コラム 地球規模で生きる人

伊達 文香(だて・ふみか)さん(株式会社イトバナシ 代表兼デザイナー)

「あらゆる境界線を越えて、つながれる世界へ。」

学生時代に出会ったインド刺繍に魅せられて、ファッションブランド「itobanashi(イトバナシ)」を立ち上げた伊達文香さん。インドの伝統的な刺繍文化を守るために、24歳で起業しました。最初は手売りからのスタートでしたが、今では奈良と広島に直営店を構え、全国から「itobanashi」の服を愛するお客さんが訪れるようになっています。連載最終回は、伊達さんが今感じている仕事のやりがいや、これからの目標、ルーキーズ世代に伝えたいメッセージなどを聞きました。

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起業時に目指していたスローガンに少しずつ近づいている。

伊達さんがやりがいを感じるのはどんなとき?

やりがいは常に感じているよ。ずっと好きだった服に携わる仕事ができて、私たちの服を気に入って買ってくださるお客さまがいて、その売上をインドの人たちに還元できている。時間はかかったけど、そういう循環をつくってこられたことがうれしい。仕事をしているという感覚はあまりなくて、毎日が楽しいよ。

第2回の連載でも話したように、イトバナシは新型コロナウイルスの流行をきっかけに、古民家をリノベーションしたお店を構えることになった。営業は月3日だけのマイペースなお店だけど、遠方からもお客さまが足を運んでくださるようになって、売上を伸ばすこともできた。無理のないやり方でもきちんと成長できていることに、喜びを感じているよ。

現地での制作の様子。
現地での制作の様子。

もう一つすごくうれしいのは、私たちの想いに共感して参加してくれるスタッフやお客さまが増えていること。インド刺繍の存在を知らなくても、私たちがその素晴らしさを伝えることで、興味を持ったり、ファンになってくださる方が多いんだ。特別なことをしなくても、心を込めて価値を伝えていけば、想いは届くんだ。最近そう感じることが増えてきて、本当に良かったと思っているよ。一番のやりがいは、それかもしれないね。

糸の色を相談しながら制作している様子。
糸の色を相談しながら制作している様子。
伊達さんの「好き」が、いろいろな人に広がりはじめたんだね。

そうだね。起業をするときに決めた「つくる人とつかう人の暮らしを豊かに」というスローガンに最近少しずつだけど近づいている気がしているよ。このスローガンは会社を立ち上げる前に、「ビジネスの軸になるコンセプトを言葉にしておくことが大事だよ」と起業塾の人からアドバイスされて決めた言葉なんだ。でも、やっぱり最初の頃はぜんぜん中身が伴わなくてね。「暮らしを豊かにできているなんて言えないよね……」って、ずっと心苦しかったんだ。そのスローガンを、だんだん胸を張って掲げることができるようになってきて、すごくうれしいよ。

古民家再生&フェアトレードチョコ、新しい挑戦。

伊達さんの、これからの目標を教えて!

今後は、「地域の垣根を越えること」に挑戦しようとしているよ。これまで私たちは、刺繍という架け橋によってインドのコルカタ、ラクノウ、カシミールという3つの地域とつながることができた。また、2つの店舗を構えたことによって、全国各地から、広島や奈良のお店に足を運んでくれる人も増えている。私たちの活動から、国や地域を越えた新しいつながりや、人の移動が起きているんだ。これは、とても素敵なことだよね。こういう出会いを、これからもっと増やしていきたいと考えているよ。

その第一歩として2022年、奈良県五條市の新町通りに、チョコレート専門店chcobanashi(チョコバナシ)をオープンしたんだ。ここも、古民家を改造したお店で、もともとは100年続いたお餅屋さんだった建物。その中でカカオ豆の焙煎からチョコレートを手づくりして販売しているんだ。カカオ豆は、インドやベトナムの農家さんから直接仕入れたり、児童労働の撲滅やフェアトレードなどに取り組むNGOやNPOからも仕入れているよ。地方の魅力的な古民家をよりよく使いながら、自分たちが納得できる工程でつくられたチョコレートを広めていくことを目指しているよ。

写真左:chcobanashiのチョコレート。 写真右:chcobanashi外観。
chcobanashiのチョコレート。 chcobanashi外観。

これからも、人や土地が垣根を越えてもっと自由につながっていけたらいいなって思う。歴史ある街並みやすばらしい伝統技術、おいしい食べ物など、「いいな」「好きだな」と感じたものは、どこかで区切られることなく、体験したり、利用したり、味わったりできる。そういうことが当たり前になる世界を、何十年か後にでも、実現できたら面白いね。

とても素敵な目標だね!伊達さん自身は、これからのキャリアをどう考えているの?

私自身は、これから年齢を重ねても、「ずっとチャレンジを続けられる人でいたい」と思っているよ。この仕事をはじめてから5年がたって、自分の中でだんだん慣れてきて、「こういう風に進めれば、大丈夫かな」っていう、仕事のやり方が少しずつ見えてきてしまっているんだよね。悪いことではないと思うけど、そこに安心したり、とらわれすぎたりせずに、いろいろなことに挑戦していきたい。
チョコレート専門店を始めたことで、今までまったく知らなかった分野にも興味が出てきたんだ。基本は、衣・食・住や暮らしを豊かにできることで、新しいお店づくりやものづくりに取り組んでいけたらいいな。

インドを訪れたとき。
インドを訪れたとき。

「こうなったらいいな」という状態に向かって、一歩ずつ。

伊達さんの、新しいことに挑戦しようとする原動力は、どこから来ているの?

私の原動力は、大きな課題を解決したいとか、これだけはやり遂げたい、といったような強い気持ちではなくて、どちらかというと「今あるものをより良くしたい」という感覚が近いかもしれない。たとえば、「インド刺繍の職人さんたちに仕事をずっと続けてもらいたいな」とか「素晴らしい技術が、正当な価格でやり取りされてほしい」とか。「そのために私にできることがあるならやりたい」という気持ちで、活動を続けてきたんだ。

一つのことを長く続けたいと思ったときは、まず目の前にあることから、少しずつより良い状態にしていくことが大事だと思う。先のことを考えすぎず、焦らず、常によりよい状態を想像しながら、一歩ずつ進んでいく。それを続けることができれば、少しの困難では揺らがないし、モチベーションの高い状態を保っていられると思う。これまでもそうだったし、これからもそうやって歩んでいきたいと思っているよ。

※本記事の取材は、2022年10月にオンラインにて実施しています。

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伊達さんが伝えたいメッセージ

「今、好きだと思えることがあるなら、それをずっと大切にしてほしい」

今、好きなことがあるならどんなことでもその気持ちをずっと大事に持っていてほしい。私は昔から服が好きだったけど、将来の仕事につながるなんて夢にも考えていなかった。一見すると進路や将来の夢に役立つとは思えないことでも、強みや武器になる可能性は十分にあるよ。
また、ルーキーズ世代の中には、「やりたいことが何もない」「どうやって将来の夢を見つけたらいいんだろう……」と悩んでいる人も多いと思う。でも、焦ることはないよ。今は、自分の好きなことや暮らしの中で気になったことを大切に持っておくといい。それが、5年先、10年先のあなたをきっと支えてくれるから。

プロフィール

伊達 文香(だて・ふみか)さん(株式会社イトバナシ 代表兼デザイナー)

奈良県五條市出身、31歳。広島大学に進学後、インドに複数回渡り、女性の人身売買被害などの現状を知る。大学院進学後にトビタテ!留学JAPAN2期生として、インドで現地NGOとファッションショーを共催し、女性活躍の場の創造を目指す。インド刺繍に惚れ込み、途上国の刺繍を扱うブランド、itobanashiを起業。ビジネスコンテストでの優勝などを経て法人化後、株式会社イトバナシとして奈良、広島で月に3日オープンする「ししゅうと暮らしのお店」を運営する。2022年からはカカオ豆から作るチョコレート専門店chocobanashiも始動、文化学園大学特別講師も務める。とにかくやってみるがモットー。

WEB https://itobanashi.com/