コラム 海外を目指す学生たちのリアル
ネパール交流市民の会×駒ヶ根市内の中高生 「中学生ネパール派遣事業からの広がり」
“ネパール派遣”を経験した学生の
リアルな体験談と、“民際”のこれから。
JICAが派遣する海外協力隊の訓練施設がある長野県駒ヶ根市。友好都市協定を結ぶネパール・ポカラ市との交流がさかんで、駒ヶ根市が主催する「中学生ネパール派遣事業」もその活動のひとつです。今回ご紹介するのは、「ネパール交流市民の会」。市民レベルでネパールとの友好関係をもっと深めようと設立された団体です。
最終回となる連載第3回目は、実際にネパール派遣を経験した中学生、高校生の皆さんにお話を聞きました。
※文中の「中学3年生」は、2019年1月(当時中学2年生)に派遣を経験した学生です。
先輩など身近な人からの勧めが、最初のきっかけに。
- 「中学生ネパール派遣」に、参加しようと思ったきっかけは?
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中学3年生
最初にネパール派遣のことを知ったのは、小学生の時。担任の先生の娘さんがネパール派遣に参加したと聞いて、『そういうものがあるんだな』と思いました。中学に入ってから、部活の先輩がネパール派遣に参加したと聞いて本格的に興味を持ち、『行ってみて損はないよ』と勧められて参加を決意しました。 -
中学3年生
中学1年生の時に参加したJICAの協力隊体験で、ネパール派遣に行くという先輩と出会い、初めて「中学生ネパール派遣」のことを知り
ました。駒ヶ根市内の中学だけだと思っていたら中川村も対象ということだったので、やってみようと決意しました。 -
高校2年生
部活(書道部)の先輩づたいに代々一人ずつ参加していたので、自分の代になった時には自分が行こうと決意していました。今も下の代の
子たちが行っていると聞いて嬉しいです。
ホームステイで触れたネパールの人の温かさ。違う国で「家族」が
できた。
- 実際にネパールへ行ってみてどうだった?
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中学3年生
首都のカトマンズは、第2の都市ポカラと比べてみると経済格差が大きいように感じました。また、カトマンズでは人口過密問題もあると
思います。自分達が住む日本と違う部分を肌で感じ、例えばゴミの問題では、分別や処理方法のアドバイスなど、日本として貢献できる部分が多くあるような気がしました。
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中学3年生
カトマンズのモダナート(お寺)で見た、物乞いをしている光景が印象的でした。生きるために物乞いをするしかない、という必死な姿を
見て、考えさせられるものがありました。 -
中学3年生
一番楽しかったのはホームステイ。少しの間でしたが、実際に違う国の家庭で過ごしたことで、英語の大切さを実感することができました。ホストファミリーが本当の家族のように接してくれたことがとても嬉しかったです。帰る時は号泣でした。帰国した今でもFacebookを
通じて連絡を取り合っています。
異国でのコミュニケーションを通じて、積極的な自分に。
- 行く前と行ったあとで、自分はどう変わったと思う?
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中学3年生
自分とは違う国の人と、違う国の言語で気持ちを伝えようとすること自体、この派遣プロジェクトに参加しないと経験することができな
かったと思います。つたない語学力であっても、相手に向き合う気持ちがあれば、気持ちは伝えられるということが学べました。 -
中学3年生
最初はネパールに行くことが怖かったけど、帰国した今は行ってみてよかったと実感しています。何事も、まずはやってみることが大切だと思いました。ネパールに行ったことで、外国の人と話す恐怖心もなくなり、以前より積極的な自分になれたと思います。
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高校2年生
ネパールに行く前は、ニュースで他の国の問題を聞いても聞き流すことが多かったのですが、海外を体験してみて、他の国で起こっている
問題を身近に感じるようになりました。ニュースの見方が変わったと思います。 -
高校2年生
ネパールは日本に比べて開発途上国。派遣前の自分は、ネパールに対して『貧しい国だからかわいそう』という先入観を持っていました。
実際は、環境としては劣っているけど、現地の人たちはそんなことを少しも思っていなくて、日本人より心があたたかくて、幸せそうに感じました。見た目や、属している場所で人を判断するのではなく、自分の感じたことが、そのまま相手なのだと考えるようになりました。
将来の可能性は無限大!国内でも海外でも、できることはある。
- 将来の進路、どう考えている?
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中学3年生
将来は医療関係の仕事を目指しています。ネパールの病院を視察して、医療機械の不足を人の手でまかなっている現場を見てくることが
できました。設備の整っていない海外で、医療関係の仕事に従事したいと思っています。 -
高校2年生
ホテルマンになりたいと思っています。理由は、ネパールで自分達のことをあたたかく迎えてくれた人たちに影響を受けたからです。異国の地に行った時に、あたたかく迎えてくれる人は旅行者にとって安心できる存在です。海外から日本へ来てくださった人たちを、自分なり
のおもてなしで迎え、安心させてあげたいです。
- 自分と同世代の中高生たちに、伝えたいことは?
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中学3年生
日本では当たり前のことが、ネパールでは当たり前ではないということが多かったです。例えば、お風呂がなくてシャワーだけ。普段できることができないからこそ、当たり前にできることが、いかに貴重で幸せなことか知ることができると伝えたいです。 -
高校2年生
ネパール派遣を経験してから2年が経ちました。触れていない時間が長いと、忘れてしまうというのが正直なところです。でも今こうして
みんなの話を聞いていると、記憶が一気によみがえってくる。行ってみる価値があると思います。 -
高校2年生
今の中学生全員がネパールに行ってほしいというわけではないけれど、アメリカなどの先進国を見るだけではなく、開発途上国を見ることで、自分の価値観や考えを深めてほしいと思います。得るものが大きいので、ぜひ頭が柔らかいうちに経験してほしいです。
誰もが、自然体で、世界とつながっていく。
- 最後は北原さん。これからの活動について教えて!
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わたしたち市民がやっている「民際」は、誰でも、どこにいてもできる活動です。例えば、地域のおばあちゃんたちがコタツに入りながら、手編みしたニット帽。それに中学生が編んでくれたボンボンを付けて、わたしたちがネパールの母子友好病院へ届けています。そして現地で生まれた赤ちゃんにかぶってもらうことで、相互に喜び合える。こうした「民際」をもっと広めていきたいと思っています。ネパールを身近に感じられるような活動の継続が、駒ヶ根市や地域の民際文化につながっていくと信じています。
中学生のうちは国際交流や協力に興味があっても、「自分には何ができるんだろう」と、悩むことも多いと思います。まずは「民際」から始めてみて、世界への理解を深めていきながら、自分にできること、やりたいことを見つけていけるとよいのではないでしょうか。世界と
つながることも、羽ばたくことも、その気になればチャンスは身近にあるものだし、心を込めてやっていけば必ず花が咲く。その種まきをこれからも続けていきたいです。
プロフィール
北原 照美(きたはら・てるみ)さん
(ネパール交流市民の会)
ネパール交流市民の会/プロジェクトマネージャー
1968年生まれ、駒ヶ根市出身。幼稚園教諭として働きながら、バックパッカーで世界を旅する。途上国で出会った子どもたちの「家族を想う」美しい心に刺激を受け、協力隊に
参加。モルディブ派遣を経験し、ユニセフに勤務。JICA駒ヶ根訓練所・JICAガーナ事務所のスタッフを経て、
2014年より現職。
年間100数日をネパールで過ごし、日本とネパールを行き来しながらプロジェクト活動に取り組む。