第486号 シリーズ 国際協力の第一線(団体編)~ヨルダン「スタディ・トリップ」日本の国際支援の現場を見て~
NPO法人Save the Asian Monuments 中山信一
2015年から私たちのNPOでは「スタディ・トリップ」を始めた。「スタディツアー」ではなく、「スタディ・トリップ」。自分たちが学ぶ旅をするコンセプトで「スタディ・トリップ」の名称にした。
第1回目の訪問先は2015年夏のエルサレム。イスラエルとパレスチナが政治的に対立していてもキリスト教とユダヤ教とイスラム教3者は日常生活で共存。 彼らが平和的に生活している姿を参加者に学んでほしかった。特に参加者にとって印象的だったのは、旧市街でキリストの磔刑に至る道を辿るディアドロローサだった。 「嘆きの壁」で、ユダヤ人が歌い踊る姿を見て、彼らの明るさに参加者は驚かされたようだった。
そして今回はヨルダンを考えた。外務省データでは、ヨルダンは日本の約4分の1の国土に759.4万人が暮らし、イスラム教徒93%、キリスト教徒7%である。 人口の約7割以上を占めるパレスチナ系住民を抱える。つまり国民の大多数がパレスチナ系住民。
企画時から JICAヨルダン事務所 の大山さんより助言を頂いた。 「JICAの事業を日本人が見学してくれることで、現地の人々との繋がりが深まりJICAの事業内容を1人でも多くの人に知ってもらうことができる」とのこと。 北部ウンムカイス遺跡の見学とヨルダン科学技術大学の学生達との交流、サルト市でのJICAの観光開発事業やパレスチナ難民キャンプでの女性雇用事業の見学、ヨルダン博物館の学芸員とのディスカッションなどを2年かけて企画した。
参加者の東沢さんは、バカアのキャンプで難民女性の話を聴き、石鹸や香水の売り上げによる事業収入が1か月、約100JD、日本円で15,000円、家庭に応じて事業設計を立てるという支援の 内容をJICAの新岡さんから説明されて、具体的にどのような支援を行っているのかが分かり「大変参考になった」と述べた。
参加者の藤井さんは、ヨルダン国立博物館の学芸員との会話を通じて「ヨルダンの歴史を、ここにくるヨルダン人にどう伝えたいと思いますか」と質問。 「古代ローマ人もナバタイも、その他ヨルダンの地に住んできた多くの民族は我々の尊敬すべき先祖です。多様性、そのことこそ、ヨルダン人に伝えていきたいメッセージです」という答えを受け感銘したという。
この「スタディ・トリップ」を通じて参加者が得たことは、参加者各自が将来のためのステップとして「スタディ・トリップ」の体験を生かせることだ。 どのような仕事に携わるのかが具体的にイメージできることにより、「国際支援に携わりたい」というモチベーションも上がる。 JICAや国連など、国際社会の現場で働きたいと考える若者は多い。しかし、実際、現場の見学やディスカッションの機会は限られている。 そのような機会を提供できるのが真の「スタディ・トリップ」の醍醐味ではなかろうか。
(写真1:サルト市街の博物館で、街の地形や当時の交易の様子を説明してもらう。)
(写真2:ヨルダン科学技術大学の学生と交流)
(写真3:バカアのパレスチナ難民キャンプ内の民家にて。JICA職員と難民の女性から女性雇用支援の商品の説明を受ける。)
(写真4:ヨルダン国立博物館学芸員とのディスカッション)
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