• 地域活性化特集 Vol.2

【地方創生×国際協力】地域と世界をつなぐ。
尾﨑さんが歩んだ約30年と、現場の「当事者」であり続ける生き方

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「国際協力で培った経験は、どこで生かせるのだろう?」

Vol.1 では、国内外の現場を約30年間にわたって駆け抜けてきた実践者・尾﨑嘉洋さんに、地域と世界が対等に学び合う新しい関係性の可能性についてお話を伺いました。
人口減少や高齢化など共通課題に向き合うなかで、地域と世界をつなぐ新たな価値創造のヒントが見えてきました。

続くVol.2では、「共創」と「環流」という価値観を育んできた尾﨑さんご自身の歩みとライフスタイルについて伺います!

「国際協力の経験を次にどうつなげよう?」そんな思いを抱く方や、帰国後の新たなキャリアの可能性を探している方にとって、参考になるヒントがたくさん詰まっています。


尾﨑さんプロフィール

JICA多文化共生・国内連携アドバイザー
尾﨑 嘉洋さん

1997年より活動開始。20代はタイやドイツNGO等でコミュニティ開発、国際ボランティア事業、国際協力人材育成等に従事。30代では福島県昭和村や北海道函館市にて、外国人材と協働した地域活性化、コミュニティビジネス、多文化共生等に携わる。40代でタイのコミュニティ起業家振興プロジェクトのJICA長期専門家として活動。帰国後は北海道釧路市にて、地方創生と連動した複合的外国人材受入・多文化共生支援モデルを開発し、自治体等の取組を支援。現在は山梨県小菅村に暮らす。

(こちらもオススメ!)地域が世界とつながり、広がるキャリアの可能性とは?: 『地方から世界へ、世界から地方へ。いま国際協力に求められる、新しい視点とは?』


19歳からの夢と「おばあちゃんのエール」が紡いだキャリア

――20代で海外NGOを経験されたあと、30代で福島県昭和村に移住し、NPOの事務局長に就任されています。活動の舞台を「海外」から「日本の地方」へ移した転機は何だったのでしょうか?


尾﨑さん

尾﨑さん

尾﨑さん:

私は、20代でタイやドイツのNGO活動を経て帰国し、国内の地域活性化の現場に関わるなかで、「地域の多様な担い手や地域資源をつなぎ、地域活性化に向けた内発的な地域コミュニティのエネルギーを引き出す若手コーディネーターが圧倒的に不足している」という課題を知りました。

また、国内の多くの農山村地域では、先人たちが代々大切に受け継ぎ、これからの社会の在り方に対して、多くの学びをもたらしてくれる生きる知恵や暮らしの中で培われてきた手業といった地域が本来持つ多様な価値が人口減少による後継者不足などによって失われつつありました。

そんな折、昭和村役場の方からいただいた「昔ながらの知恵を継承するには、あと5年が勝負だ」という言葉が心に刺さったのです。


学生時代に参加したネパールでの国際ボランティア活動先の村長と共に(1998年、ネパール)


私のすべての原点である、19歳のときに決めた「地球を次の世代へいいカタチでつないでいきたい!」という夢。

その夢を体現するためにも、実際に村で暮らし、失われつつある先人の知恵や想いをまずは自身の五感で体得し、
「ローカルからグローバルを繋ぐグローカルな視野、価値観、ビジョンを育みつつ、身近なところから地球規模までの課題解決や価値創造に取り組んでいける存在になりたい」と思い、福島県昭和村への移住を決意しました。


――福島で地域に根を張りながら約5年間活動された後、北海道函館市での多文化共生の地域づくり活動を経て、40歳でタイのJICA専門家として挑戦されていますよね。地域での実践を重ねるなかで、再び海外で働くことに迷いはありました?

尾﨑さん:

はい。それまで10年近く日本で生活をしてきたこともあって、当然ながら迷いがありました。

ただ、40歳を迎えたとき、がむしゃらに走ってきた約20年の道を振り返り「自分は社会をどれだけ変えられたのだろう」と真摯に向き合ってみたところ、全然できていないことに気が付かされました。

自身の夢を本当の意味で体現するためには、ローカルからグローバルまで多様な世界観やスケールの中でも、自分ができることの幅をもっと広げたい。
そんな想いから、20代の頃に駆け回ったタイの小さな村でのコミュニティ開発の現場とは異なる国づくりの舞台で挑戦をするべく、もう一度海外に行こうと考えたのです。


ドイツNGO青年リーダー養成研修でのファシリテーションの様子(2004年、ドイツ)


実は、学生時代から私の海外NGOでの活動を心配し、当初は反対していた祖母の存在がずっと心にありました。
でも、そんなある時、祖母が悩む私の背中を押してくれたのです。

病床にあった祖母が亡くなる直前、かすれた声しか出ないなか、突然部屋中に響き渡る声で私に「嘉洋、世界に尽くすもよし!思いっきり飛んでいけ!」と力強くエールを贈ってくれたのです。

私の葛藤を、もしかしたらすべて見透かしていたのかもしれません。
その一言も後押しとなって、JICA専門家としてタイへ赴き、帰国後の釧路での挑戦へとつながっていきました。
数々の失敗を糧に挑戦し続けてきたからこそ、すべての経験が人生の一本の道としてつながったのだと感じています。

地道な「お茶飲み」から始まる。現場主義の考え方

――尾﨑さんはこれまで、国内外の様々な土地でプロジェクトを推進されてきました。これまで関わったことがないような新しい土地に入ったとき、尾﨑さんはまずどのような行動からスタートされるのでしょうか?

尾﨑さん:

何よりもまず「挨拶」を交わすことを楽しむことですね。
人となりを知ってもらうことは、日本の地方でも途上国でも、すべての信頼関係の土台になります。

そのうえで「歩く・見る・聴く」を愚直に実践してきました。
自分の足で歩き、地形や水利を体感し、家屋の特徴、森や田畑の作物などをよく観察することで、季節の変化や行事、風土に沿った暮らしについて想像を膨らませることを大切にしています。

さらに重要なのが、日々の何気ない雑談を通じて、老若男女様々な人生の物語にじっくり耳を傾け、その地域で暮らす人々のアイデンティティ、大切にしている価値、コミュニティの関係性、大事にしている地域の文脈などを掴むことを心掛けています。

昭和村に移住した最初の1年は、村のおじいちゃん、おばあちゃんたちとの「お茶飲み」に多くの時間を費やしました。
昭和村では「お茶1杯では帰れない」とよく言われるほど、お茶を囲んだ語らいの時間が大切にされています。
2杯3杯と重ねる世間話や雑談のなかにこそ、何代も受け継がれてきた土地の歴史や暮らしの知恵が詰まっていたのです。


――お茶飲みのなかにこそ、地域の本質があったのですね!

尾﨑さん:

まさにその通りです!
机のうえで計画を立てるのではなく、地道に現場を歩き、人々と対話し、土地の文脈を五感で吸収する。
このプロセスは、顔の見える関係性、自分事が重なり合う信頼関係を築くために大切な時間であると感じています。

コロナ禍の大きな壁を「希望を分かち合う対話」で乗り越えた

――立場や文化の異なる人々を巻き込むなかでは、多くの「壁」にぶつかると思います。特に印象的だった試練は何でしょうか?

尾﨑さん:

タイで推進した「コミュニティ起業家振興プロジェクト(D-HOPE)」は、タイ政府からJICA技術協力プロジェクト初のアワードを受賞する成果を収めましたが、直面した大きな壁が「コロナ禍」でした。

対面での観光や交流が絶たれ、現場に行けない苦境が続きました。
そんななか、「誰のために、何のために、これをやっているのか」という初心に立ち返り、3つのアクションを起こしました。


タイ政府からの授賞式にてJICAタイ事務所長らと集合写真(2021年、タイ)


1つ目は、プロジェクトを通じてタイの農山漁村で輩出してきたコミュニティ起業家と在タイ日系旅行会社をつなぐためにオンラインモニターツアーを実施したこと。

2つ目は、日本の旅行会社のタイランド法人と連携し、コミュニティ起業家が村を舞台に提供する「バーチャルホームステイ体験」などの販売チャンネルの構築支援。

3つ目は、大学など日本の教育機関とコミュニティ起業家の連携により、コロナ禍で移動ができない日本の大学生等向けに、村の地域資源を活用した体験型プログラムをオンラインで提供する「オンラインスタディツアー」の形成支援でした。
あるプログラムでは体験材料を日本へ事前に郵送し、コミュニティ起業家と一緒に村の伝統細工をオンライン上で実際に作る挑戦を行い、まるで現地にいる感覚を共有することができました。


――材料をあらかじめ日本へ送って体験してもらうなど、創意工夫で壁を超えられたのですね!その原動力はなんだったのでしょうか?

尾﨑さん:

それはやはり、「観光客が途絶えて困っているコミュニティ起業家たちのために、今自分たちに何ができるだろう」と、日本の関係者や現地の起業家たちが何度も膝を突き合わせて重ねた「希望を分かち合う対話」だと思います。
そして、逆境の中でも、その対話から生まれた「共感」を土台に、それぞれができる役割を見出していきました。
自らの手で新たな物語を共に創り出していこうとする、そんな意志のつながりなのだと感じています。

どんなに大きな壁や制度の限界に直面しても、事態を動かす肝となるのはツールではなく、そうした「希望を分かち合う対話」を通じて生まれる「共感」なのだと思います。
その「共感」に基づいて新たな物語を共に創り出していこうとする人々の意志こそが重要なのだと、この試練を通じて改めて確信しました。

困難な状況のなかでも、相手を想い、互いの物語に伴走し続けたからこそ、国境を超えた新しい共創の絆が生まれたのだと思います。

仕事と暮らしを滑らかに融合させる生き方、「ワーク・ライフ・インテグレーション」

――仕事とプライベートのバランスについて、尾﨑さんはどのように捉えていらっしゃいますか?

尾﨑さん:

このバランスは、私にとって正解のない永遠のテーマですが…。

最近は、時間で切り離す「ワーク・ライフ・バランス」ではなく、両者が滑らかに融合する「ワーク・ライフ・インテグレーション」という感覚が大切ではないかと考えています。

19歳の頃からパンクミュージックが好きだったこともあり、30代の10年間は毎年、フジロックフェスティバルの「NGO VILLAGE」の幹事をしていました。
多様なNGOの活動発信とともに、「自分たちの社会の希望は自分たちで創るんだ」という情熱と行動が、出展者や来場者という垣根を超えて繋がる場づくりを担ってきました。


フジロック「NGO VILLAGE」運営メンバー集合写真(2016年、FUJI ROCK FESTIVAL)


また、福島県昭和村で初めて加入して以来、消防団活動も大切にしていて、現在暮らす人口600人ほどの山梨県小菅村でも地元の消防団に加入しています。
火事や災害の現場に向き合ってきた地域の先輩方から、「自らの郷土は自ら守る」という全国共通である消防団精神を教わり、強い感銘を受けました。


――消防団の精神が、国際協力の当事者意識と重なるのですね。

尾﨑さん:

その通りです。
また妻も現在、小菅村の地域おこし協力隊として、「村まるごとようちえん」をコンセプトに、16世帯の集落全体を園舎・園庭と見立てた地域協働型の保育・子育て支援・共創人口創出事業を推進しています。
3年目となる今年、自ら起業し、さらなる取組を展開させています。
かつて新婚当時に、北海道でアイヌ文化を学ぶため現地で1年間住み込んだこともあるような、アクティブなパートナーです。


小菅村消防団出初式の朝(2026年、山梨県小菅村)

小菅村消防団出初式の朝(2026年、山梨県小菅村)


プライベートでの家族との時間や気づき、人・地域・自然とのつながりが仕事の糧になり、仕事で培った実行力や姿勢が地域の暮らしに還元される。
一回しかない私たちの人生の中で、そのようにワークとライフが自然な形で重なり合い、そうした場面が少しずつ増えていくことは、人生をアクティブに楽しむ秘訣なのではないかと思っています。

正解を持ち込むのではなく、地域の文脈に沿って「編集し直す」

――最後に、これまで培った経験を生かして地域活性化や地方創生に挑戦したい読者へメッセージをお願いします。

尾﨑さん:

これまで様々な組織や現場でキャリアを積んでこられた皆さんの真の強みは、単なる専門知識だけではありません。
複雑な状況の中で課題を見出し、多様な人と対話を重ねて物事を形にしてきた「プロセスを動かす力」や「人間力」にこそ価値があると思っています。


キャリアの出発点となった南タイの村に立つ小道標識「SAI GREENWAY」


ぜひ大切にしていただきたいのは、自分の知識や経験を「正解」としてそのまま持ち込むのではなく、地域の文脈(歴史、文化、人々の思い)や暮らしの知恵をリスペクトし、ご自身のスキルを地域に掛け合わせて「編集し直す」という柔軟な感覚です。
また、地域の物語に寄り添い、共に悩み、共に歩み、共に新しい価値や課題解決策を探求することを楽しむ姿勢を持ってもらえたら、と伝えたいです。

最初から大きな決断をする必要はありません。
まずは一人の生活者として、その地域の人々に寄り添い、同じ目線で共に歩くことから始めてみてください。
土地の文脈を五感で吸収し、その現場のリアルな問いに触れるなかで、ご自身の経験やスキルといった引き出しがどのように役立つかは自然と見えてくるはずです。

これまでの歩みで培われた経験やスキルは、地域に新しい風を吹き込む力になるでしょう。
完璧な正解を出そうとせず、地域の人々と共に未来を育む「物語」の作り手としての第一歩を、ぜひ軽やかに踏み出してみてください。

編集者より

タイでも、昭和村でも、釧路でも、まず挨拶をして、歩いて、見て、話を聴いてきた尾﨑さん。
豊富な経験を持つ実践者であっても、現場では常に一人の生活者として地域と向き合う。その姿勢が印象的でした。

専門性を「正解」として持ち込むのではなく、その地域の文脈に合わせて編集し直す。
そうすることで、これまで培ってきた経験や知見が、新たな価値の創出や思いがけないキャリアの可能性へとつながるのではないでしょうか。

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おまけコーナー

尾﨑さんが考える「地域と世界をつなぐために必要な7つのチカラ」とは?


タイD-HOPEプロジェクトで4年間苦楽を共にしたタイ内務省コミュニティ開発局スタッフと受賞を祝う(2021年、タイ)

尾﨑さん:

①異文化理解・異文化コミュニケーション
②多様な人たちとつながるチカラ
(例、チーム形成力、自己・他者理解力、伝達力、アクティブ・リスニング等)
③安心できる場をつくるチカラ
(例、危機回避力、場の雰囲気を読む力、笑いを生み出す力等)
④課題を見つけ、解決するチカラ
(例、課題設定力、状況判断力、情報収集力等)
⑤チームをまとめるチカラ
(例、リーダーシップ、メンバー動機付け、ビジョン形成、対立解決力等)
⑥活動を推進するチカラ
(例、実行力、企画提案力等)
⑦新しい価値や共感を生み出すチカラ
(例、発想力、物語力、時代を読む力等)

これらの力は、国際協力の現場だけでなく、地域や普段の仕事、日常生活の中でも少しずつ磨くことができます。
ぜひ、ご自身のキャリアや活動を考える際のヒントとして参考にしてみてください!




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地方から世界へ、世界から地方へ。いま国際協力に求められる、新しい視点とは?

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