コラム 海外を目指す学生たちのリアル

鈴木華子(すずき・はなこ)さん(JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト受賞者)

法律を学んで、自らの力に。誰もが過ごしやすい社会を目指して。

「JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」は、開発途上国の現状や、開発途上国と日本との関係について理解を深め、国際社会の中でどう行動していくべきかを考えるために行われています。今回ご紹介するのは、JICAエッセイコンテストにおいて2016年度中学生の部で佳作、2017年度中学生の部で国際協力特別賞、2019年度高校生の部で外務大臣賞を受賞した鈴木華子(すずき・はなこ)さん。将来は児童虐待問題の解消に取り組みたいという夢を持ち、大学で法律を学んでいます。連載最終回は、鈴木さんが法学を学ぶことに決めたきっかけや目指している将来像をインタビュー。エッセイコンテストの応募を検討している人へ、アドバイスもいただきました!

法律は、集団から個人を守る最後の砦。

現在、大学で法律を学んでいる鈴木さん。進路はどうやって決めたのですか?

「日本には法律というルールがあるのに、なぜ虐待が起きてしまうんだろう…」と疑問に思って、いろいろ調べていた時期がありました。その中で知ったのが、民法の第820条と第822条の存在です。この条文では、懲戒権(ちょうかいけん)という、親から子どもへ監理や教育の観点で指導を行うことができる権利が認められていて、虐待の正当化につながりかねない解釈をされる可能性があることから、見直しが議論されています。(※2021年10月現在)

日本は明治に入ってから、海外の法を参考に法律を整備しましたが、懲戒権もそのときに制定されました。ところが、海外ではもう何年も前になくなっている法律で、残っているのは日本と韓国だけ。その韓国も、削除が決まっています。日本でも条文の改正に向けて動いてはいますが、なかなかスムーズにいかない現状も…。この法律を盾に、自身の行為を弁明する人もいると聞き、「児童虐待と法律は密接に関わっているんだ」と思いました。そのことから、法学の重要性を感じるようになったんです。

もう一つ、私が法学部への進学を決めた大きなきっかけがあります。それは、中学3年生のときに受けた法律の授業です。大学の法学部の先生が学校に来てくれて、授業をしてくれたのですが、それがとても面白く、深く考えさせられるものだったんです。

法学部への進学を決めた中学3年生のころ、ニュージーランド留学も経験
どのような内容の授業だったのですか?

法律というのは単なるルールや規範ではなく、『集団から個人を守るための最後の砦なんだよ』ということを学びました。その言葉がずっと頭の中に残っていて、虐待問題と重なったんです。虐待が生まれてしまう社会の構造の中で、たった一人で苦しんでいる子どもを最後に守れるのは法律なんだ、と思うようになりました。

今はどんな大学生活を送っているんですか?

大学1年生の前半は、児童虐待の解消に向けた活動に力を入れていました。具体的には、若者の声を政治に反映させることを目指す『日本若者協議会』の代表として、若者の政治参加、教育・子育て、ジェンダーの3つのテーマについて政策をつくり、東京都議会議選の候補者へ提言をしに行くなどの活動です。そのこともあって、入学してしばらくはバタバタしていたので、後半は授業に注力して、サークルやアルバイトなども始めたいな、と思っています。

目指すのは、子どもを取り巻く家族みんなが過ごしやすい社会。

将来は、どのような方向に進もうと思っていますか?

具体的にはまだ決めていませんが、これから法律をしっかりと学び、自分の力にして、児童虐待を中心とした社会問題の解決に取り組んでいきたいです。その一歩として、司法試験も目指します。あと、私は子どもの頃から文章を書いたり、それを発表したり、何かをつくることが好きなので、自分の目指していることと組み合わせて、何かできないかな、とも考えています。

虐待問題について考えていくうちに、「虐待をなくすには、子どもだけじゃなく、家族の誰もが過ごしやすい社会を構築していくことが必要だ」と思うようになりました。そのためには、仕組みづくりや法整備などの大きな取り組みも必要ですが、子ども食堂で学んだように、まずは身近なところから一歩ずつ、がとても大事だと考えています。だからこそ私も、まずは自分の身近な人たちを幸せにできる人間になりたい。それができてこそ、もっとたくさんの人を幸せにできるようになれると思うんです。

私は中学や高校時代に、子ども食堂でのボランティア、模擬国連部での活動、エッセイコンテストへの応募を経験したことで、国内だけでなく海外へのグローバルな視点を持つことができるようになりました。フィンランドの子育て支援制度(連載第二回に掲載)に関心を持つようになったのも、模擬国連部の活動で「児童労働問題」のテーマが心に残ったことがきっかけです。児童にまつわる課題は、国内だけでなく海外でも社会問題となっているので、今の私ができることとして大学で法律を学び、まずは日本社会から変えていきたいと思っています。

模擬国連部の集合写真

将来に向けての目標は、もう一つあります。それは、書いたり、話したりすることで、自分の意見を堂々と表明できる人であり続けたいということ。もし誰かと意見が食い違うことがあっても、空気を読んで発言を止めたりせずに、相手の気持ちを尊重しながら、きちんとコミュニケーションを取って話し合える人でいたいと思っています。

自分の考えを言葉にすることを恐れないで。

鈴木さんは、中学の頃からエッセイコンテストに何度も応募していますね

はい。私がエッセイコンテストに毎年応募していた理由は、「そのときの自分の考えを記録しておきたい」と考えていたからです。JICAから与えられたテーマについてとことん考えて、その気持ちを文章に残す。それを後で見返すと、「あの頃の自分はこういう風に思っていたんだ」、と思う。そうやって振り返ることで、今の自分をより深く理解することができました。必ずしも入賞することが目的ではありませんでしたが、多くの人に読んでもらえて、自分の気持ちを伝えることができたのは、うれしいですね。

エッセイコンテストに応募した学生同士のコミュニティはあるんですか?

JICAのエッセイコンテストには、上位受賞者を対象にした海外研修があります。そのメンバーでのSNSグループがあって、お互いにどんな活動をしているか報告し合ったり、先輩が後輩の相談に乗ったりするなど、交流を持っています。2020年と2021年の海外研修は、新型コロナウイルスの流行で延期になってしまいましたが、情報交換ができるつながりができたのは良かったです。

これからエッセイコンテストに応募しようと思っている人へ、アドバイスをお願いします!

伝えたいことがあるなら、迷わずに応募してみましょう!最初は、「誰に、何を伝えたいのか」を明確にするのが良いと思います。いきなり文章にすることにハードルを感じるなら、図式化してみるのも良いかもしれません。どういう構成にすれば一番伝わりやすいかを図にして、そこに具体的な数字を入れこみ、それから文章を組み立てていけば書きやすいのではないでしょうか。そして「読んでいる人の心をどうつかむか」を意識することも大切です。私の場合は、小説のような雰囲気で読めることを意識していました。自分の考えを言葉にすることを恐れずに、ぜひチャレンジしてみてください。

※本記事の取材は、2021年10月にオンラインにて実施しています。

<JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテストとは>

次の世代を担う中学生・高校生を対象に、開発途上国の現状や開発途上国と日本との関係について理解を深め、国際社会の中で日本、そして自分たち一人ひとりがどのように行動すべきかを考えることを目的としたエッセイコンテスト。毎年テーマに基づいたエッセイを募集、選考を経て優秀作品が選ばれる。

WEB https://www.jica.go.jp/hiroba/program/apply/essay/index.html