コラム 地球規模で生きる人

三輪 開人(みわ・かいと)さん(NPO法人 e-Education代表)

目指すは、国際協力の逆転。途上国の人たちが、支援をする側へ

大好きな漫画のヒーローに憧れて、「いつか世界を冒険したい」と夢見ていた野球好きの少年。高校時代は甲子園を目指し、ひたすら白球を追いかける日々。野球で頭がいっぱいだったという彼は、今NPO法人 e-Educationの代表となり、発展途上国の受験生を支援するプロジェクトに取り組んでいます。これまで途上国14カ国、3万人以上の中高生に、プロ講師による映像授業を届けてきました。
海外とは無縁の子ども時代を送っていた三輪さんは、なぜ「国際協力」という冒険の旅に出ることになったのでしょうか。連載最終回は、三輪さんのこれからの目標と、ルーキーズ世代へ伝えたいメッセージです。

JICAで学んだことを、e-Educationの活動に生かす。

3年半のJICAでの経験を終え、改めてe-Educationの代表としての一歩を踏み出した三輪さん。どんな想いがあったのかな?

JICAを離れて、e-Educationの活動をメインにしようと考えたのはなぜ?

JICAでの仕事にやりがいは感じていたけど、一方で、重要な責務を持つ大きな組織だからこそできないこともあると知った。たとえば、前回も話したようにJICAのプロジェクトは、日本で成功した教育モデルを移転することが基本なんだ。だから、まだ挑戦段階の新しいプログラムを実行するのは難しい。でも、途上国の人たちと一緒に切磋琢磨したいと考えていた僕は、新しいこともどんどん実践したかった。映像授業もそのひとつ。でも、そういう取り組みはJICAではやはり難しく、NPOのようにフットワークが軽くてより自由に動ける小さな組織でしかできない。教育格差をなくしたいという想いはJICAと同じだけれど、僕は外からその世界を目指そうと思ったんだ。

次は、途上国の仲間と共に、日本の課題を解決していく。

e-Educationの仕事は楽しい?

楽しいよ! 僕たちはもう10年活動をしているけれど、最初に支援した高校生はもう大学を卒業して、すでに社会のリーダーとなって活躍している。中には、「今度は僕らが恩返しをしていく番だ」と言って、e-Educationの仲間になって活動してくれている子もいるんだ。支援を受けていた子が成長し、支援をする側となって活動している姿を間近で見られるのは、僕らの大きな喜びになっているよ。

「いつか日本に恩返しをしたい」という想いを持って勉強している生徒たち
「いつか日本に恩返しをしたい」という想いを持って勉強している生徒たち
e-Educationとしての今後の目標を教えて!

この後、どうしてもやりたいことが一つあるんだ。それは「国際協力を逆転させる」こと。前にも言ったように、僕らが教育を届けてきた開発途上国の子どもたちは、すでに社会人となって、それぞれの目指す道を進んでいる。彼らと一緒に、今度は日本の課題を解決したいんだ。

日本の課題って、どんなこと?

たとえば、日本の地方都市は、ITエンジニアの人材不足が深刻だということは知っているかな?そこで今、バングラデシュから日本にITエンジニアを招いて、地方のIT企業へ就職してもらう取り組みが進んでいるんだよ。これは、JICAの技術協力プロジェクトの一つで、僕は専門家の立場として関わらせてもらっているよ。e-Educationの支援を受けて、大学の理工学部でコンピューターサイエンスを学んだ子たちが、今は日本に来て活躍しているんだ。また、フィリピンで教育支援を受けて高校を卒業した子が、日本の高校生にオンラインで英会話を教えているケースもあるよ。支援を受けた人が今度は支援をする側になる。これは、国際協力における次のフェーズだ。

海外で教育支援の活動をしていると、「日本のためにならないことをよくやるね」という言葉を投げられることもある。でも僕は「そんなことない!」と声を大にして言いたい。「途上国で僕らと一緒に頑張って成長した子が、日本の課題を解決してくれる時代は、とっくに始まっているんだ!」、ってね。

マイノリティであることは、国際協力の世界では大きな武器になる。

三輪さん自身の、これからの目標は?

夢は、いつか日本の地方に住む子どもたちと、開発途上国の青年との出会いの場をつくること。僕もそうだったから分かるけれど、地方に暮らしていると、途上国の人たちと出会うことはなかなかないし、海外で働くなんて考えたこともない子も多いと思う。そんな子どもたちの可能性を広げるためにも、途上国の若者とつなげてあげたいんだ。たとえば、僕らのパートナーでもあるバングラデシュの青年は、弟が海外で出稼ぎをして、彼のために学費を貯めてくれた。彼は「弟のためにも絶対に合格する!」と言い、国内トップレベルの大学に合格。その後、今度は彼が弟のために懸命にアルバイトをしてお金を稼ぎ、弟を大学院へ進学させたんだ。すごいだろう?途上国にはこうした例がたくさんあるんだよ。彼らは「田舎に生まれたからこそ、僕らは社会を変えられるんだ」と言っている。この言葉を、子ども時代の僕のような、地方の中高校生に伝えられたら最高だと考えているんだ。

僕自身、田舎で生まれたことにコンプレックスがあったし、悔しい思いをしたこともあった。でも今は良かったと思っている。逆転することの楽しさや喜びを得られるし、「這い上がるぞ!」という意欲を持つこともできたから。また、途上国の人たちへの同情ではなく、「僕も君と同じ」という共感の気持ちから仲間になれたのも、僕が日本の田舎で生まれ育ったおかげかな、と思っているよ。

Fast alone, far together(遠くへ行きたいなら、みんなでいこう)
「今では日本の田舎で生まれたことを誇りに思えるようになった」と話す三輪さん。
国際協力の仕事を目指す若者に、アドバイスはある?

僕もさんざん変わり者だと言われてきたけど(笑)、学校にどうしても馴染めなかったり、みんなと同じようにできなかったりで、悩んでいる人もいると思う。でも、マイノリティ(少数派)であることは武器にもなるよ。人と違うことは強みに変えることができる。なぜなら、途上国ではいわゆるマイノリティの人たちほど弱い立場に立たされているから、少数側にいるからこそ、彼らに寄り添うことができるんだ。特に国際協力の世界では、個性はきっと輝くものになると思うよ。

ちなみに、三輪さんは英語が苦手だったと聞いたけど、大丈夫だった?

JICAに入ったとき、僕はTOEICを受けたこともないくらいだった(笑)。でも、少なくとも英語を聞き取ることができないと仕事にならないから、その後は頑張って勉強したよ。高校生のころと違って、「何のために学ぶのか」が明確になったとたん、英語力はどんどん伸びたし、TOEICの点数もすぐに上がったんだ。中高校生からよく「英語は勉強しておいた方がいいですか?」って聞かれることがあるんだけど、そんなとき僕は、「英語が好きなら勉強しておいた方がいいけど、苦手なら無理しなくてOK。海外の人と友達になれば“もっと話したい!”という気持ちが沸いてくるから、それからでも遅くないと思うよ」って、アドバイスしているよ。

「今では日本の田舎で生まれたことを誇りに思えるようになった」と話す三輪さん。
Fast alone, far together(遠くへ行きたいなら、みんなでいこう)
※本記事の取材は、2021年3月にオンラインにて実施しています。

三輪さんが伝えたいメッセージ

「好きや得意なことで世界を変えていこう!」

国際協力はとてもハードルが高くて遠い世界に見えるかもしれないけど、そんなことはない。僕も英語は大の苦手だったし、専門的な勉強をしてきたわけでもなかった。でも「好きなこと」と「得意なこと」が強みになって、国際協力の世界でもう10年活動することができている。大好きな漫画をきっかけに世界に憧れ、受験で映像教育にお世話になり、講師のアルバイトで受験生を応援することにやりがいを味わった。それが結果として今の仕事につながっているんだ。たぶん、今このコラムを読んでいる子は、すごく真面目で、夢に向かってまっすぐ努力している子が多いと思う。一方で、僕のように好きなことをとことん追求することで、夢に近づく道もあることを知っておいて欲しい。これが、みんなに送りたいメッセージだよ。

プロフィール

三輪 開人(みわ・かいと)さん(NPO法人 e-Education代表)

1986年生まれ。早稲田大学在学中に税所篤快氏と共にNPO、 e-Educationの前身を設立。
映像教育を用いて、バングラデシュの貧しい高校生の大学受験を支援。1年目から多くの合格者を輩出。
大学卒業後はJICA(国際協力機構)で勤務する傍ら、e-Educationの海外事業統括を担当。
2013年にJICAを退職しe-Educationの活動に専念。14年7月に同団体の代表に就任。これまでに途上国14カ国3万人の中高生に映像授業を届けてきた。
2016年、アメリカの経済誌「Forbes」が選ぶアジアを牽引する若手リーダー「Forbes 30 under 30 in Asia」選出。
2017年、第1回ICCカタパルト・グランプリ優勝。著書『100%共感プレゼン』(2020年、ダイヤモンド社)