【地方創生×国際協力】地方から世界へ、世界から地方へ。
いま国際協力に求められる、新しい視点とは?
「国際協力が、日本の地域活性化や地方創生につながる?」そう聞くと、意外に思われる方も多いかもしれません。
実は、途上国と日本の地域は、気候変動や人口減少、高齢化など、たくさんの共通する課題を抱えているのです。
途上国と日本の地域がつながることで、それぞれの現場で培われた知見や経験は、互いの課題解決に生かされます。
そうした挑戦は、新たな国際協力キャリアを切り拓くだけでなく、日本の地方の未来を動かす原動力にもなり得るのです。
今回お話を伺ったのは、JICA多文化共生・国内連携アドバイザーの尾﨑嘉洋さん。
国際協力と地方創生、その両方の最前線を約30年にわたって行き来してきたエキスパートです。
Vol.1では、そんな尾﨑さんと一緒に、日本の地方と世界が「対等に学び合い、共に新しい価値を創発する」とはどういうことか、そして地方から世界へ、世界から地方へ広がるキャリアの可能性を探っていきます!
キャリアの軸は「世界と地域を循環させ、共に新しい価値を創発すること」
――尾﨑さんはこれまで、国内外の現場を行き来されてきましたよね。多様な現場を渡り歩くなかで大切にされてきた想いや、ご自身のキャリアの軸について教えていただけますか?
尾﨑さん:
私は1997年から30年近くの間、海外での国際協力と国内での地方創生という、一見異なる二つの最前線を行き来してきました。
私のキャリアは決して計算されたものではなく、目の前の現場で出会った人々や仲間たちと本気で向き合い、育んできたご縁の連続から生まれたものです。
ただ、その根底にはいつも、19歳の時に心に決めた「地球を次の世代へいいカタチでつないでいきたい!」という、一貫した夢がありましたね。
――その夢が、今もずっと尾﨑さんを突き動かしているのですね。
尾﨑さん:
はい。20代のタイ南部NGOでの経験、30代の福島県昭和村や北海道での地域づくり、そしてJICA専門家としての活動や釧路での挑戦…。
これらはすべて、グローバルとローカルを何度も往復し、つなぎ、循環(環流)させていくプロセスそのものだったと感じています。

アジア欧州財団トレーナー養成研修でのファシリテーションの様子(2007年、エストニア)
大切なのは、たとえ世界であれ日本の地域であれ、境界線を引かず、「支援する/される」という一方通行の関係を超え、お互いの強みと知恵を活かし合い、未来を育んでいこうとする地域の物語に寄り添い、共に新しい価値を創発する「共創」だと考えています。
日本の地方と途上国には「構造的に同じ課題」が存在する
――一見、遠い存在に見える「国際協力」と「地域活性化」や「地方創生」ですが、これらがつながる本質的な理由や、共通する課題とは何なのでしょうか?
尾﨑さん:
近年、気候変動や人口減少、高齢化といった課題は、いまや先進国も途上国も関係なく、地球全体が同時に直面するものになってきました。
そんな現代において、「どちらかが教える側で、どちらかが学ぶ側」という従来の関係性は、意味を失いつつあると感じます。

復興・地域の明日をデザインするリーダー研修ワークショップの様子(2012年、福島県昭和村)
実際に現場を見渡すと、日本の地方と途上国の農村には、驚くほど多くの共通点が存在します。
人口減少、高齢化、若者の流出、そして地域経済の脆弱性などの構造的課題ですね。
「お金や十分なリソースがないなかで、地域が持つ本来の価値や資源を再発見し、どう工夫してコミュニティの内側からのエネルギーを引き出し、ネットワーキングや協働を通じて、新しい価値や課題解決策を共に探求していくか」
そのプロセスそのものが、日本の地方も途上国の現場も全く同じなのです。
――課題の根本が同じだからこそ、お互いの経験がそのまま参考になるわけですね。
尾﨑さん:
その通りです。共通の課題を抱える当事者同士だからこそ、一方的な「支援」ではなく、互いの知見を照らし合わせて「対等に学び合い、共に新しい価値を創発する(共創)」という新しい関係性が生まれているのではないかと思っています。

ファシリテーターを務めた福島県主催「集落活性化県民討論会」での対話の様子(2012年、福島県)
「外部の視点」が入ることで、地域に眠る本来の魅力が輝き出す。タイと釧路市の事例とは?
――「地域と世界が直接つながり、学び合う」ことで、日本の地方には具体的にどのような新しい価値が生まれるのでしょうか?
尾﨑さん:
私がJICA国際協力推進員(地域のJICA窓口として国際協力と地方をつなぐ役割)として関わった、北海道釧路市の事例をご紹介します。
タイ王国と釧路市、JICAが連携した「国際協力を通じた地方創生(観光振興)プログラム(釧路モデル)」という取り組みです。

釧路市で活躍したタイの初代ボランティア(FFT)(2022年、釧路市)
この取り組みは、私自身が、釧路市役所内に新しく開設された『JICA釧路デスク』の立ち上げに携わったことから本格的にスタートしました。
JICAに加え、釧路市役所、地域連携DMO(観光地域づくり法人)など地域のさまざまな関係者が連携する体制を構築したのです。
ここでJICAは、自治体や地域団体に向けて、日タイの国際協力事業を組み合わせ、複合的パッケージとして提供しました。
| 取り組み | 概要 |
|---|---|
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タイ外務省国際協力局(TICA)による タイ人ボランティア派遣プログラム 「Friends from Thailand(FFT)」を通じたFFTボランティア (国際観光推進員)の受け入れ |
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| JICA海外協力隊グローカルプログラム(派遣前型)の受け入れ |
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| 青年研修「地元資源を活用した産業振興(観光振興)A」の受け入れ |
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この取り組みの結果、釧路市側はタイ向け観光PRやモデルツアー造成、フォロワー20万〜30万人規模のタイのインフルエンサーや現地観光事業者との強固なネットワーク構築といった、実効性の高い成果を得ることができました。
――外国人として初の観光大使!素晴らしい成果ですね。地域にはどのような変化がありましたか?
尾﨑さん:
一連の取組を通じて、タイ側とのチャンネルが強化されたことは、タイからのインバウンド誘致を加速させるためにも大事な成果と言えます。
ただ、このプログラムがもたらした最大の価値は、海外の視点を持つタイ人ボランティアが地域の日常に入ることで、地元の人々が「普段当たり前すぎて気づかなかった、地域独特の文化や自然資源といった強み・コミュニティの温かさ」にこそ、タイ人観光客が真に求めているニーズがあるということに気づき、自分たちの地域が持つ魅力に対する自信や誇りをさらに深めるきっかけになったことだと思います。

釧路市で活躍したタイの初代ボランティア(FFT)(2022年、釧路市)
互いの文脈やアイデンティティーを尊重し合いながら、地域の『内なる力』と世界の知見を掛け合わせ、共に未来の物語を紡ぎ出していくこと。
これこそが、地域と世界が学び合うことで生まれる新しい価値の一つだと感じています。
――世界の視点を受け入れることで日本の地域が活性化した事例ですね。日本の地域活性化の知見が海外へと還元された事例もあるのでしょうか?
尾﨑さん:
はい。実は、この循環(環流)のもう一方の取り組みとして、JICAがタイ内務省コミュニティ開発局と共に推進した「コミュニティ起業家振興プロジェクト(D-HOPE)」があります。
私自身も長期専門家として、このプロジェクトの開始から完了までの4年間携わらせてもらいました。
D-HOPE(地域コミュニティでの地域資源を活用した体験型プログラム形成やプロモーション支援等)アプローチは、日本の地域振興事例(別府温泉博覧会、総社みちくさ小道など)をもとに開発されたアプローチで、タイ国内のバンコクを除く全76県で展開されているコミュニティ体験観光推進政策に導入されました。
住民自身が地域資源を活用した体験型プログラムをデザインし、4年間で約7,700名ものコミュニティ起業家を輩出し、JICAの技術協力プロジェクトとして初のタイ政府アワード(Public Sector Excellence Award 2021)を受賞するまでになりました。
このタイでの活動で培った成果・知見・人的ネットワークを、前述の釧路市での「国際協力を通じた地方創生(観光振興)プログラム(釧路モデル)」の開発へ還元しました。
日本の地方の知見が海外(タイ)の地方を活性化し、そこで磨かれた成果が再び日本の地方(釧路)へと環流していく。
これこそが、国境を超えて対等に学び合い、新しい価値を創発する、双方向の共創・環流の一つの姿だと思うのです。
海外だけじゃない!国内の現場から始まる「グローカルなキャリア」
――「国際協力に関心があるなら、海外に行かなければならない」というイメージもあると感じます。海外だけでなく、日本の地域を舞台にした国際キャリアについてどう思われますか?
尾﨑さん:
「国際協力=海外へ行くこと」に限定して考える必要はないと思っています。
現在は、「地元で働きながら、世界とつながる」「地域の課題を、グローバルな視点で捉えて解決する」「地方から世界の開発協力に関わる」といった、多様なグローカル・キャリアの形が現実になっているからです。

稲刈り後、村のじいちゃんの知恵を聴く様子(2010年、福島県昭和村)
例えば、JICA海外協力隊からの帰国後に国内の「地域おこし協力隊」や「国際協力推進員」として地方に入り活躍する、若い世代やミドル・シニア層が非常に増えているんです。
具体的には、日本の地方で、言語や文化の異なる外国人材の受け入れに携わり、地域のお祭りや防災活動などのコミュニティ活動に彼らを巻き込みながら「多文化共生」の現場を推進していくJICA海外協力隊や海外経験を持つ地域おこし協力隊。
あるいは、JICA研修員(開発途上国の親日外国人材等)と地方自治体等をつなぎ、双方の学び合いを推進するような国際協力推進員の役割ですね。
――地方での経験が、そのまま国際協力のスキルとして磨かれていくわけですね。
尾﨑さん:
その通りです。私自身、日本の地方で、さまざまな関係者と対話しながら事業をつくり上げた経験は、将来再び海外の現場に立ったときにも、何事にも代えがたい大きな強みになりました。
スタート地点が国内であれ、海外であれ、「地域が持つ価値を大きく育てる」という本質的な課題解決や価値創造のサイクルは同じ。
それは途切れることなく双方向に循環し、キャリアを豊かにしてくれるはずですよ。
編集者より
「地球を次の世代へいいカタチでつないでいきたい」という19歳の頃の夢を実現するため、30年近くにわたって国内外をひたむきに走り続けてきた尾﨑さん。
「共創」という言葉には、数々の現場で培われた深い温かさと説得力がありました。
尾﨑さんのように、自分の生き方や暮らし、そして仕事をつなげながら、地域と世界をワクワクさせていくグローカルな生き方は、これからの時代のひとつのロールモデルになるかもしれません。
「自分の経験を地方で生かしてみたい」
「地域と世界のつながりのなかで、新しい働き方を模索したい」
そう感じた方は、PARTNERで「地域活性化」に関わる求人やイベントを探してみてください。
あなたの培ってきたキャリアが、日本のどこかの地域に新しい風を吹き込み、世界とつながる大きな力になるかもしれません。
後編では、尾﨑さんが実際に行っている地域での活動や休日の過ごし方などプライベートな部分を掘り下げます!
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おまけコーナー
尾﨑さんの地方や海外に行くときのマストアイテムをのぞき見
尾﨑さん:
これまでお世話になってきた国内外の様々な土地、そこで暮らす人たちへの感謝とリスペクトの気持ちを大切にしたいと思い、その土地の匂いのする道具を愛用しています。
①②(ワークショップで使用)2種類のベル(28年前にネパールで手に入れたチベタンベルとタイの村のアイスクリーム屋台が愛用するベル)
③(ワークショップで使用)タイマー
④(ワークショップで使用)トーキングスティック(函館の海で見つけた流木)
⑤親友にもらったお守り
⑥タイの薬草油(伝統的な万能オイル)
⑦誕生日プレゼントに妻が手づくりしてくれたアイヌ刺繍入り名刺入れ(自分のモットー“Peace is Every Step”のメッセージ入り)
⑧15年ほど愛用している水筒
⑨(ワークショップで使用)毛糸玉(数々の人を繋いできた糸)
⑩釧路市阿寒湖アイヌコタンで手に入れた手ぬぐい
⑪音楽機器(集中したい時、リラックスしたい時などお決まりの曲あり)
⑫夜間に災害が発生した時にも行動できるヘッドランプ
⑬昭和村でいただいたエコバッグ