コラム 海外を目指す学生たちのリアル
仲里 きらりさん(なかざと・きらり)さん(高校生国際協力体験プログラム参加者)
第2回「夢をかなえるため、家族と離れて県外へ。『いつか途上国で生まれる命を助けたい』。」
「高校生国際協力体験プログラム」は、JICA中国が主催する高校生向けのプログラムです。「世界を知り、自分を見つめる2泊3日の異文化体験」をテーマに、世界の課題や現状に関する講義やワークショップなどを通して世界への理解を深め、自分たちに何ができるかを考えていきます。今回の連載では、2023年7月のプログラムに参加した3人の高校生へのインタビューを紹介します。第2回目は、萩光塩学院高等学校1年生、仲里 きらりさんです。小学生の頃に抱いた夢や体験プログラムに参加して感じた気持ちの変化、後輩たちへの応援メッセージなどを伺いました。
生命誕生の瞬間に携われる助産師にあこがれて
- 仲里さんは沖縄県出身。高校進学のために地元を離れ、今は山口県萩市の寮で暮らしているよ。家族が大好きで、三人きょうだいの一番上として弟たちの面倒もよく見ていたという仲里さん。一人で実家を離れるのは、不安じゃなかった?
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最初はやっぱり寂しかったですね。家族も寂しがっていましたし。でも自分の夢をかなえるために、どうしても「萩光塩学院に行きたい」と伝えて理解してもらいました。今は学校生活にも慣れてきて、休みの日は友だちと海に行ったり、大好きなカフェ巡りを楽しんだりする余裕も出てきました。
- どんなことをやりたくて、萩光塩学院に行きたいと思ったの?
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理由は2つあります。一つは卓球部の強豪校だったこと。父が卓球経験者だったので、私も小学生の頃からずっと卓球をやっていたんです。でも今までは練習量が十分とはいえなかったので、「高校生になったら練習を増やして、もっと強くなりたい」と思っていました。
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もう一つは、英語教育に力を入れていたことです。私はいつか海外で仕事をしたいと思っているので、ずっと本格的に英語を学びたいと考えていました。この学校は外国人の先生が多く、自然に英語でコミュニケーションを取りながら学べる環境が魅力的でした。
- 将来は海外を目指しているんだね。どんな仕事をしたいと思っているの?
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私の夢は、助産師になることです。少し年の離れた弟たちがいる影響もあって、もともと子どもが好きだったんですが、助産師という夢が決定的になったきっかけは、いとこの出産でした。出産後のいとこと赤ちゃんに会いに病院に行ったとき、命の誕生に携わる助産師さんの仕事を目の当たりにして、「かっこいい!私もこういう仕事がしたい」と、胸が高鳴りました。小学校3、4年生の頃だったと思います。
そして、助産師の仕事について調べていると、医療の行き届かない開発途上国で、たくさんの助産師が活躍していることを知りました。途上国や紛争地で生まれる赤ちゃんは死亡率が高く、1歳まで生きられる子が少ないとか、正しい性教育がされていないといった状況もテレビで目にして、いてもたってもいられない気持ちになって。「いつか一人前の助産師になったら、途上国の赤ちゃんとお母さんの命を守る活動がしたい」という、もう一つの夢も生まれました。
- なるほど。JICAの高校生協力体験プログラムに参加しようと思ったのも、そういう背景があったんだね!
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はい。学校で募集ポスターを見たときに「これだ!」と。実際に途上国に行って活躍しているJICAの人から直にお話を聞けるチャンスがあるかもしれないと思って、ぜひチャレンジしたいと思いました。
さまざまな学びを得た高校生国際協力体験プログラム
- 実際に、JICAの人から話を聞くことはできた?
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はい。自分から職員の方をつかまえて、気になっていたことをどんどん聞いちゃいました。どれくらいの語学力が必要になるかとか、どんなことに苦労したかとか…。私の質問に、職員さんは自身の協力隊時代の体験を話してくれました。たとえば、「現地に行く前に“派遣前訓練”を受けるから、現地の言語や異文化理解など必要最低限の知識やスキルは身に付けられる」とか「水が手に入りにくい派遣先で、水を汲むためだけに往復10キロの道を子どもたちと一緒に歩いたこともあったよ」とか…。今の私が思っている以上に体力面でも、精神面でも厳しい仕事なんだろうなと覚悟しました。でも、「大変なこともあるけれど、行って良かった。現地の人たちの笑顔を見られたり、”ありがとう”といってもらえたりする喜びは、何ものにも代えがたいよ」というお話も聞いて、「私も行ってみたい!」という気持ちは、ますます大きくなりました。
- 高校生協力体験プログラム中で、印象に残っていることはある?
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もし、自分たちが「ユース海外協力隊」として途上国に行くことになったら、どうやって地域の課題を解決するかを考えるプログラムが良かったですね。協力隊は2年間しか活動できない設定なので、引き上げたあとも現地の人たちだけで続けて、発展させていけるような事業にしなければいけない。それをグループのみんなと話し合っていく過程が、とても面白かったです。
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あとは、「異文化交流アクティビティ」も印象に残っています。広島大学に通っている留学生の方と一緒にゲームをしたのですが、日本語でのコミュニケーションがむずかしいので、言葉を使わずに伝え合わなくてはいけないんです。お互いに協力しながら、言語の壁を乗り越えてチャレンジするのが楽しかったですね。
自分の意見はしっかり伝えよう。自分の中に起きた変化
- プログラムに参加したことで、仲里さんの気持ちに変化はあった?
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私は、ずっと自分の考えを堂々と人に伝えることが苦手だったんです。相手を傷つけてしまったり、誤解させちゃったりしたらどうしよう…って考えると怖くなって。でもプログラムに参加したあとは、「自分の意見はしっかり伝えないとだめだ」と思うようになりました。というのも、グループで一つの目的に向かって活動するときは、個々の意見がすごく大切だということが分かったからです。だから考えすぎず、まずは自分の気持ちを素直に伝えよう、と思えるようになりました。今回、このインタビューを受けないかと依頼をいただいたときも、最初は「自信ないな…」と思ったんですけど、プログラムに参加したことは自分の中で大きな経験になったし、「勇気を出して受けてみよう」と前向きに考えることができました。
- そうなんだね、それは良かった!…高校を卒業したあとの進路は、もう考えているの?
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志望校はまだですが、看護系の大学に進学して看護師の資格を取って、その後に助産師の資格を目指したいと思っています。そして大学を卒業したら沖縄に戻って、助産師として経験を積み上げつつ、いつか途上国でその経験を活かせる道を探していきたいです。
- 仲里さんのその頑張りの原動力は、どこから来ているの?
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いつも私のことを応援してくれる家族に、いつか恩返しがしたい、という気持ちはあります。それと、私はすごく負けず嫌いなんです(笑)。あきらめたくない、というこだわりは強いと思います。卓球も、負けたときはすごく悔しくて落ち込むことも多いですが、次は負けないために何ができるかを考えて、いろいろ工夫したり、新しい技を練習したりしながら、できることが一つずつ増えていくのがうれしいですね。
- 今後、高校生国際協力体験プログラムに参加したいなと思っている後輩に向けて、応援メッセージをお願いします!
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国際協力の基本的な知識が身に付くことはもちろん、人間としても成長できるプログラムだと思います。私の場合は、怖がらずに自分の意見を言えるようになったし、多様性への理解を深めることもできました。貴重な体験がたくさんできると思うので、ぜひ参加してみてください。
仲里さん、ありがとうございました。国際協力体験プログラムに参加した高校生から話を聞くシリーズも、次回でいよいよ最終回。次はどんな高校生に出会えるのでしょうか。お楽しみに。
<プロフィール>
高校生国際協力体験プログラム
JICA中国が主催する、中国5県の高等学校に通学する現役高校生を対象とした2泊3日の体験プログラム。JICA中国に泊まりがけで、世界の課題や現状に関する講義やワークショップ、アクションプランの作成などを通して、国際協力や自分に何ができるかを考えます。
WEB https://www.jica.go.jp/Resource/chugoku/enterprise/kaihatsu/jittaiken/index.html