コラム 海外を目指す学生たちのリアル
ネパール交流市民の会×駒ヶ根市内の中高生 「中学生ネパール派遣事業からの広がり」
中学2年生で体験できるネパール派遣。
強烈な体験が、国際社会への関心を高める
きっかけに。
JICAが派遣する海外協力隊の訓練施設がある長野県駒ヶ根市。友好都市協定を結ぶネパール・ポカラ市との交流がさかんで、駒ヶ根市が主催する「中学生ネパール派遣事業」もその活動のひとつです。今回ご紹介するのは、「ネパール交流市民の会」。市民レベルでネパールとの友好
関係をもっと深めようと設立された団体です。
連載第2回目は、「中学生ネパール派遣事業」の実際の活動内容とその後の広がりについて、くわしく教えてもらいました。
協力隊の訓練所がある駒ヶ根市ならではの取り組み。
- 「中学生ネパール派遣事業」って、そもそもどんなもの?
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市内の中学2年生を対象にした駒ヶ根市主催の海外派遣事業で、1991年よりスタートしました。開始当時の派遣先はアメリカでしたが、
駒ヶ根市には協力隊の訓練所があったこともあり、多くの協力隊員が活動しているネパールを派遣先にしたらよいのでは、と始めたのが1995年。ネパールの政情不安により一時中断した時期もありましたが、2013年からは毎年実施されています。派遣の一番の目的は、途上国で実際に活動している隊員の姿を見てくることです。隊員の喜怒哀楽や、苦労しながらも現地の人々と
やり遂げようとしている姿を間近で見ることで協力隊の活動を理解し、国際感覚を身に付けてもらいたいと考えています。
- 参加する中学生はどんな人たち?どのくらいの人数が参加できる?
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毎年夏休み前に、対象となる駒ヶ根市内近隣町村の中学2年生にチラシが配られます。夏休み明けに書類選考が行われ、面接を経て、
翌年1月より派遣という流れです。
提出してもらった動機書を元に、面接では主にやる気や心構えを重視しているようです。行き先は水や電気供給が不安定な途上国なので、
生半可な気持ちでは行けない国ですからね。駒ヶ根から毎年8名が上限です。
「教育委員会」×「市民団体」のジョイント事業に発展。
- 「ネパール交流市民の会」は、どのように関わっているの?
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以前までは壮行会で「行ってらっしゃい」と送り出す側でしたが、2015年から本格的にこの事業に関わるようになりました。というのも、ネパールから帰国した学生たちには、派遣後の報告会や、報告書の作成といった機会はあるものの、その後、ネパールでの経験を活かして
活動をするということがほとんどなかったんです。一方、私たちの「ネパール交流市民の会」はオトナ中心の団体で活動がパターン化して
きていました。そこで、この二つがジョイントすれば面白いことができるのではないかと感じ、「中学生ネパール派遣事業」に関わるようになっていったのです。それからは、派遣前の事前ワークショップを通じて学生たちと交流したり、一足先にネパールへ行って学生たちを迎え、現地のアクティビティを企画運営したりと、年々関わりが増えています。帰国後もワークショップやイベントを通じて、学生たちとつながりを持ち続けています。
- 事前のワークショップって、どんなことをしているの?
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事前段階では2回のワークショップを開催しています。「世界がもし100人の村だったら」という開発教育のシミュレーションゲームを行ったり、ネパールという国を理解するために、実際に派遣を経験した先輩から体験談を聞いたり、現地のネパール人とスカイプしたりしています。他には、「ネパールで役に立つことをしてこよう」というお題でディスカッション。訪日ネパールの人に「どんなことを日本人にしてもらいたいか」を聞いて、それを参考にアイデアを出し合い、派遣に向けて準備をしています。
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ワークショップとは別に、駒ヶ根訓練所の講師によるネパール語教室も3回〜4回実施されています。現地では、英語が日本よりずっと
通用しますから、簡単なネパール語と英語、それにボディランゲージを加えてコミュニケーションをとっていて、なかなか頼もしいです。
- 実際に現地ではどんなことをしているの?
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現地への派遣期間は8日間。そのうち2泊がホームステイです。協力隊員が活動している学校を訪問して、現地の子どもたちとスポーツを
したり、出し物をしたりといった「学校交流」や、大使館を訪問して大使のお話を聞くなど、充実したプログラムが組まれています。
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さまざまなアクティビティの中に、私たちの「母子保健プロジェクト」で設立のお手伝いをした「母子友好病院」を訪問する活動も含まれています。病院をただ訪れるだけでなく、このプロジェクトが必要になった背景を理解してもらうために、学生たちと村歩きをします。
協力隊員の方にも同行してもらい、現地の妊婦さんやお母さんたちにインタビューをして、「こんなふうに赤ちゃんを沐浴させているんだ」「病院に行くだけでこんなに大変なんだ」と、生の声を聞くことで実際の暮らしぶりを肌で感じてもらっています。
ネパール派遣を経験した学生たちから感じた変化。
- 派遣後の学生たちの様子は?
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びっくりするほど顔つきが変わって帰ってきます。ネパール滞在中も、日に日に変化していくんですよね。最初は緊張した面持ちの子も、いつの間にか現地の人たちとフレンドリーに接することができるようになっていたり。愛情あふれる、おしゃべりなネパール人と毎日
コミュニケーションをとるので、自然と明るく元気になってくるのだと思います。現地に行ってみて、自分の英語力では全然足りないことを思い知らされたという子も多く、「英語をもっと勉強したい」という感想を
たくさん聞きました。
- 実際に派遣を経験した中学生で、その後国際関係へ進んだ人は?
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初期の派遣経験者の中で、今では協力隊としてネパールで活動している人がいます。
すべてのOB・OGが国際関係へ進んでいるわけではないですが、国際関係の学部を進路に選ぶ人も数名いました。入試対策で小論文の相談を受けたこともあります。
- 駒ヶ根訓練所があることが、何らかの影響を与えていると感じる?
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それは大いにあると思います。協力隊の候補生が市内の学校や農家で活動するという訓練もありますし、市民にとって協力隊は身近な
存在。「ジャンボ」「ナマステ」という挨拶や、ガボン、ニカラグアといった国名を小学生でも知っていたりするので、国際理解教育という部分では進んでいると思います。「みなこいワールドフェスタ」という協力隊を中心にしたお祭りも毎年行われていて、今年で26回目を迎えます。各国の料理や音楽、遊びや文化などを楽しむことができる、国際色豊かなお祭りです。こうした土壌が駒ヶ根市には根付いているので、国際交流への理解が深い
親御さんが多く、その子どもたちの世代でも、世界に興味を持っている子は多いのではないでしょうか。
次回は、実際にネパール派遣に参加した中高生にお話を聞きます。お楽しみに!
プロフィール
北原 照美(きたはら・てるみ)さん
(ネパール交流市民の会)
ネパール交流市民の会/プロジェクトマネージャー
1968年生まれ、駒ヶ根市出身。幼稚園教諭として働きながら、バックパッカーで世界を旅する。途上国で出会った子どもたちの「家族を想う」美しい心に刺激を受け、協力隊に
参加。モルディブ派遣を経験し、ユニセフに勤務。JICA駒ヶ根訓練所・JICAガーナ事務所のスタッフを経て、
2014年より現職。
年間100数日をネパールで過ごし、日本とネパールを行き来しながらプロジェクト活動に取り組む。