コラム 海外を目指す学生たちのリアル
鈴木華子(すずき・はなこ)さん(JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト受賞者)
中学生・高校生が“育児をしっかり学べる場所”をつくりたい。
「JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」は、開発途上国の現状や、開発途上国と日本との関係について理解を深め、国際社会の中でどう行動していくべきかを考えるために行われています。今回ご紹介するのは、JICAエッセイコンテストにおいて2016年度中学生の部で佳作、2017年度中学生の部で国際協力特別賞、2019年度高校生の部で外務大臣賞を受賞した鈴木華子(すずき・はなこ)さん。エッセイでは、子ども食堂でのボランティアを通して、身近なところから始める支援の大切さが題材になっています。連載第2回は、児童虐待問題の解決を目指す鈴木さんに、高校生の頃に立ち上げた学生団体「リトルオレンジ」での活動内容と、これからの目標を聞きました。
高校生のときに立ち上げた学生団体「リトルオレンジ」での活動。
- 学生団体立ち上げのきっかけを教えてください。
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高校生の頃、児童虐待の悲しいニュースを目にするようになり、「この状況を変えなければ」という焦りを感じ始めました。でも、「普通の高校生の私にできることはあるのか」、「一体、何から始めればいいのか」という戸惑いも感じていました。だからこそ、「同じような想いで立ち止まっている同年代の仲間もたくさんいるはずだ」と思ったんです。そんな中高生が集まって、みんなで虐待について考えることができたらいいな――。そうした想いから、「リトルオレンジ」を立ち上げることにしました。
- 「リトルオレンジ」では、どのような活動をしていたのですか?
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虐待を防ぐ方法について話しあったり、虐待問題に取り組むNPO法人のインターン情報を共有したりしていました。また2020年8月には、虐待問題を専門とするジャーナリストやNPOの方を招き、「専門家と中高生が虐待防止を考えるシンポジウム」をオンラインで開催しました。「虐待はどの組織がどのように防止するのがいいか」、「虐待に対して中高生が取れる行動は何か」、「虐待のフラッシュバックを家庭で起こさないための防止方法は何か」などを議題に、専門家の意見を伺ったり、参加者がグループに分かれてディスカッションをしたりしました。
- 参加者の反応はどうでしたか?
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議論がいちばん集中したのは、「実際に自分たちが虐待を見聞きしたとき、どうすればいいか」ということでした。また、「将来自分が保護者になったとき、本当に子育てができるだろうか…?」という不安の声が上がっていたのも印象的でした。
「虐待」というと、「自分とは関係ない遠いところの話」と思う人も多いかもしれませんが、実はとても身近にある問題です。また、自分が虐待を受けているのに気づいていないケースもあります。だからこそ、虐待問題を「自分ごと」にしてもらうことが必要だと考えて、このシンポジウムを企画しました。
- 今も活動は続いていますか?
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リトルオレンジの活動は休止しましたが、そこでの貴重な経験や、知り合った仲間とのつながりは現在も生きています。仲間たちとは折に触れて、「今どんな活動しているの?」とか、「こんなことをやっているけど興味ある?」といった話をしています。しかしコロナ禍のため、対面でのボランティアがなかなかできない状況が続いています。オンラインでもできることはありますが、私は対面で活動したいという気持ちが強いので、今はそのための方法を探っているところですね。
子どもを育てる保護者をサポートすることが、虐待の防止につながる。
- 鈴木さんは、なぜ虐待が起こると考えていますか?
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生まれたばかりの乳児の虐待死と、子育てをしている中で起こる虐待は、分けて考える必要があると思っています。乳児が虐待で命を落とす原因の80%は、望まない妊娠による結果だと言われています。若すぎて、「産んでも育てられない」と思ってしまったり、妊娠していることを誰にも相談できなかったりすることで、追い詰められてしまうんです。
一方で、子育てをしている中で虐待が起こる背景の多くには、一人で育児を抱え込まざるを得ない環境があります。私はこの活動を始めてから、子育て中の人や、過去に子育てを経験してきた人に、たくさんインタビューをしました。私の母にも話を聞きました。そこで感じたことは「孤独」です。「閉ざされた空間で子どもと二人だけ。誰にも相談できないことが辛かった」とか、「今までの自分ではなくなってしまったようだ」という不安や悩みを吐き出す人が多かったんです。そのため、若いうちに子育ての知識を身に付けておくことや、いつでも悩みを相談できる場所をつくることが大切なのではないかと考えるようになりました。
- 虐待を防ぐために、鈴木さんはこれからどのような活動をしていきますか?
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中学生、高校生を対象に、育児をしっかり学べる場をつくりたいと思っています。知識が身につけば、子育てをすることへの自信になりますし、問題が起きたときにも冷静に対処できることが増えるはずです。
私自身、育児については座学で少し学んだくらいで、しっかり教えてもらった記憶はありません。だから、もし私が今妊娠したとしても、「とても育てられない」と、不安でいっぱいになるでしょう。そういう状況を変えたいんです。しかし高校を卒業してしまうと、進学や就職で忙しくなって、なかなか「育児について学んでおこう」という気持ちにはなれないと思います。だからこそ、中学生や高校生のうちに学ぶことが大切なんです。地域とのつながりも深い時期ですから、コミュニティセンターなどを利用して、学校以外の開かれた場所で、育児を学べる機会を提供する。それが私の目標です。また、子育て支援制度に関しては、フィンランドの取り組みが素晴らしいので、お手本にしたいと思っています。
子育て支援「ネウボラ」により、虐待死が激減したフィンランド。
- フィンランドではどのような取り組みがおこなわれているのでしょうか?
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フィンランドには「ネウボラ」という子育て支援の制度があります。妊娠中からその子どもが就学するまで、専任の保健師さんが、保護者を継続してサポートしてくれるんです。担当が途中で変わることはなく、同じ保健師さんがずっと育児に伴走してくれて、すぐに相談に乗ってくれます。実際、ネウボラがスタートしてからフィンランドでは児童虐待死が激減したそうです。日本でも、いつかこうした子育て環境を整えることができたらいいなと思います。
- 鈴木さんは、とても活動的ですね!辛かったことや、大変だったことはありませんか?
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たくさんあります。虐待問題を調べていると、目を覆いたくなるような事件も出てきますし、人の役に立ちたいという想いが強い分、共感しすぎて辛くなってしまうことも…。でも、そんなときは無理に気持ちを立て直そうとはしません。時間が経って落ち着くのを待ったり、気持ちをノートに書き出したりすることで、楽になることが多いです。悩んだとき、迷ったときは自分を客観的に見つめ直すことが大事なのかなと思っています。
気持ちが沈んでしまうこともあるけれど、子どもたちの笑顔を守るためにひたむきに走り続ける鈴木さん。高校卒業後も、引き続き虐待問題に取り組むために、現在は大学で法律を学んでいます。鈴木さんが法学部に進路を決めた理由は、次回くわしく教えてもらいます!
<JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテストとは>
次の世代を担う中学生・高校生を対象に、開発途上国の現状や開発途上国と日本との関係について理解を深め、国際社会の中で日本、そして自分たち一人ひとりがどのように行動すべきかを考えることを目的としたエッセイコンテスト。毎年テーマに基づいたエッセイを募集、選考を経て優秀作品が選ばれる。
WEB https://www.jica.go.jp/hiroba/program/apply/essay/index.html