• 就活特集 Vol.2

【就活特集Vol.2】初めての新卒採用の裏側に迫る!
NPO/NGOで国際キャリアの第一歩を踏み出す(2026年卒向け)


NPO/NGOの採用活動は、経験やスキルを持った方を対象とした中途採用に重きを置く傾向がありますが、中には新卒採用を行う団体もあります。

今回は、2024年に初めて新卒採用を実施した、日本発の国際医療NPO法人であるジャパンハートにインタビュー。お話を聞かせてくれたのは、同団体の管理本部長で採用担当として活躍する杉山智哉さん。

NPO団体での働き方や新卒採用実施の背景、求める人物像だけではなく、NPO/NGOの就活事情やキャリア形成のポイントについても、教えていただきました。

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若手でも責任ある仕事ができるのがNPO/NGO

――NPO/NGOに入ると、どんな働き方や経験ができるのでしょうか?

杉山さん:

多くのNPO/NGOでは人が少ないので、若手でも裁量権を持ってさまざまな経験ができると思います。
私が事業部長になったのは20代後半の頃です。そんな風に、自分の頑張り次第で若いうちから責任のある仕事を任せてもらえることもあるのが、NPO/NGOの大きな特徴だと思います。

例えば、新卒内定者にはインターンとしてプロジェクトの中に入ってお手伝いをしてもらったり、団体設立20周年のパーティーに参加してもらったりと、積極的に業務に関わっていただきました。若いうちから現場経験を積めることは、大きな力になるはずだと考えています。


管理本部長 採用担当 杉山 智哉さん

東南アジアや国内に、広義の「医療」を届ける

――ジャパンハートの活動理念と、どのような活動をされているのかをお聞かせください。

杉山さん:

ジャパンハートは、「すべての人が、生まれてきて良かったと思える世界を実現する。」というビジョンを掲げています。これを達成するためのミッションが、「医療の届かないところに医療を届ける。」です。

ただし、ここでいう「医療」の定義は、かなり幅広く捉えているのが特徴です。
私たちは、単に命を救うだけでなく、生活の質を向上させ、一人ひとりの人生をより良いものにしていくことを重視しています。

活動場所は主に4つ。1つ目は海外の、いわゆる途上国。具体的にはミャンマー、カンボジア、ラオスといった東南アジアの国々です。
2つ目が日本国内の離島やへき地、3つ目が災害によって医療が失われた被災地です。そして4つ目が、患者さんやご家族の心です。心のケアをすることも、私たちの医療の範囲にあります。


カンボジアの病院での外来診療の様子



――活動場所として「心」を置かれている点が素敵ですね!具体的な活動内容を教えていただけますか?


杉山さん:

東南アジアでは、医療行為を直接行う活動がメインです。日本の団体で海外に出て直接手術を行うケースは珍しいのですが、それが私たちの大きな特徴の一つになっています。

また、医療の枠を超えた支援も行っています。例えばミャンマーでは、視覚障害者の方々の自立支援活動として、マッサージ師の資格取得支援を行っています。
また、児童養護施設では、親を失った子どもたちや貧困家庭の子どもたちへの教育支援や就労支援も実施しています。

国内では、小児がん患者家庭の支援も行っています。例えば、治癒後も家族だけでの外出に不安がある場合や、終末期で最後の思い出づくりをしたい場合に依頼を受け、看護師が付き添って外出支援を行います。
このように、心のケアも大切な活動の一つです。


現地スタッフに指導ながら患者さんの診察を行う様子

「国際協力」は特別なことではない。現場で感じたこととは?

――杉山さんは、以前は教育関係の団体でウガンダに赴任されていたそうですね。ジャパンハートに転職された理由を教えてください!


杉山さん:

教育団体に所属していましたが、現地ではたくさんの医療的な課題を目の当たりにしました。
病気の赤ちゃんを抱えたお母さんたちが来ても、教育団体では対応できず、もどかしさを感じました。そこで初めて医療に興味を持ったんです。

また、アフリカでの経験を経て、次は東南アジアで活動したいと考えていた時期でもありました。そこで医療分野で東南アジアを一つの拠点にして活動するジャパンハートを見つけ、応募しました。



――国際協力に関しては、学生時代から関心を持っていたのですか?


杉山さん:

実は、「国際協力をしている」という感覚は昔も今もありません。ウガンダでの生活を通じて、「これが国際協力」というような特別なものではない、と感じるようになりました。

例えば、東京で働いていた人が九州に転勤して新しい職場で働く場合と、ウガンダで働くことに、本質的には違いがないと思います。
どちらも、「仕事として」しっかり働くことに変わりはないですから。

むしろ、「国際協力」という言葉で特別視してしまうことで、この分野への心理的なハードルが上がってしまっているようにも感じます。
確かに、海外経験や語学力などの要件を設ける団体もありますが、私自身は、国際協力に対するハードルの高さをそこまで感じる必要はないと思っています。


新卒採用への挑戦!選考フローも紹介

――NPO/NGO団体で新卒採用を行うのは珍しいと思いますが、ジャパンハートが新卒採用を始められたのはなぜだったのでしょうか?


杉山さん:

NPO/NGOは通常、一定のビジネススキルを身につけていて、即戦力となる中途人材の採用を重視する傾向にあります。
しかし、私たちが採用において最も重視しているのは、いわゆる「カルチャーフィット」です。

ある程度価値観が形成された方々よりも、これから社会に出て様々なことにチャレンジしたいという純粋な思いを持つ学生の方が、より私たちの考え方に共感し順応しやすいのではないかと考え、新卒採用を始めました。

そもそも現在の採用市場はいわゆる「売り手市場(求職者<企業の求人数)」となっていて、簡単に採用に繋がる時代ではありません。
その中でNPO/NGOへの就職を志向する人となると、さらに人材が少なくなり、多くのNPO/NGO は限られた人材を奪い合っているのが事実です。
そこで、新卒という新しい市場に広げることで、ジャパンハートの採用を活性化させることはもちろん、NPO/NGO業界全体の成長にもつながればという思いもありました。


ジャパンハートが受賞した表彰状やトロフィーの数々からは、
これまでの取り組みの功績が見える



――今年(2025年卒)から新卒採用を始めたそうですね。


杉山さん:

はい。今年が初めての取り組みで、2名の内定者が決まっています。
これまでNPO/NGOで新卒採用が少なかった理由の一つは、新人教育に割ける時間や余力が不足していることだと思います。

私たちも、大企業のような研修体制を整えることは正直に言って難しいです。基本的なビジネスマナー研修を2週間ほど行った後は、すぐに現場で実践しながら学んでいただく形になります。
ですがそういった環境を、あえて最初から明確に打ち出して募集することにしました。



――選考はどのようなプロセスで行われるのですか?


杉山さん:

まず30分程度の「説明会」を実施します。
「カルチャーフィット」する人材に残っていただくため、そこでは団体のビジョンやミッションについてお話しするのみで、待遇や業務内容には一切触れません。
その後、興味を持っていただいた方に個別の「カジュアル面談」を行い、そこで初めて具体的な待遇や業務内容について説明します。

その後、書類選考を経て、面接2回+創設者との最終面談という流れです。特に面接では、その方が何を大切にしているのかを丁寧に見させていただきました。

「自分の軸はあるか?」NPO/NGO新卒内定者の共通点

――内定された2名の方は、どのような特徴を持っていますか?


杉山さん:

自分がチャレンジしたいことや、ジャパンハートの活動にコミットしたい理由が明確でした。
「自分がどういう人間になりたいのか」「将来何がしたいのか」という考えが深く、芯の強さを感じたのです。

応募者の中には、内定者の2名よりも国際協力の経験が豊富な方もいましたが、「なぜ私たちの活動に携わりたいのか」という部分が曖昧な方もいらっしゃいました。
一方、内定者の方々は、経験は少なくても、自分の将来像や目指したい方向性が明確で、その内容に深く共感できました。2人とも、選考を通じて満場一致での採用でしたね。



――やりたいことや、未来に対する展望を重視されているのですね。


杉山さん:

はい。将来的にどこで活躍するかは問いません。ジャパンハートを卒業していくこともあるかもしれませんが、それでもかまわないと思っています。
ただ、「自分の人生をどうデザインしていきたいか」をしっかりと考えられているかどうかは重要な判断基準です。

創設者の吉岡は、20代までの時期を「雪だるまの芯を作る時期」だと常々口にしています。
30代になってその芯を転がし始めたとき、きれいな雪だるまにするためには、若い時期に自分の軸となる芯を固めることが大切なのです。


業務説明を受ける新卒内定者(インターン中)



――国際協力業界で長く働き続けるために必要な要素は何でしょうか?


杉山さん:

この業界は、よく「ボランティア精神」や「自己犠牲」のようなイメージを持たれますが、そういった気持ちだけで続けられるものではありません。
自己犠牲の精神で働き続けることは、人生の半分を犠牲にすることだと私は思います。そんな思いはしなくていい。

大切なのは、本当に心の底から「やりたい」と思えることをしているかどうか、です。もちろん、その「やりたいこと」は時間とともに変化していくかもしれません。
例えば、一般企業で3年働いて次の業界に行きたいと考えて入社してくる方もいますし、ジャパンハートでの活動を通じて新たな目標を見つけ、出ていく方もいます。

それも一つの健全な形だと考えています。心の底から「やりたい」と思えることだからこそ、毎日続けられるのだと思います。


ジャパンハートで働かれている職員の方々

就活生へのアドバイスは?新卒でも国際協力業界で活躍する人の特徴

――就職活動を控えた学生の方々へ、アドバイスをお願いします!


杉山さん:

一般的な就職活動のアドバイスは難しいのですが、学生時代に大切にしてほしいことはあります。それは、できるだけ多くの人や文化に触れ合うことです。

例えば私は学生時代、教師になることを強く志望していました。
しかし、ウガンダでの経験や、世界中から集まった学生たちとの交流を通じて、価値観が良い意味で壊れていきました。
様々な考えを持つ人々と意見をぶつけ合う中で、自分の人生が豊かになっていくような感覚を覚えたのです。

20年程度の人生で培った価値観は、まだ視野の狭いものかもしれません。ですので、その価値観を揺さぶるような体験をすることは、非常に重要だと考えています。



――実際に体験することは難しくても、最近は動画やSNSで海外の情報も簡単に得られますよね。そのような情報収集も有効ですか?


杉山さん:

できれば画面の中だけで満足せず、実際にその場に身を置くことを大切にしてほしいと考えています。
私たちも学生インターンの受け入れや、医療学生向けツアーなどを実施していますし、今後は一般学生向けのプログラムも計画しています。
実際に現場に行き、様々な価値観に触れることで、この業界を目指す人材が増えていってほしいと考えています。




――新卒採用について、国際協力業界全体への展望をお聞かせください。


杉山さん:

多くのNPO/NGO団体は小規模で、正職員すら抱えていない場合も多く、新卒採用に踏み切るのは簡単ではありません。
しかし、今のような中途採用だけでは限界があるのも事実です。組織の価値観に合わない方を採用して、すぐに退職、また採用という繰り返しでは、成長は望めません。
どこかで思い切って新しい人材を受け入れる決断も必要だと、私たちは考えています。

ジャパンハートの試みが成功し、「新卒でもNPO/NGOで活躍できる」というロールモデルを示すことができれば、それが国際協力業界全体の発展につながっていくはずだと信じています。

実現できるかはまだわかりませんが、将来的には他団体と協力し、採用促進イベントを企画していければと考えています。
いきなり新卒採用は難しい団体も多いと思うので、まずは若手層との接点を増やしていくところから始めたいですね。


編集後記:インターンやイベントを通じて自分の価値観を磨いていこう!

ジャパンハート・杉山さんから、NPO/NGOでの働き方や採用だけではなくキャリア形成のポイントについてお話を伺いました。
多くの人や文化に触れることで新しい価値観に出会うことや、“心の底からやりたいと思えること”を明確にすることの大切さを教えていただきました。

普段の生活の中ではなかなか新しい価値観に触れるチャンスがないかもしれませんが、杉山さんがおっしゃるようにいつもと違う場所に身を置いてみるのも一つかもしれません。
また、実際にスタディツアーに参加してみたり、インターンに参加してみたりすることで、あなた自身の“心の底からやりたいと思えること”を明確化していくことにつながるかもしれませんね。

ぜひ、あなたの歩幅で一歩踏み出してみてくださいね。応援しています!


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