コラム 海外を目指す学生たちのリアル

細井 菜乃さん(ほそい・なの)さん(高校生国際協力体験プログラム参加者)

第1回「たくさんの人に会い、視野を広げて、いつかもう一度ブータンへ」

「高校生国際協力体験プログラム」は、JICA中国が主催する高校生向けのプログラムです。「世界を知り、自分を見つめる2泊3日の異文化体験」をテーマに、世界の課題や現状に関する講義やワークショップなどを通して世界への理解を深め、自分たちに何ができるかを考えていきます。今回の連載では、2023年7月のプログラムに参加した3人の高校生へのインタビューを紹介します。第1回目は、島根県立隠岐島前高等学校2年生、細井菜乃さんです。プログラムに参加しようと思ったきっかけや参加後の変化、将来の夢などについてお話を伺いました。

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まず、高校生国際協力体験プログラムを担当している、JICA中国 市民参加協力課 塗木陽平さんにお聞きします。プログラムの開催背景、概要を教えてください。

本プログラムは、中国5県の高校生を対象に、国際協力への理解を深めてもらうため、JICA中国にて1997年より実施しています。当時、中国地方におけるJICAの開発教育支援事業において高校生へのアプローチが弱かったこと、また「実体験を通じて国際協力を理解する」という狙いのもと、始まりました。近年は、JICA海外協力隊の活動を体験する「なりきり協力隊」というテーマで、2泊3日の対面合宿形式にて実施しています。2023年度は35名の高校生が参加しました。参加者は、とある国に「ユース海外協力隊」として派遣され、資料の読み込みや村人になりきったスタッフたちへのインタビュー調査を通して、地域の課題を洗い出し、課題解決のためのアクションプランを作成しました。

島根県にある海士町の魅力に惹かれ、高校から寮生活に

ここからはプログラムに参加された細井さんへのインタビュー。香川県で生まれ育った細井さんは、中学卒業後、島根県の隠岐島前高校(おきどうぜんこうこう)に進学し、寮生活を送っています。
なぜ実家を離れて県外の高校に進学しようと思ったの?

私の通う隠岐島前高校は、島根県の北にある離島、海士町(あまちょう)にあります。中学生のころ、母の友人から「海士町は面白い大人がいっぱいいて、挑戦できる環境が整っているんだよ」と聞き、興味を持ちました。そして、海士町には「島留学(*)」という制度があることも知ったので、チャレンジしてみようと。中学生の頃から、いつかは県外に行っていろいろ学びたいと思っていたんです。

(*)過疎や少子化の問題を抱える日本の離島で、全国から小・中学生や高校生を募集し、留学生として受け入れる制度。隠岐島前高校では寮費・食費や里帰り交通費などの補助が出る。

地域活動中の細井さん。
地域活動中の細井さん。
高校生国際協力体験プログラムのことは、どこで知ったの?

学校の掲示板に貼ってあったポスターで知ったんです。ちょうど、そのとき読んでいた本の影響で「国際協力ってなんだろう」と考えていたこともあって、飛びつきました。内容もすごく面白そうだったので、すぐに「行きたい!」と思って、学校の先生に相談もしないで自分で勝手に申し込んじゃいました(笑)

新しい視点をもらえた、高校生国際協力体験プログラム

広島県にあるJICA中国を会場に、2泊3日の日程で行われた高校生国際協力体験プログラム。どんな内容だった?

1日目は、JICA職員の方による講義があり、「国際協力とは何か」とか、「JICA海外協力隊は何をするか」など、基本的な知識を得ることができました。その後は、「異文化を理解する」をテーマにしたワークショップをやりました。陽気で明るい国「α国」と、必要なことしか話さない「β国」という2つの国に分かれてゲームをし、相手の国のルールや文化を知り、尊重することの大切さを学びました。

2日目と3日目にかけて行われたのは、「ユース版JICA海外協力隊」です。架空の村に、私たちが協力隊として派遣されることを想定し、課題解決に向けたアクションプラン(目標を達成するまでの行動計画)を作成します。5~6人のチームになって村の情報を集めて、村のためにできることを考えました。

高校生国際協力体験プログラムに参加中の細井さん。
高校生国際協力体験プログラムに参加中の細井さん。
面白そうだね!!プログラムに参加してみて、どうだった?

いろいろなことを考えさせられました。例えば、アクションプランは単に「課題を解決すればいい」というわけではなく、その国の文化を尊重し、寄り添えるプランじゃないといけない、ということが分かりました。そうしないと私たち支援者がいなくなったあとに、その国の人たちが継続してやっていけるものにはならないからです。

それと、JICA職員の方とお話ができる時間もあったので、ずっと聞きたかったことを質問してみました。私が国際協力に興味を持つきっかけになった本に、こんな描写が出てきたんです。「リベリアという国の市場で、日本から支援として送られた離乳食が横流しされ、商品として売られている」と。私はそれまで、寄付したものはすべて必要な人に届くものだと思っていたので、そういうこともあるんだと知って驚きました。その気持ちを、JICA職員の方に伝えたんです。「支援がきちんと届かず、無駄になることもあるかもしれないですよね」と。すると職員の方は、「私たちの支援が100%は届かないとしても、70%届くなら意味はある。そういう気持ちで支援を続けることが大事なんじゃないかな」と答えてくれました。それでハッとして、「私は一つの方向からしか物事を見ていなかったんだ」と気づかされました。

プログラムに参加した後、細井さんの気持ちに変化はあった?

今までは、ただ「海外に行きたい」とか「とりあえず支援だ」としか考えていませんでしたが、その前に私はもっと勉強をして、いろいろなことを知らなければならないと改めて感じました。世界で起こっていることや社会の仕組み、英語の勉強…あとは、とにかくいろいろな人に会いたいですね。人と会って話をして、自分とは違った価値観を知って、視野を広げていきたいです。

今後、変わっていくかも知れないけど、今の時点で将来やりたいことはある?

具体的な進路はまだ決めていませんが、日本の中に留まらず、海外に行って何かをやりたい、という気持ちを持っています。それと大きな夢が一つあります。「いつか、またブータンに行きたい」ということです。
1年生のとき、学校の「グローバル探求」というプログラムで、ブータンに行かせてもらう機会があったのですが、とにかく人が温かくて優しい国で、すっかり魅了されてしまいました。実は「協力隊としてブータンに行くのも一つの方法だ」と思ったことも、高校生国際協力体験プログラムに参加したいと思った理由の一つでした。

ブータンのことを、もっと知りたい

なぜブータンに行こうと思ったの?

最初は、「海外に行ってみたい」という単純な興味でした。それと、ある本で「ブータンは世界一幸せな国」と紹介されていたので、この目で確かめてみたいという気持ちもありました。実際に行ってみると、ブータンの人はみなさん思いやりにあふれていて、優しい人ばかり。交流先のブータンの高校に到着したときは、校内から生徒さんが飛び出して迎えてくれたんです。大歓迎を受けながら、なんて温かい国なんだろうと感激したことを覚えています。

ブータンでの活動の様子。
ブータンでの活動の様子。
ブータンで、印象に残っていることはある?

滞在最後の日に、観光ガイドさんから、この国が抱えている問題について話を聞きました。実は今、ブータンを出てオーストラリアへ移住する国民が増えているそうです。その理由は、国内に仕事が無いから。生活のため、家族を養うために、仕事を求めてこの国を出ていくと。だから、ブータンからはどんどん若い人がいなくなっていると聞いて…すごく悲しかったですね。

もう一度ブータンに行けたら、どんなことがしたい?

たった6日間の滞在だったので、まだブータンのことを分かったとはいえません。だから、もっと深く知るために行きたいというのが一つ。もう一つは、さっきの人口流出のように、ブータンが抱える問題を解決するヒントを見つけたいですね。私がいろいろなことを考えるきっかけになったブータンに、恩返しができたらいいなという気持ちがあります。

自分から行動しなければ、チャンスはめぐってこない

高校生国際協力体験プログラムに参加してみたいと思っている人に、アドバイスはある?

今回参加してみて、すごく本格的なプログラムだったことに驚きました。ユース版JICA海外協力隊では、架空の国なのに、面積や人口、気候や主要産業などの概要も細かく決まっていて、本気で取り組むことができました。すごく手ごたえを感じられたので、参加して本当に良かったと思っています。
私は最近、「自分から行かなければ、チャンスはめぐってこない」と思っていて、自分からどんどん行動することを意識しています。そのおかげでいろいろ貴重な経験をすることができています。もし少しでも挑戦したいと思うことがあったら、躊躇せずチャレンジすることをおすすめします。

細井さん、ありがとうございました。
次回も、高校生国際協力体験プログラムに参加した高校生のルーキーズに、お話を聞くよ。

※本記事の取材は、2023年8月にオンラインにて実施しています。

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<プロフィール>

高校生国際協力体験プログラム

JICA中国が主催する、中国5県の高等学校に通学する現役高校生を対象とした2泊3日の体験プログラム。JICA中国に泊まりがけで、世界の課題や現状に関する講義やワークショップ、アクションプランの作成などを通して、国際協力や自分に何ができるかを考えます。

WEB https://www.jica.go.jp/Resource/chugoku/enterprise/kaihatsu/jittaiken/index.html