コラム 海外を目指す学生たちのリアル
若山 空也(わかやま・くうや)さん(JICAインターンシップ・プログラム参加者)
10代で海外を選べなかった“悔しさ“が挑戦への原動力。
「JICAインターンシップ・プログラム」では、国際協力に関心のある学生(大学生・大学院生)および社会人に、JICA各部署および開発コンサルティング企業におけるインターンシップの機会を提供しています。今回ご紹介するのは、2021年度JICAインターンシップ・プログラムに参加した若山空也(わかやま・くうや)さん。現在、金沢大学医学部に在籍している若山さんには、いずれ医師として国際協力の分野で活動したいという夢があります。しかし、大学生になるまでは、国際協力やJICAについてほとんど意識していなかったそう。連載第2回では、若山さんが国際協力に興味を持つきっかけとなった大学の国際ボランティアサークルでの活動や、ターニングポイントになったイギリス留学でのエピソードについてお話を聞きました。
*インターンシップとは、就業体験を通じて、企業や仕事への理解を深める制度のこと。
国際協力の入り口は、「とにかく海外へ行きたい!」という気持ち。
- 若山さんは、大学に入ってから国際協力の世界に興味を持ったのですか?
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はい。入学後は、国際ボランティアサークルの門を叩きました。といっても、そのときは「とにかく海外へ行きたい!」という気持ちがメインで、国際協力やボランティアへの興味は、ほぼありませんでした。正直、日本を出られるチャンスがあるなら、どんなサークルでも良かったんです(笑)。結果的にこのときの選択が、私の今後の方向性を決定づけることになりました。
- 国際ボランティアサークルでは、どんな活動をしていたのですか?
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サークルの最初の活動は、インドでのボランティアでした。1年生の夏にインドへ渡航し、現地のNPOやNGOの支援活動に参加したり、JICAのインド事務所を見学させてもらったりしました。その頃はまだ大学に入ったばかりで、医学の知識はほとんどありませんでしたが、スラム街や農村にある病院を訪ねて、ドクターに話を聞きながら、診療の様子も見学させてもらいました。

- 活動を通して、どんなことを感じましたか?
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初めてインドに降り立ったときには、「こんなに日本と違うんだ!」と圧倒されました。雑多な風景や人の行き交うカオスな雰囲気が魅力的で、感激したのを覚えています。好奇心を刺激される一方で、農村の医療の現状には、大きなショックを受けました。村に一つしかない病院に人があふれかえり、患者さんは地べたに座って順番を待っています。日本の病院では見たことがないような病気やケガで苦しんでいる人がたくさんいるのに、十分なケアが行き届いていない状況。インターネットやテレビで得た情報で、途上国の医療についてのイメージは持っていたものの、実際に自分の目で見て感じるのとでは、衝撃の大きさが違いました。
日本にはとても多くの病院があるので、すぐ医療にアクセスできますよね。どの病院も衛生的できれいですし、医療保険制度も整備されています。それはとても恵まれた環境であり、世界のスタンダードではないのだと、改めて感じました。
- ほかにボランティアで行った国はありますか?
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はい。大学3年生のときの活動では、フィリピンへ行きました。そのときは大学での勉強も進んでいて、日本の医療保険制度やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(※)についても学んでいたので、右も左も分からなかったインドのときよりは、もう少し深くいろいろな活動に関われたと思います。
また、フィリピンではボランティア活動に加えて、JICAフィリピン事務所や世界保健機関(WHO)のオフィスを訪問する機会もありました。日本人スタッフの方に施設を案内していただきながら、フィリピンでの活動内容を詳しく聞かせてもらうという貴重な経験をしました。農村の医療現場と、その保健システムをつくっている国際機関のそれぞれの実情を知ることができたことは、私を国際協力という道へさらに近づけるきっかけになったと思います。
(※) UHCとは、「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を指します。

ターニングポイントは、イギリスでの同世代の学生との出会い。
- 若山さんは、大学の授業でイギリスにも留学されたのですね。
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そうですね。1年生の終わりに授業の一環でイギリスの大学に1か月間留学しました。そこでは、医学にまつわる英語を学びながら、簡単なファーストエイド(応急処置)のレクチャーなども受けました。ここで私は、人生のターニングポイントとなる経験をしました。
それは、現地で学ぶ日本人の学生たちとの出会いです。彼らと一緒に食事をしたり、話をしたりする機会があったのですが、流ちょうな英語で、現地の人たちと楽しそうにコミュニケーションをとっている彼らの姿を眺めながら、自分がとても狭い世界にいることを思い知らされました。私は短期留学ですが、彼らは現地に住みながら大学に通う学生です。つまり、10代のうちにイギリスの大学を受験すると決め、たった一人で日本を出るという選択をしたわけです。ものすごい覚悟が必要だったと思いますし、言葉の壁などの悩みもあったと思います。
連載1回目で海外の大学への進学も少し考えていたとお話ししましたが、高校時代の私には海外に渡る勇気はありませんでした。だからこそ、私にはできなかった決断をして困難を乗り越えてきたであろう同年代の彼らを見ていると、すごく悔しかった。そして、「自分も負けていられない。頑張ろう!」という想いが湧き上がってきました。この悔しさは、今でも私が新しいことに挑戦するときの原動力になっています。
医療の知識や技術を、世界の人のために活かしたい。
- 大学でのサークル活動や留学経験が、国際協力の道を目指すきっかけになったのですね。
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そうですね。サークルに入るまでは、国際協力という世界があることも知らなかったのですが、途上国の現状を目にして、強い「違和感」を感じるようになりました。日本にいる私も、インドやフィリピンにいる人も、同じ世界に住む人間なのに、受けられる医療サービスには大きな差がある。この「違和感」を、このままにはしておけないと思ったんです。
そして、自分にできることを模索していると、世界の健康課題に取り組む「保健医療」という支援があることを知りました。するとパズルのピースがはまるように、私の目指すべき道が見えたんです。「そうだ、国際協力というフィールドで、医療の知識と技術を活かしてみよう。そうすれば、日本だけでなく世界中の人に貢献することができる」と。大きな挑戦になりますが、イギリスで味わった「悔しさ」が私の背中を押してくれました。

- 「JICAインターンシップ・プログラム」に応募しようと思ったのはなぜですか?
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保健医療や国際協力について調べているうちに、JICAでインターンを募集していることを知り、ぜひ挑戦したいと思いました。JICAは日本のODAを一元的に担っている組織ですし、インドでもフィリピンでも、JICAの方にはすごくお世話になりました。そのため、今度はJICAの内側から、いろいろな経験をしてみたいと考えたんです。そして、「人事部 開発協力人材室」への配属が決定しました。これが自分にとってのもう一つのターニングポイントになりました。
「医療×国際協力」という道を見つけた若山さんは、JICAの「人事部 開発協力人材室」で、貴重な経験をすることになります。次回は、インターン経験で気づいた大切なこと、今のルーキーズ世代に伝えたいことを教えてもらいます!
<JICAが提供する、中高生向けの国際協力関連情報の紹介>
JICAでは、国際協力についての理解を深め、参加型で学ぶことのできるイベントやマンガで知る現地の活動紹介など、中高生でも取り組みやすく、国際協力を考えるきっかけとなるコンテンツを定期的に更新しています。ぜひ、チェックしてみてください。
・JICA地球ひろば:
https://www.jica.go.jp/hiroba/index.html
・JICA発行のマンガ一覧:
https://www.jica.go.jp/publication/manga/index.html
~大学生になったら、JICAインターンシップ・プログラムにも参加してみませんか?~
・JICAインターンシップ・プログラム:
https://www.jica.go.jp/recruit/intern/index.html
参加者の体験談は「関連資料」に紹介していますので、こちらもぜひ読んでみてください。