスーパーがたくさんあり、市場もあるので困りません。
フィリピン人は野菜をあまり食べないらしく、「ご飯+お肉orお魚だけ」といった食事が多いのは驚きました。意識的に野菜を食べるようにしており、メイドさんにも「必ず野菜を使った食事を作って欲しい」とお願いしています。

フィリピンは医療の制度が日本とは異なり、私立の病院に行くとかなりの高額を自己負担しなければなりません。 病院の数や医療従事者の人数も人口に対してかなり少ないため、場合によっては治療までかなりの待ち時間が発生してしまうと聞いています。
もし、深刻な病気で治療が必要な状態なら、フィリピンで治療を待つよりも一度帰国したほうが良いかもしれません。

保険についてはJICAの職員は職場を通じて海外医療保険に入っているので、もしもの場合、給付金は出ます。

マニラのスーパーの様子。

マニラのスーパーの様子。



――安全面について、海外での生活で気を付けていることはありますか?

石坂さん:

マニラは特に交通事故が多いので注意しています。日本と違って車優先の社会だと感じます。
また、安全面が心配なので、娘を一人では出かけさせないようにしています。ひったくりも多いので、スマホ見ながら歩かない、カバンの口は閉じる、夜は人通りのない場所を歩かないなど、基本的な安全管理に注意して生活しています。

和平支援に関わる仕事をしているミンダナオ島は、よりセキュリティが厳しく、移動も大使館のルールで車移動が基本です。
海外の紛争影響地域で活動する場合、場所によっては警備員の同乗や、防弾チョッキ・ヘルメットの携行が必須など、地域ごとの規定があるので、それに従っています。


国ごとの違いはあっても、みんな同じ人間だから



――そもそも海外で働く、暮らすことについてご質問です。これまでのキャリアの中で、カルチャーショックはありましたか?

石坂さん:

行く先々で文化の違いは都度、感じました。特に、時間や締め切りについては日本に比べると緩い国が多いと感じます。
コミュニケーション方法も国によって異なります。アジア圏は比較的日本と近く、あからさまに相手の意見を否定することや、対立することを避ける傾向がありますが、中東地域では、会議中に机を叩いて相手を罵倒する、という場面に出くわしたことも。カルチャーショックはつきものですね。

一方、「人は同じだな」と思うところもありますね。親が子どもに良い人生を歩ませたいと思う気持ちを持っていたり、どの国・地域でも人々が尊厳や誇りを持って仕事をしていたりと、人としての共通点はあります。

国際協力は「してあげている」のではなく、むしろ自分が勉強させてもらい、学ばせてもらう機会が多いです。人間関係に対し不安に思うこともあるかもしれませんし、違いはもちろんあるけれど、同じ人間だと考えれば、コミュニケーションしやすいのではないでしょうか。

NGO時代にイラクで一緒に働いた、国際スタッフ(同僚)たち。

NGO時代にイラクで一緒に働いた、国際スタッフ(同僚)たち。



――海外の人と関わる上で、宗教の違いを感じたことはありますか?

石坂さん:

宗教はその国のメンタリティに反映されていると思います。日本に無宗教の人が多いというのは世界の中では珍しいことなので、不思議に思われることが多いです。
私はクリスチャンなので、クリスチャンが多いアフリカの地域を訪れた際は、宗教が同じというきっかけから現地の人と仲良くなれたこともありました。

ある時、「日本は豊かな国のはずなのに、若者の自殺者数が多いのが不思議だ。心の拠り所がないからなのではないか?」という疑問をぶつけられたこともあります。
彼らは経済的豊かさだけでない豊かさを持っていて、日本のために祈っていますと言ってくれたこともあります。

フィリピン・コタバト市内のグランド・モスク。バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域はイスラム教徒が多い。

フィリピン・コタバト市内のグランド・モスク。バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域はイスラム教徒が多い。


――これまで訪れた地域ごとの違いや、特徴はありますか?

石坂さん:

個人的な感覚ですが、同じアフリカでも、ウガンダやケニアの人は明るい雰囲気、エチオピア人は控えめでグイグイこない人が多い、などでしょうか。ひとくくりにはできませんが、国や地域によって人の雰囲気が違うなと感じることはありますね。

今住んでいるフィリピン(マニラ)は明るくフレンドリーな人が多いと感じます。目が合うとにっこりしてくれたり、レジの列で大量の買い物をしようとしている前の人が、少ししか買い物しない後ろにいる私を見て先に会計を譲ってくれたりと、コミュニケーションは活発です。

――初めて合う人とのコミュニケーションは緊張するのでは?という人もいると思うのですが、石坂さんは社交的なタイプですか?

石坂さん:

私はすごくフレンドリーなわけではなく、相手によります。国籍問わず、相手がフレンドリーであれば話せるし、そういうタイプでなければ話がはずまないこともあります。ただ、行く先々で気の合う人がいるので、そういう人たちと話せば良いと思っています。
無理せず自然体で、自分と気の合う人といればいいのではないでしょうか。馬が合う、合わないは海外の人同士でも普通にあることですから。

石坂さんのキャリアを振り返って。一生学べる国際協力の仕事



――改めて国際協力の仕事を続けていく中で感じる“やりがい”は何ですか?

石坂さん:

協力による「良い変化」を見聞きできることですね。実施したプロジェクトのおかげで学校ができ、人々の暮らしが良くなったとか、提供した機材が何年経っても大切に使われているなど、支援の成果を目にする度に嬉しくて、この仕事を続けています。

フィリピンの地方部の典型的な公立小学校。

フィリピンの地方部の典型的な公立小学校。



――反対に、挫折しそうになったことはありますか?

石坂さん:

緊急人道支援に携わっていた時には、災害や紛争等の悲惨なニュースに日々触れざるを得ないので、とても辛いと感じた時期がありました。前向きな開発の仕事と異なり、紛争や災害などによるマイナスをプラスにする仕事には、精神的なタフさが必要だと痛感しました。

挫折しそうになった時、無力感を抱いてしまった時、思い出す言葉があります。
ワールド・ビジョンの創設者のボブ・ピアスの言葉「すべての人々に“何もかも”はできなくとも、だれかに“何か”はきっとできる」です。
何か一つでも自分にできることがあれば、それをやる。何もかもはできないし、できないことを探すときりが無いので、目の前の仕事を一つひとつやるということにフォーカスして、国際協力の仕事を続けています。

――お忙しいところたくさんの貴重なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。最後に、国際協力業界を目指す皆様にメッセージをお願いします。

石坂さん:

国際協力は、一生学び続けられる仕事です。
世界は本当に広く、自分の知らないことがたくさんあるという事実に、海外へ出ると気づくことができます。何歳になっても挑戦できますし、私自身、今でも新たな発見があり、日々新たな勉強が必要だと実感しています。
是非皆さんも今できることから始めて、楽しみながらチャレンジしていってください。

まとめ ~インタビューを通じて~

今回は、実際に開発途上国で働いている石坂さんの日々の生活やお仕事の発見、困難、そしてそれらから得られる満足感に焦点を当ててお話を伺いました。国際協力を知らない身からすると、途上国での暮らしや仕事は想像が出来ず、不安もありました。
でも、3回に渡る石坂さんのインタビューでキャリアや人生の大事なイベント、そしてフィリピンでのお仕事や日常生活、安全への配慮等、悩んだり楽しんだりしながら国際協力に向き合う等身大のお姿に触れて、より前向きな気持になれました。

この石坂さんのコラムがみなさんの一歩の後押しになると嬉しいです。
これからも、国際協力で活躍する様々な職種の方々の話を聞き、お届けする予定ですので、お楽しみに!

おまけコーナー

石坂さんの体験談 フィリピン暮らしのはみ出し小話


海外赴任となると、毎日の食事も気になるのではないでしょうか。
左の写真は、フィリピンの名物「レチョン」という豚の丸焼きと、野菜炒めです。皮はパリッと、お肉はジューシーなフィリピンの伝統料理です。


こちらの写真はフィリピン・コタバト市内のホテルの朝食。フルーツと目玉焼き、スープなどがセットに。各地域の伝統料理を知っておくと、海外での任務もより楽しみになるかもしれません。

それから、石坂さんは赴任先で出会う人たちと仲良くなるために、どこへ行くのでも現地の言葉を少し覚えておくそう。

「“こんにちは”“ありがとう”など、ちょっとした挨拶だけでも、話せると喜ばれます」(石坂さん)

いち早く現地に慣れ、その土地の人たちと仲良くなれるよう、コミュニケーションの方法を考えておくといいですね!