コラム 地球規模で生きる人

三輪 開人(みわ・かいと)さん(NPO法人 e-Education代表)

世界の果てまで“最高の教育“を届ける、冒険の旅。

大好きな漫画のヒーローに憧れて、「いつか世界を冒険したい」と夢見ていた野球好きの少年。高校時代は甲子園を目指し、ひたすら白球を追いかける日々。野球で頭がいっぱいだったという彼は、今NPO法人 e-Educationの代表となり、開発途上国の受験生を支援するプロジェクトに取り組んでいます。これまで途上国14カ国、3万人以上の中高生に、プロ講師による映像授業を届けてきました。
海外とは無縁の子ども時代を送っていた三輪さんは、なぜ国際協力という冒険の旅に出ることになったのでしょうか。迷いながら、自分の進むべき道を見つけていくまでのストーリーを、全3回のシリーズでお届けします。

三輪さんの仕事ってどんなこと?

バングラデシュをはじめとした途上国の受験生を支援するために、映像授業を届けているよ。

途上国にも、受験競争があるって本当?

そう、実はあるんだ。高校や大学の入試だけじゃなく、大学進学の資格を得るための受験もある。たとえば、ミャンマーの「セーダン試験」。これは、高校の卒業試験と大学の入学資格を兼ねたテストで、点数の高い生徒から大学を選べる決まりになっているんだけど、合格率はわずか3割。つまり、半数以上の生徒は合格できず、大学進学はおろか高校卒業の資格も得られないんだ。地域や経済による教育格差が激しいから、家庭環境によっては、かなり厳しい受験になる。僕が知る限り、ミャンマーで暮らす人の半分以上は、高校を卒業できなかった悔しさを抱えていたよ。

高校卒業の資格を得ることすら難しいなんて…厳しい環境だね…

彼らのような受験生を応援するために、僕たちは映像授業を届けているんだ。バングラデシュやフィリピンには予備校があるけれど、貧困家庭の子や、地方に住んでいる子は通えないよね。ミャンマーやネパールには、そもそも予備校の文化がない。僕も静岡県の地方の出身だから、近くにあまり有名な先生がいるような予備校がなかったけれど、大手予備校の映像授業のおかげで、受験を乗り越えた経験があるよ。途上国でもパソコンさえあれば、プロの授業を受ける機会がつくれる。最高の教育を世界の果てまで届けることが、僕らe-Educationの目標なんだ。

HASUNAのジュエリーの一例。環境に配慮した素材と、仕入れルートを確保している。
映像授業を受けている子どもたちの様子。
授業をしてくれる先生は、どうやって探しているの?

今はバングラデシュ、ネパール、フィリピン、ミャンマーの4カ国で活動しているんだけど、先生は現地で足を使って探し出しているよ!途上国にも「カリスマ講師」と呼ばれる先生がいるから、そういう人を見つけ出してお願いしたり、その国で一番有名な私立や公立の高校の先生に協力してもらったりして、最高の映像授業が届けられるように工夫しているよ。

バングラデシュで目にした忘れられない光景。

e-Educationを立ち上げようと思ったきっかけは?

大学3年生の時にバックパッカー旅をしてから色んな国を巡るのが好きになったのが始まりかな。そして旅するだけじゃなくて色んな国で働いてみたいという思いから、大学4年生の時にはバングラデシュのバック工場で(インターンとして)働くことにしたんだ。そこで同じようにバングラデシュで働いていた2つ後輩の税所(さいしょ)くんと出会って、二人である田舎の村を訪れた。深夜12時くらいだったかな。バングラデシュは一年中暑い国だから、夜でも気温は30度以上あって、周囲はもちろん真っ暗。そんな中、ポツンと灯る街灯の下で、もくもくと勉強している高校生がいたんだ。ボロボロの教科書を開いて、汗を流しながら。それは衝撃的な光景だった。彼に話しかけてみると、家に電気がないから夜はここで勉強していると言うんだ。「貧しい家に生まれたけど、家族を幸せにするために大学に行きたい」、「良い大学に入れば、良い仕事に就ける」と。僕はその頃、自分自身の進路に迷っていた時期だったので、「僕よりもずっとしっかりした夢を持っている高校生が、生まれた環境のせいで満足な勉強ができないなんて…」と愕然としたよ。

「この状況を変えることはできないだろうか…」と焦る気持ちを抱えていたら、税所くんから「この状況を映像授業で解決できないか」というアイデアが出てきた。彼も僕と同じ大手予備校の出身で、映像授業を受けていたから「それだ!」と思い立って、二人でe-Educationを立ち上げることになったんだ。

大学在学中に、すでに動き始めていたの?

そうだよ。ただ、e-Educationがスタートしたのは僕が大学4年の後半で、卒業後は新卒でJICAに入構することが決まっていた。なので、最初の3~4年間は、税所くんが学生との二足のわらじで活動してくれていたんだ。僕はボランティアのような形で彼をサポートしながら、二人三脚で活動してきたよ。

HASUNAのジュエリーの一例。環境に配慮した素材と、仕入れルートを確保している。
写真左端が三輪さん、右端が税所さん。

少年漫画のヒーローが大好き!冒険に憧れた小学生時代。

三輪さんは、いつから海外に興味を持つようになったのかな?

子どもの頃から、海外で仕事をしたいと思っていたの?

子どもの頃は思っていなかったよ。昔は漫画と野球が大好きな普通の少年だった。ロケットをつくりたいとか、お医者さんになりたいとか、夢はたくさんあったけど、国際協力の仕事をするなんて考えてもいなかったよ。海外に興味を持ったきっかけは、大好きだった漫画の影響が大きかったと思う。信頼できる仲間と、世界中の海をまわって冒険するストーリー。その主人公のように「もっと遠くへ行きたい」、「もっと広い世界を見たい」と思ったんだ。その気持ちが、僕の原点かもしれないね。

中高生のときは、どんな青春時代を送っていたの?

大好きな野球も、勉強も両方頑張ろうと思っていた僕は、文武両道を掲げる地元の高校に入ったんだ。甲子園も目指せるレベルの強豪校だったから、当然練習は厳しかった。勉強も理数科(特進クラス)のレベルが高くて、ついていくのが精一杯だった。実は、理数科の学生で野球部に入ったのは、高校創立以来僕が初めてだったみたいで、入学式の日に校長先生や担任の先生から「どちらかに絞ることを勧めます」とアドバイスされたんだけど、「両方頑張ります!」と言い張って、毎日必死に頑張った。でも、本音を言うと「もしかしたら1カ月後にはこのクラスにいないかも」、「部活を辞めているかも」という不安でいっぱいで、両親や仲間に応援してもらいながら、なんとか乗り越えた感じだったね。

HASUNAのジュエリーの一例。環境に配慮した素材と、仕入れルートを確保している。
大好きな野球に打ち込んでいた学生時代の三輪さん。
三輪さんは、いろいろなことに挑戦していくタイプなんだね。

小さい頃から両親によく言われていたのは、「好きなことは全部やった方がいい」ということ。だから、やりたいことをとことんやる、ということに関しては、両親にはすごく背中を押してもらっていたよ。あとは、僕はとにかく「仲間と一緒に挑戦する」ことが大好きだったんだ。野球はチームで協力するものだし、受験勉強だって、仲間と励まし合いながら、予備校の先生たちと一緒に乗り越えるチーム戦だと考えていたよ。どんな人でも、得意なことと、苦手なことがあると思うけど、みんなと一緒なら、弱点を補い合いながら前に進んで行けるよね?僕自身、みんなを巻き込んで「やろうよ!」と旗を振るのは得意だけど、お金の計算は苦手だし、メールの返信などの細かいことはすぐ忘れてしまう…。でも、仲間と助け合ってきたからこそ、今までいろいろなことに挑戦してこられたんだ。

自分の進むべき道を見つけるために、大学へ。

大学では、何を専攻していたの?

高校まで野球一筋だった僕は、将来やりたいことがはっきりしていなかったんだ。両親も大学に行っていなかったから、大学で何を学べばいいかなんて誰に聞いても教えてくれないし。高校は理数科だったから、最初は理系の学部を目指していたんだ。でも第一志望に落ちてしまったから、一浪して別の大学の法学部へ進むことにしたよ。理系から文系という全く逆の方向に進んだのは、尊敬していた予備校時代の恩師が法学部出身だったのが大きな理由だね。何にせよ、僕は将来に迷っていた。だから、大学で自分の進むべき道を見つけようと思っていたんだ。

大学へ進学したけれど、国際協力の仕事にはまだ関心がなかった様子の三輪さん。この後、どんな転機が訪れるのかな?それは、また次回!

※本記事の取材は、2021年3月にオンラインにて実施しています。

プロフィール

三輪 開人(みわ・かいと)さん(NPO法人 e-Education代表)

1986年生まれ。早稲田大学在学中に税所篤快氏と共にNPO、 e-Educationの前身を設立。
映像教育を用いて、バングラデシュの貧しい高校生の大学受験を支援。1年目から多くの合格者を輩出。
大学卒業後はJICA(国際協力機構)で勤務する傍ら、e-Educationの海外事業統括を担当。
2013年にJICAを退職しe-Educationの活動に専念。14年7月に同団体の代表に就任。これまでに途上国14カ国3万人の中高生に映像授業を届けてきた。
2016年、アメリカの経済誌「Forbes」が選ぶアジアを牽引する若手リーダー「Forbes 30 under 30 in Asia」選出。
2017年、第1回ICCカタパルト・グランプリ優勝。著書『100%共感プレゼン』(2020年、ダイヤモンド社)