コラム 地球規模で生きる人
白木 夏子(しらき・なつこ)さん(株式会社HASUNA)
人も環境も犠牲にしない!エシカルなジュエリーで、行き過ぎた資本主義に立ち向かう。
ファッションが大好きで、集団行動はちょっと苦手。外で友だちと遊ぶより洋服やアクセサリーづくりを好んでいた少女は、数年後に日本を飛び出し、27歳でエシカルジュエリーブランド「HASUNA」を立ち上げました。
今回ご紹介するのは、国内エシカルジュエリーのパイオニア、白木夏子さん。日本人のほとんどが知らなかったエシカルジュエリーを国内に広め、世界約10カ国の宝石鉱山労働者や職人と共に、人権や環境に配慮したモノづくりに取り組んでいます。白木さんが世界で起きている問題に目を向け、起業を果たすまでには、さまざまな人との出会いがありました。全3回のシリーズでお届けします!
白木さんの仕事ってどんなこと?
白木さんは、「エシカルジュエリー」を日本に広めた第一人者。エシカルなモノづくりをすることで、貧困問題や環境問題の解決を目指しているよ。
- 「エシカルジュエリー」って、どういうもの?
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エシカル(Ethical)とは、「道徳的・倫理的」という意味。エシカルジュエリーは、宝石の採掘から販売までのすべての工程で、人や社会、自然環境に配慮してつくられるジュエリーのことだよ。そして、エシカルなジュエリーが生まれた背景には、残念ながら「エシカルではない」ジュエリーがあるんだ。
- エシカルではないジュエリー…道徳的ではないジュエリーってこと?
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そう。紛争ダイヤモンド、という言葉を聞いたことあるかな?紛争地帯で産出されたダイヤモンドが、武器を買うための資金源になっていることがあるの。また、宝石や金を採掘している鉱山では、児童労働も行われている。金の採取に使われる水銀を、子どもが素手で混ぜているような状況で…とっても危険。神経系の健康被害や、土壌汚染も招いているんだ。その他、鉱山開発による森林伐採、先住民の迫害、マネーロンダリング(※)への利用…こうしたエシカルとは呼べないジュエリーも、市場に出回っている。華やかで美しいジュエリーだけど、私たちの手元に届くまでに実はさまざまな問題があるんだ。
※犯罪や不正取引などで得た資金を、多数の銀行口座を転々と移動させることで資金の出所をわからなくすること
- どうして、エシカルではないジュエリーが生まれてしまうの?
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エシカルではないジュエリーは、くりかえされる紛争や、行き過ぎた資本主義経済によって生み出されてきたんだ。特に戦後の高度経済成長期は、人権や自然環境を考えず、どんどんジュエリーが生産されてきた。そのゆがみは、未だに解消されていないんだ。私がエシカルジュエリーブランド「HASUNA」を立ち上げたのは、こうした現状を変えたかったから。HASUNAが扱うのは紛争ダイヤモンドではなく、産地を特定できる健全な宝石。児童労働や環境汚染のないことを証明する、フェアマインド認証を受けた金属を使っているんだ。また、採掘の現場や生産地では、安全が守られた雇用も促進しているよ。
- エシカルジュエリーで起業しようと思ったきっかけは?
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2008年、不動産投資ファンドで働いていた私は「いつかビジネスで社会貢献がしたい」という目標を持っていたんだ。自分にできるビジネスは何かと模索していたある日、海外のネット記事で「エシカルジュエリー」という言葉を見つけたの。イギリスにあるエシカルジュエリーの会社を紹介する記事で、エシカルという概念は知っていたけれど「エシカルジュエリー」を公言している会社があることは、そのとき初めて知って。私のやりたかったことを説明できるぴったりのワードがあった!と嬉しくなったの。そのころの日本では、まだエシカルという言葉はほとんど知られていなかったので、「日本で、エシカルジュエリーブランドを起業しよう!」と決めたんだ。小さいころからアクセサリーをつくるのが好きだったこともあって、ジュエリーのビジネスなら楽しくチャレンジできそうだと思ったの。
私たちの便利で豊かな生活は、途上国の労働に支えられている。
- 「ビジネスで社会貢献をしたい」と考えるようになったきっかけは?
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きっかけは、学生時代に南インドのNGOでインターンを経験したこと。その頃は国際協力の仕事を目指して、イギリスのロンドン大学で開発地理学を学んでいて。夏休みを利用して2ヵ月間、インターンに参加することにしたんだ。私が滞在したのは、住民のほとんどが1日2ドル以下で生活をしている、アウトカーストの村々。その中に、鉱山労働者が住む村があったんだ。彼らの仕事は、鉱山で大理石や雲母(うんも)などを採掘することで、労働環境はとても過酷。それだけでも衝撃的だったけど、そこで掘り出された雲母は、私たちがいつも使う化粧品や、パソコンなどの電子機器に使われると聞いて…大きなショックを受けたの。
「私たちの便利で豊かな生活は、途上国の厳しい労働の上に成り立っている」ということに、初めて気づいたんだ。大量消費の裏に搾取されている人がいる…この流れを変えるには、どうしたらいいのだろう?インターンを終えて大学に戻ってから、そのことばかり考えるようになったんだ。そして「途上国の苦しみは、資本主義の中で生み出されたもの。彼らの労働環境を改善するためには、資本主義の中で仕組みをつくるしかない」と考えるようになった。それから、ビジネスで社会貢献したいという想いが芽生えたんだ。
海外に目を向けるようになったきっかけは、祖父の言葉。
- 幼い頃は、どんな風に過ごしていたの?
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私は繊維の街として有名な、愛知県一宮市で育ったんだ。母がファッションデザイナー、父が繊維関係の商社で働いていたから、物心ついた時からファッションの世界に憧れていたの。自分でアクセサリーや服を手づくりするのが好きで。母に安い布を買ってもらっては、ミシンで縫ったりしていたね。海や川へ遊びに行くと、穴のあいた貝殻を探してネックレスにしたり、きれいな石を見つけて指輪をつくったり。遊びの中で自然にやってきたことだけど、今の仕事の原点になっていると思うよ。
- 海外に興味を持つようになったのは、どうして?
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旅好きだった祖父の影響かな。祖父は、戦時中から世界を渡り歩いていて、私に写真を見せながらアメリカやヨーロッパの話を聞かせてくれて。それで漠然と、「私も将来は世界を飛びまわって仕事をしたいなぁ」と考えるようになったの。さらに祖父は、当時としては珍しい価値観を持っている人だった。海外で女性が活躍する姿を見てきたからかな、日本の女性の地位が低いことをとても気にしていたの。昔は今よりもっとそういう風潮が強かったと思うから、私の将来が心配だったみたい。祖父はよく「夏子は海外へ出そう!」と言っていて、私がロンドン大学を目指して勉強していたときも応援してくれたんだ。留学が決まったときは、自分のことのように喜んでくれたよ。
プロフィール
白木 夏子(しらき・なつこ)さん(株式会社HASUNA)
英ロンドン大学卒業後、国際機関、投資ファンドを経て2009年にHASUNAを設立。
ジュエリーブランドHASUNAでは、ペルー、パキスタン、ルワンダほか世界約10カ国の宝石鉱山労働者や職人とともにジュエリーを制作し、 エシカルなものづくりを実践。”未来へと受け継がれるジュエリーブランド”として、日本におけるエシカル消費文化の普及につとめる。女性の働き方や起業、ブランディング、サスティナビリティ、ウェルビーイング、SDGs等をテーマに国内外で講演活動も行っている。
2011年、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011キャリアクリエイト部門受賞をはじめとして、 2013年には世界経済フォーラム(ダボス会議)にGlobal Shaperとして参加。2014年には内閣府「選択する未来」委員会委員を務め、Forbes誌「未来を創る日本の女性10人」に、2017年にはCNNが選んだ日本人女性「リーディング・ウーマン・ジャパン」に選ばれるなど、世界的にも注目を集める起業家である。