コラム 海外を目指す学生たちのリアル
名城大学附属高等学校 国際クラス
二人で力を合わせて挑む、“女性の生涯に寄り添う”支援。
愛知県名古屋市にある「名城大学附属高等学校(以下、名城高校)」に、SDGs達成に向けた支援活動を行う高校生たちがいます。一人は、ケニアの女の子に手づくりの「布ナプキン」を届ける活動をする岩佐麻椰(いわさ・まや)さん。もう一人は、途上国の起業家を支援するマイクロファイナンス(※貧困からの脱出を目的とした金融サービス)サイトの翻訳ボランティアを手がける大塚彩矢(おおつか・さや)さん。二人がタッグを組み、「女性の生涯に寄り添える支援」に取り組んでいます。
第2回は、二人の詳しい活動内容と、彼女たちをサポートする先生の想いを語ってもらいました。
教育を受けられないことと、安定した仕事に就けないことは、つながっている。
- 岩佐さんの「布ナプキンプロジェクト」について教えて!
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岩佐さん
アフリカのケニアには生理用品が買えないために、生理中に学校へ行けない女の子がいます。ナプキンの代わりに、不衛生な布やマットレスを切り取って使うこともある…。そうした状況を少しでも変えるために「私でもやれることはないか」と模索して、「布ナプキンプロジェクト」に出会いました。洗って何度でも使える布ナプキンをケニアの女の子に使ってもらうことで、教育支援につなげる取り組みです。
最初は、この活動を教えてくれたMusic ActivistのShihoさんを通して、私たちがつくった布ナプキンを現地に届けてもらっていました。でも3年生になった今、次のステップに挑戦しています。それは、布ナプキンの制作から現地の送付まで、すべてを高校生が主体となってやること。もちろん、いろいろな人に協力をいただきながらですが、あくまでも私たちがメインとなり最後までやってみようと。今、この活動の引継ぎも兼ねて、後輩と一緒に進めている最中です。
- 大塚さんが取り組んでいる「翻訳ボランティア」は、具体的にどんな活動なの?
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大塚さん
私が翻訳ボランティアを行っている「Kiva」というサイトでは、インターネットを通して世界中から投資家を募っています。新しくビジネスを始めたい人の事業プランやプロフィールが公開されていて、誰でも一口25ドルからの融資が可能。アフリカなどの発展途上国では、安定した仕事に就けない女性が多くいますが、「Kiva」はそうした女性の起業も支えています。ですが、日本人向けの「Kiva JAPAN」は、日本語訳が追い付いておらず、ほとんど英語のままで表記されています。そこで、私たちボランティアはその内容を日本語にすることで、日本人の投資家に向けた間口を広げているんです。
- 翻訳って難しい?
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大塚さん
それほど難しい作業ではありません。国際クラスのみんなに体験してもらったのですが、普段の授業でも英語を使う機会が多いので、一つの案件を10~15分くらいで翻訳できました。自分が翻訳した案件に融資が実行されていることが確認できると、やっぱりすごく嬉しいです。
ただ、現在は「Kiva JAPAN」の翻訳した案件を掲載しているページが見られなくなってしまい…これからもやっていきたいと思っていたので残念です。
- 別々の活動をしていた二人が、一緒に進めるようになったのはどうして?
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岩佐さん
2年生のとき、あるシンポジウムに二人一緒に参加することになったんです。そこで、「私たちがそれぞれ取り組んでいる問題は、実は根っこでつながっているのでは?」ということに気づいて。アフリカの女性は、幼いときに満足な教育を受けられない。それが理由で、大人になってから企業に雇用されづらい状況に置かれてしまう。だから、二人で力を合わせれば、「女性の生涯に寄り添える支援」が形づくれるのではないかと考えました。「布ナプキンプロジェクト」では、女性が安定して教育を受けられる環境を支援できるし、「翻訳ボランティア」では、女性の起業のチャンスを増やすことができるので。
二人で立ち上げた「第1回SDGs活動体験会」。
- 昨年二人が発起人になって、校内で「第1回SDGs活動体験会」というイベントを開催したそう。どんな内容だったの?
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大塚さん
アフリカの女性の社会進出に着目したイベントで、参加者には私たちがやっている活動を体験してもらいました。ケニアに送るための布ナプキンをつくってもらったり、「Kiva」の翻訳を実際に体験してもらったり。校内の生徒だけでなく、他にも8つの高校から人が来てくれて、約50名の参加がありました。 -
岩佐さん
このイベントの周知活動は、かなり頑張りました。各クラスに出向いて「イベントやります!」と、チラシを配ったり、校内放送を使って参加を呼び掛けたり。他校からも人を集めたかったので、校外のイベントで声をかけて、SNSもフル活用しました。新聞社にプレスリリースも送りましたね。「私たちのイベントに取材に来てくれませんか?」って。
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羽石先生
他校と合同で行うイベント含め、グローバルサロンやワークショップなどを開催すると、二人が必ず「私たちにも時間をください」って頼みにきました。そしてマイクを渡すと前に出て、「今度私たちがSDGsに関するイベントをやるので来てください!」って精いっぱい宣伝していましたね(笑)スイッチが入った二人の行動力には感心するばかりでした。 -
岩佐さん
イベントにはお金をかけられないので、布ナプキンの材料を持ち寄ってもらったり、オーガニックコットンを扱う会社にお願いして、切れ端を無償で提供していただいたりもしました。また、こうした私たちの活動の様子を放送部の子たちがずっと動画で記録してくれました。今度、その動画をまとめてドキュメンタリーをつくってくれるそうです。ありがたいことに私たち二人だけでなく、みんながこの活動に興味を持って、関わってくれました。
- 周りの生徒さんからの反応はどうだった?
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大塚さん
周知活動でいろいろなクラスを回りましたけど、正直なところ、参加してくれたのは以前からSDGsや社会問題に興味がある子がほとんどで。まったく関心のない子が来てくれたケースは少なかったですね。「社会問題を、自分事として捉えてもらうのは難しい」ということを痛感しました。 -
岩佐さん
でも、「問題意識は持っているけど、自分からは行動できなかった」という人が多く参加してくれたので、嬉しかったですね。私たちのイベントが、そういう人たちの背中を押すことができたのは良かったと感じています。
二人の熱意に、背中を押された人もいる。
- 学校側は、生徒の活動をどんな風にサポートしてるの?
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羽石先生
基本的には、1年生のうちからどんどんチャレンジさせる教育方針です。私たち教師がそばにいてあげられるのは、長い人生の中のわずか3年間だけ。だから、その中で「何度転んだって起き上がれる」ことを経験してもらいたいと思っています。「失敗することを怖がらないで」ということは、折に触れて伝えていますね。
※本記事の取材は、2020年10月にオンラインにて実施しています。また、新型コロナウイルス感染予防対策としてマスクを着用しています。
プロフィール
名城大学附属高等学校
愛知県名古屋市にある名城大学の附属高校。「知・徳・体の調和する人格の完成」を教育目的の一つに掲げ、設立から90年以上にわたり、東海地区の教育を牽引してきた。平成18年から3期連続して文部科学省が推進する「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定校に認定されており、さらに平成26年には文部科学省が推進する「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定校に認定(平成30年まで)。「国際クラス」はSGHとして培った教育手法を活かし、確かな語学力とリアルな国際感覚を身につけた人材の育成に力を入れている。