コラム 海外を目指す学生たちのリアル
鈴木華子(すずき・はなこ)さん(JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト受賞者)
子どもたちの笑顔を守りたい。書くことで見えてきた人生の道しるべ。
「JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」は、開発途上国の現状や、開発途上国と日本との関係について理解を深め、国際社会の中でどう行動していくべきかを考えるために行われています。今回ご紹介するのは、JICAエッセイコンテストにおいて2016年度中学生の部で佳作、2017年度中学生の部で国際協力特別賞、2019年度高校生の部で外務大臣賞を受賞した鈴木華子(すずき・はなこ)さん。エッセイでは、子ども食堂でのボランティアを通して、身近なところから始める支援の大切さが題材になっています。将来は児童虐待問題の解消に取り組みたいという夢を持ち、大学で法律を学んでいる鈴木さんがその想いに至るまでには、どんなストーリーがあったのでしょうか。全3回のシリーズでお届けします。
UNHCR難民映画祭で見たドキュメンタリー映画が応募のきっかけに。
- エッセイコンテストに応募しようと思ったのはなぜですか?
-
エッセイコンテストの存在を知ったのは、中学2年生のときです。学校の掲示板に貼られていた募集要項を見て、「これいいな」と思いました。というのも、幼いころから本や映画が大好きで、文章を書くことも好きだったからです。特に、なにかひとつのテーマについて掘り下げて考えて、書き起こしていくことに面白さを感じていました。また、そのころは途上国の貧困や難民問題へ関心が出てきた時期でもあったので、「世界で起きている問題について自分の考えを伝えたい」という気持ちもありました。エッセイコンテストには3回応募し、初めて応募した中学2年生では佳作、中学3年生では国際協力特別賞、高校2年生では外務大臣賞をいただきました。
- なぜ途上国の貧困や難民問題に関心を持つようになったのですか?
-
とにかく本や映画が好きだったことから、「もっといろいろな物語に触れてみたい」と、UNHCR難民映画祭に行ってみることにしました。その名のとおり、難民をテーマにした映画やドキュメンタリーを上映している映画祭です。そこで観たのは、フランスに逃れたスリランカ内戦の難民について描かれた「ディーパンの闘い」という作品。そのときの衝撃が、世界で起きている社会問題に目を向けるきっかけになりました。私がこうしている今も、貧困や難民、紛争、環境破壊…と、世界ではあらゆる問題が起こっているのだと思いました。そのあとも、難民映画祭ではいろいろな映画を観ました。最近のものでは、「ナディアの誓い―On Her Shoulders」や「難民キャンプで暮らしてみたら」などが心に残っています。
また、小さいころによく、伝記を買ってもらったことも大きいと思います。世界に影響を与えてきた偉人たちの生き方に心を動かされながら、「私はどうやって生きていこうか?」と自分によく問いかけていました。そうした中で、「私は人のために生きたい」と思うようになりました。そういったことも今の活動の原点になっていると思います。それからは、「青少年赤十字リーダーシップ・トレーニングセンター(通称「トレセン」)」に参加したり、国際交流キャンプに行ったりと、興味の向いた方向へどんどん動きはじめました。家族も「好きなことをやりなさい」と、とことん応援してくれましたね。
貧困問題は、遠い国のできごとではなかった。
- 2019年度に受賞したエッセイでは、子ども食堂でのボランティアについて書いていますね。子どもの貧困や虐待の問題に関心が向くようになったのはどうしてですか?
-
高校では「模擬国連部」に入部しました。ここでは、実際に起きている国際問題について、国連会議の形で議論をします。生徒たちがそれぞれ日本大使やアメリカ大使になりきって、その立場から問題解決に向けた話し合いをするんです。難民映画祭をきっかけに、世界が抱える問題に関心を持ち続けていた私には、ぴったりの部活動でした。
あるとき、模擬国連部で「児童労働」がテーマになり、幼い子どもたちの未来が奪われていることを知りました。私は家族の関係に興味があって、温かい家庭で育つことの大切さや、親子関係、子どもの気持ちについて常日頃から考えることが多かった。だからこそ、児童労働問題についての議論は、一番心に残るものでした。それから、子どもの貧困や児童虐待問題に以前より目を向けるようになったんです。子ども食堂でのボランティアでは、実際に子どもたちと触れ合うことで多くのことを学びました。
- エッセイの題材は、どのように決めたのですか?
-
エッセイコンテストにはこれまで3回応募していますが、それぞれ、そのときに一番に伝えたいメッセージを書いてきました。2019年度のエッセイは、「身近なところから一歩ずつでも世界は変えられる」ということ。貧困問題といえば、海の向こうの途上国の状況に目を向けがちだけど、実は日本の身近なところにも貧困はある。見えていないだけなんです。いきなり世界のすべてを変えようとすると、自分の無力さに打ちのめされてしまうかもしれません。私自身、世界の現状と自分の理想のギャップに苦しくなるときもありました。けれど身近なところなら、私たちの力でも変えることができる。その一歩から始めませんか?と、呼びかけるような気持ちで書きました。
自分の気持ちをエッセイにつづったことで、これからの方向性が定まった。
- エッセイコンテストに応募したことで、変わったことはありますか?
-
良かったのは、将来の方向性が定まったことです。具体的に何をやるかは現在も考え中ですが、児童虐待を減らし、子どもが笑顔で暮らせる社会にしたい、という目的がはっきりしました。それまでは膨大な社会問題を前にして、自分に何ができるのか、どこからどう取り組めば良いのかと途方に暮れていました。でも、エッセイに気持ちをまとめ、自分自身を客観的に見ることができたおかげで、「子どもたちの笑顔を守れる社会をつくりたい!」という想いに気付くことができたんです。そのためには法律を学ぶことが必要だと考えて、進学先も法学部に決めました。
- エッセイを書く上で、苦労したことや工夫したことは何ですか?
-
ただ自分の想いを書き出すだけではなく、具体的な数字やデータを用いることを心がけました。理想論だけを語っても、読んでいる人の心には響きません。例えば、ニジェールでは多くの人が貧困で苦しんでいる、というよりも、「ニジェールの人間開発指数が世界最下位であること」や「一日1.25ドルで生活する国民が44%もいる」といった事実を伝える方が、抽象的な言葉よりもはるかに説得力があります。あとは特別なことはしていません。ただ家族や友人など、身近な人に伝わるようにと、想いを込めて書き上げました。
エッセイコンテストで自分の気持ちをまとめたことで、将来の方向性が定まったという鈴木さん。
次回は、高校時代に鈴木さんが取り組んできた活動について教えてもらいます!
<JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテストとは>
次の世代を担う中学生・高校生を対象に、開発途上国の現状や開発途上国と日本との関係について理解を深め、国際社会の中で日本、そして自分たち一人ひとりがどのように行動すべきかを考えることを目的としたエッセイコンテスト。毎年テーマに基づいたエッセイを募集、選考を経て優秀作品が選ばれる。
WEB https://www.jica.go.jp/hiroba/program/apply/essay/index.html